テラーノベル
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互いの体温を分け合うように密着していたが、 もう肌寒い季節だ。さすがにそろそろ体の芯から冷えはじめ、限界が近い。ほんとはこのまま背中や頭や、ずっと撫でてやりたい所だが、このままでは確実に風邪をひく。
そっとスズカの体から手を放し、その手をとった。
「よし、スズカ、お風呂入ろ。寒いでしょ。」
泣きはらして赤くなった目をゆっくりとこちらに向けて、コクリとうなずいた。
そのまま手をひいて、脱衣所に連れていく。
「服用意しとくから。先入っちゃいな。」
そう言って出ていこうとすると、体がカクンと後ろに引かれた。何かと思ってふり返ると、スズカが俺の服の裾をつかんでいた。
「…?どうしたの?」
スズカが俺の耳に顔をよせる。
「一緒に入って。」
泣いた後の少し鼻声でガサガサの声だった。囁くような声だったけど、俺の耳にはしっかりと聞こえた。
かっかっかっ、かわいっ!!
「ぅぐう…いいよ、入ろっか。」
スズカが両手を俺の方へ伸ばす。どうやら脱がせろということらしい。
いや全然いいけども、むしろめっちゃうれしいですけども、…本当にいいんですか!?
少し恐る恐るスズカの体に手をのばし、脱がしはじめた、が、
いや、めちゃめちゃむずくないか、これ。
スズカが今着てるのは、昨日の夜着ていたものと同じもので、まるでどこかの陰陽師ような、明るい装飾のついた服だ。着物と同じ要領でいけば帯があると思うけど…。
あ、このひもか?いや違うな、こっちでも…ない。ええ?脱がせるとこある?てか、あんま引っぱったら装飾とれちゃいそうで怖いんだけど、
「う~ん?…」
こうしている間にもスズカの体が冷えてしま う。急ぎたいけどわからなすぎる。
スズカは、難しい顔であっちやこっちやと触りまくる俺の頬を掴んで、
ーーそこに唇をくっつけた。
冷たい唇だった。 そして俺の耳もとで、ありがとうとかすれた声で言い、スルスルと服を脱ぎはじめた。
俺は自分の顔に熱がたまっていくのを感じながら、段々と肌を露わにしていくスズカをあっけにとられて見つめていた。
ほう、としている間にスズカはもう脱き終えてしまったようで、それを見て慌てて俺も準備を始める。
ぱっとニ人分のトレーナーだけとってすぐに後を追った。
普通のお風呂よりも少し大きいかな、というくらいの湯船。 大人二人が一緒に入ってせまくないはずがなく、お互いくっつき合いながら浸かる。
雨で冷えていたせいか、いつも以上に温かいお湯が体にしみる。スズカは、長い髪を湯につけながら、膝を丸めて俺の足の間に抑まっている。
白いなめらかななで肩がきれいで、髪のすき間からのぞいているうなじに何度かやられそうになった。
…まずい、これはひじょー、っに、まずい。
もう少しで俺の理性は崩壊する…!
だって考えてみろよ、片想い中の人にそっくりな子が、雨に濡れて抱きついてきて、俺の腕の中で泣いて、
あげくの果てには、泣き疲れてぼーっとしてるその子を洗ってあげて…スベスベの肌に触って…
その顔はお風呂の蒸気でちょっと赤らんでて? 声もあんまり出なくなっちゃったから話すたび耳元に顔近づけて?
…これは俺を殺しにかかっている。
も~、かわいい…!!
フヨフヨと漂っている髪を触り始める。 今の涼ちゃんと同じ色だけど…染めてんのかな?
と、その時、髪の間からキラリと光るものが見えた。そっと髪をかき分けて見てみると、それは何かの石のようでまるで背中に埋めこまれているみたいだった。手探りに触ると親指くらいの大きさで、指が当たって爪がコツ、と鳴った。
「それさ、区別するためのやつなんだよ。」あっちを向いたまま、スズカが言った。少し声が出るようになったらしいが、まだカサカサだ。
「昔、片割れ同士が入れ替わっちゃったことがあって。それから俺らには印がつけられてるの。アオキは首元辺りにある。」
スズカが立ち上がると、その石はよりはっきりと見えるようになった。その石は透き通るような翠色だった。
「…あつ、もう出ようよ、ひろと。」
確かにもうまあまあ長い時間入っている。のぼせてしまいそうだ。
「お風呂って初めて入った。」
そう呟くスズカに、冷えないようにバスタオルをかぶせて、俺自身もぱぱっと拭き終えて着替えた。その後にすぐスズカに服を着せていく。
朝も手伝ったから、何となく着せてあげてしまった。
今まで豪華絢爛な服だったから、俺のザ、部屋着! みたいなトレーナーを着ているとギャップがすごい。
あ、ちょっとでかかったかも。まいっか。
「さっきの印、さ、」
スズカが少し下と見ながら呟く。
「…俺にあって、スズカにない、唯一のものなんだ。
だから、…覚えてて、ひろと。俺が生きてた、証だから。」
その言葉に鼻の奥がツンとなって、涙があふれた。もう涙腺が馬鹿になったらしい。スズカがバスタオルで、ポンポンと俺の頬の涙を拭く。その顔は困ってしまったような笑顔が浮かんでいた。
そんなこと、言ってほしくなかった。俺の前からいなくなるなんて、自分は何も残せないなんて、言ってほしくなかった。
「俺がいなくなっても、りょうかが幸せならそれでいい。 りょうかが幸せになるためなら、俺は喜んで消えてやる。
…俺は報いを受けなきゃいけない。アオキをあんな風に変えてしまった報いを。」
スズカが目を閉じる。
「昔アオキは、ほんとにもときそっくりだった。寂しがりやで甘え上手で、そして目を離してるうちに壊れてしまいそうな儚さがあった。
アオキに告白されたとき、ほんとに泣くほどうれしかった。そりゃ危ない仕事が多いから、毎日会えるわけじゃないけど、それでも幸せだった。」
「でもある日、俺が久しぶりに、1ヶ月ぶりくらいかな、アオキに会うと、アオキは人が変わったように、まるで別の人が入ってしまったかのようになった。
その夜初めてひどく抱かれた。痛かったし怖くて、涙が止まらなかった。俺の涙を拭う手は、いつも通り優しくてあったかいのに。
それからアオキは、人間を滅ぼしてやると言った。 俺達はこんなに日々命をすりへらしているのに、なんで人間ばかりが幸せなんだ、って。
…俺は最初正直それでもいいかなって思った。別に人間のことが好きだったわけじゃないし、アオキの言うことも尤もだって思ったから。
でも、前からちょくちょく気になって、見にきていたりょうかが、あまりに綺麗な人だったから、
だから止めようとした、けど失敗しちゃって。アオキから逃げながら、かなり疲れて術も使えそうになかったから、誰か片割れの人がいないか探して、もときの所に行き着いた。
でももときの顔を見てると、嫌でもアオキがそばにいて、もう戻れないのに過去を見ているようで、辛かった。苦しかった。…だから、名前を聞かれた時、ほんとの名前を伝えなかった。そんなの耐えられそうになかったから。
同時に、少し不器用だけど、りょうかのことを何よりも愛しているもときが、愛おしくて。
もときと、りょうかと、それにひろとのためなら俺、死んでもいいと思っちゃった。だから俺、明日アオキと一緒に死のうと思う。それが一番確実にアオキを殺せる。
アオキがなぜああなってしまったかは分からないけど…、俺がもっと早くに気づいていれば、間に合っていれば、もしかしたら今もアオキのままだったかもしれない。だからこそ、アオキを一人では死なせられない、 俺も一緒に死ぬ。どうせならみんなのために死ぬ。
俺達は人間と違って、死んだら塵になっていくから。俺達のことは忘れて、みんな幸せになってくれるといいな。
ごめんね、ありがとう。ひろと。俺のために泣いてくれて。ひろとと会えて、俺幸せだった。」
スズカがまっすぐに俺を見つめる。その顔には先刻までの弱々しい姿なんてなく、その目はもう覚悟は決まってしまったと示していた。
「っ…ずるいよ、そんなの…俺スズカに死んでほしくなんてないのに、そんなこと言われたら止められなくなっちゃう。もっと大切にしたいのに、もっと一緒にいたかったのに…」
俺が泣いたても仕方ないと分かっていても、止まらない涙がポタポタとフローリングの床に落ちていった。
スズカはそんな俺の頬を包みこんで、 涙をぬぐいながら、また 頬に優しいキスを落とした。
「だいすきだよ、ひろと。どうかひろとに、幸せが訪れますように…。
ほら、湿っぽい話は飽きちゃった。
もっと幸せな、未来の話をしよう?」
スズカがふわりと笑った。
涙でグチャグチャで、きっと今汚い顔をしてるけど、それでも口角を引き上げた。どうせなら笑っていたかった。
こんなに素敵な人との別れに、泣いていてはもったいない。
「いいね、それ。」
「最後だからさ、…俺のほんとの名前、呼んでくれる?まあ、ほとんど変わんないんだけどね。」
「何て言うの?」
「スズ。りょうかと全く似てないけど。」
「スズ…スズ、かあ、綺麗、すごく似合う。」
「…もっと呼んで、」
「スズ、俺も大好きだよ、スズ。」
たくさんの幸せな話をした。涼ちゃんと元貴の結婚式の話とか。そうなれば俺たちで友人スピーチしたいねって。ギターも引っ張り出してきて、余興に演奏するお祝いの曲なんか作ったりして、
俺がギターでスズがピアノと歌。涼ちゃんと一緒で弾けるんだって。
スズが、その日だけは神様に頼み込んで、一日だけでも生き返らせてもらうって言った。そして俺と一緒にお祝いの曲を涼ちゃんと元貴にプレゼントするんだ。涼ちゃんは絶対泣くだろうな。元貴もなんだかんだ言いつつ嬉しそうで、
皆んな笑顔で、幸せそうで、
そんな幸せが、やってくるといいな。
翌日、元貴が家に来た。
なんだか、長くなってしまった😣
もうすぐ最終話でしょうか…?
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