テラーノベル
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元貴はスズを目にとめた瞬間、鬼気せまるような、恐ろしい顔をした。
「…っ!若井、危ない離れろ!」
元貴のあまりの剣幕に、俺は尻込みした。
スズは取り乱す元貴に近づいていくと無理やり目を合わせ、その時二人の身体が緑色に輝いた。
「出てこい、アオキ…!」
そう言うと二人の瞳が一層輝き、次の瞬間、
ーーズルリ、と涼ちゃんと、元貴にそっくりのアオキらしきものがでてきた。三人は折り重なるようにして倒れている。
「は!?、え?どうなってんだ…これ…」
目の前のことが信じられず、困惑の声が出る。
「もときにかけられたアオキの術から無理やりアオキをこっちに呼んだ。その時アオキと繋がってしまっていたりょうかも、ついてきてしまったみたい。」
肩で息をしているスズがそう説明した。
嘘だろ、元貴も術にかけられてたのかよ…だからか?あんなに感情的になってたのは、
アオキがゆらりと立ち上がる。そしてスズを見つけるとにやりと笑った。
「あいかわらず術が上手だなぁ、スズカ。」
「早くりょうかから離れて、場所を変えよう。」
「それはできないよ。だって大事な人質じゃないか。」
「っ…!」
「ほら行こう、俺らが最初にこっちに出てきた場所ね。ただし、もときとりょうかも連れてきてね。早くついてこないと殺しちゃうよ。」
アオキが元貴を抱えながら、部屋を出ていく。その様子を唇をかみしめながら見つめていたスズが、俺の方を向いた。
「…ごめん、ひろと。一緒に、きてくれる?…りょうかを、守ってあげてほしい。」
気を失って倒れている涼ちゃんを抱えながら
「任せろ」
と覚悟を決めて言った。
「…ありがとう。絶対もときも無事に取りかえしてみせるから。」
部屋を出て、鍵をしめる。なぜか怖い感じはしなかった。
「よし、行くよ。」
そう言うが早いか、涼ちゃんと、俺とスズの体は宙にフワリと浮いた。
突然のことにバランスを崩しそうになりながらも、後ろに抱えた涼ちゃんを強く掴んでふんばった。
俺と涼ちゃんとスズの体は光の膜に包まれたかと思うと、知らない山の中に出てきた。
「どこだ、ここ…」
「ここはちょっと離れた山の中。俺たちがいた世界につながるワープでもある所。」
向こうから元貴をつれたアオキが姿を現す。
「アオキ、もときをこっちに返して。もうこれ以上、ひろとたちに迷惑かけるな。俺と一緒に帰ろう?」
「、面白いことを言うね、スズカ。俺が人を殺すことに納得してくれたじゃないか。」
「うん、そう…、そうだね。」
「…俺もずっとりょうかが羨ましかった。いっそ憎めたらよかったのに、…やっぱだめだった。りょうかが幸せそうに笑ってると俺も幸せになるんだ。
努力家でちょっと抜けてて、人の心に敏感で、涙もろくて、
…誰よりも元貴とひろとのことを愛して、愛されてる。
そういう俺にはない所が、たまらなく愛おしくてね、こんな美しい人のために死ねるなら本望だなって、思ったんだよ。」
「…くだらないね、」
アオキが軽くため息をつく。
「どうしても分かってくれないんだね、スズカ。あんなに愛していたのに、残念だ。」
スズの顔が少しだけ苦しそうになった。
「俺はもときが嫌いだ。スズと苦しめる人間が嫌いだ。俺たちよりもたくさんのものを持ってるくせに、浅ましくもまるで自分が一番辛いかのような顔をする。
もときだって、俺と全く同じだった。声も顔も性格も、なのにどうして俺ばかりが奪われなきゃいけないんだ?」
アオキがすっと右手を上げると、背中の涼ちゃんが悲鳴を上げ、身をよじった。
「涼ちゃん!?」
そっと背から下ろして、背中を支えながら座らせた。涼ちゃんは白い肌をさらに青白くさせながら、心臓のあたりを抑えて苦しそうにもだえている。
どうしたらいいのかわからず、混乱する。
嘘、どうしよう涼ちゃんが死んじゃう?いやだ、くそ、死なないで!涼ちゃん、!
胸を抑えている涼ちゃんの手に自分の手を重ね、必死に握りしめるが、涼ちゃんは苦しみ続けている。
「ほらもとき、愛しいりょうかが苦しんでるよ?スズカを、殺しにいかなきゃ、でしょ?」
アオキが語り掛けた瞬間、気を失っていた元貴の目がかっと見開かれた。
「涼ちゃん…?りょ、ちゃ…」
「ほら、ちゃんと持って、」
アオキが元貴の手に刃物を握らせる。
そして、先刻までの笑みをひっこめて、凍るような表情で言った。
「スズカを、殺せ。」
元貴の目は虚ろで、たよりない足どりでこちらに向ってくる。
「もときのことは殺せないだろ?スズカ。だって、りょうかの大切な人だもんな?」
…あの野郎…!!元貴にスズを殺させるつもりだ…くそ、術は解けたんじゃなかったのかよ!
どうする、どうする?どうしたら元貴を止められる…!
涼ちゃんの手を握りしめながら、頭を必死にまわして考える。と、その時スズがこちらを見ていることに気がついた。その瞬間、昨日のスズの言葉がよみがえり、目線の意味を、理解した。
「くそ…やっぱやるしかないのかよ、」
「ごめんね、ひろと。約束、守るから。ちゃんとりょうかを守ってあげてね。」
フラフラと元貴が近づいてくる。その手には刃物が握られていて、目はしっかりとスズをとらえている。
スズが元貴に近づいていく。元貴が刃物をスズにつき刺す。
そしてスズはそのまま、元貴を抱きしめた。
「も、とき。大丈夫、りょうかは無事だよ。もう大丈夫だから、もう怒らなくていいんだよ。巻き込んじゃって、ごめんね、もとき。
…りょうかを、幸せにするんだよ。」
そう言うと二人は光り出し、光が消えると、元貴はスズの腕の中で眠っていた。先刻までのあふれ出していた怒りや不安、黒い感情はどこにもなくその姿はまるで子供ように安らかだった。
たぶんスズが術を解いてくれたんだろう。
涼ちゃんの痛みも収まったようで、苦しそうな顔が柔らかく緩んだ。
でも、でも…。
元貴をそっと置いたスズのお腹からは血がにじみ出していて、度重なる術で疲弊しきっている。
ゆっくりとアオキに近づいていく。アオキの表情は読みとれない。
…きっと、もうすぐ、なんだろう。
元貴をこちらに引きよせる。
それを確認した後に、スズが軽く腕を上げた。
一一すると音もなく、静かにアオキから炎が上がった。予想外だったのか、アオキの目が見開かれる。
「昨日、アオキと戦うことになって、殺さなきゃいけなくなった時のために、罠をしかけておいたんだ。たぶんこの場所をアオキは言うだろうと思って。ほんとは使いたくなんてなかったけど。」
炎から逃れようとして走り出したアオキの手を掴み、スズはその体を抱きよせた。
アオキからスズに炎が燃え広がっていく。
「や、めろ!離せ!」
「大丈夫だよ、アオキ、俺も一緒に死ぬから。」
「…だめだ、お願い離して、スズまで燃える!」
「いいよ、一緒に神様に、謝りにいこうね。」
アオキは何か言おうと口を開いたが、そのまま力なく下を向いた。一瞬、アオキの顔が炎に照らされて泣きそうな顔に見えた。…炎はアオキの、悪の部分まで燃やし尽くしてくれているのだろうか。
「っ…ごめん、ごめんなさい、俺、スズを幸せにしたかったはずなのに…」
「うん、…だいじょーぶ、またやり直せるよ。」
炎がアオキを包み込み、もうほとんど炭になってしまった。
「ごめんなさい、スズ、りょうか、もとき、ひろと…」
ふっと風が吹き、アオキの体が散った。
スズの体ももう、ほとんど覆われてしまっでいる。
と、その時
「…ぅ…わかい…?」
意識が完全に戻ったらしい涼ちゃんが、目を開いてこちらを見ていた。
「あれ、僕病院に…?ここどこ?
…君は、だれ?あれ?ゆめ…?」
そして涼ちゃんの目はスズの方へ移っていった。スズも声に気づいて涼ちゃんの方を見ている。
「ぼ、く?、ぼくに、そっくり…」
スズが涼ちゃんを見て薄くほほえむ。声にはならなかったが、口が少し動いて、そして次の瞬間、灰になった。
それから一つまばたきをすると、俺達は元の俺の部屋にかえってきていた。
今まで見てきたことが、あまりにも現実離れしすぎて、しばらくの間ぼうぜんと宙を見つめていた。
しばしの沈黙の後、涼ちゃんのもらす嗚咽にはっと我に帰った。隣を見ると、涼ちゃんが左右の瞳から大粒の涙を次から次へと流して、泣きじゃくっていた。その姿を見た途端、どっと感情が心の底から溢れ出してくる感じがして、目から涙が溢れ出た。それは全く止まる気配を見せず、俺も涼ちゃんもまるで小さな子供のように、泣きじゃくった。
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