「…ん?」
後ろの方から何かガサガサと物音がしたため、岸は振り返った。
けれど後ろには何も…見えない。
「風か何かで草が揺れたんだろう、多分…」
再び岸が歩き始めようとした瞬間…
「そうはさせないわよ」
「!!」
今度は明らかに女性の声がしたため岸はぱっと振り返った。するとかすかに、真っ暗の先から女性が見えた気がした。
誰かいる、と確実に察知した岸は戦闘体制に入る。
「あらあら。随分と感が鋭いのね。…久しぶり、といってもあなたは覚えてるかしら?私のこと」
ぱっと蝋燭に明かりがつき、彼女の顔が見えた。
「…!どこかでみたような気が…うーん…いつだったか…」
岸は頭を抱えてうーんと唸った。
「覚えてない?残念だわぁ…私、イポクリジーア魔法科教官の木葉」
「…あ!あのときの!学校で潜入してたときの…お前か…」
「そうそう。あのときはよく戦えなかったけど…そっちの実力、試させてもらうわよ?」
「…あっそ。でも相性最悪だね私たち。私はゴリゴリの戦闘系。魔法もあんまり使わないし。逆にそっちは魔法科。しかも教官かよ…」
「残念だったわね〜。ふふふ〜」
「…まるで他人事。あんた、トロそうなフリしてやばいように私は見えるんだけど」
「まあいいわ。すぐに片付けてあげる」
「…」
木葉はにこりと微笑む。そんな彼女をきっと睨みつけ、岸はまっすぐ走って木葉に近づこうとする。
「攻撃が素直な子ね。…嫌いじゃないわ。植物魔法〈ピアンタ〉」
「!!」
木葉がさっと薔薇を目の前に出し、棘が当たった岸はよろめきながら後退りする。
「いや相変わらず趣味悪い…なぁ。イポクリジーアは。嫌な呪文の魔法を使ってくる…」
「それが何か?…あぁ、植物はやっぱり美しいわよねぇ…」
「綺麗なものには棘がある?なーんて…」
痛みで言葉が切れかける岸を横目に見、木葉はとどめを刺そうと一歩近づく。
岸は歯を食いしばり、立ち上がる。
「…やっぱりトロそうに見える足取り…ほんとにトロいのかいっちょ試して…えいっ!」
岸は隠し持っていたナイフを木葉に投げつける。
見事直撃するかと思ったナイフは次の瞬間、ぱきんと粉々になり地面に散乱する。
「…やっぱフリ…か…」
「さぁ?それは私の同僚に聞かないとわからないかもしれないわね、ふふ…あぁ、このナイフでとどめを刺せばよかったかしらね…いや、もう粉々にしちゃったからいいか」
「…刃物魔法〈シュヴェールト〉」
「!」
いきなり刃物に囲まれた木葉は道を塞がれた。
「…言っておくけどさっきの薔薇の棘…毒があるのよね…あなた、出血も多いし…助からないんじゃないかしら?」
「うるさい。別にどうでも良い。お前を殺せれば、それ、で…」
パリンと刃物が全て粉々に砕け散り、消え去った。
岸は静かに目を閉じた。
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