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「ライさん!」
ズボンが泥で汚れていて、顔には土がついている。
「建築の他に畑作業もしていたんですか?」
「そんな感じ。今日は早朝から畑作業をしていたんだ。
セツナがあれもこれも頼むから大変で……。
万能な臣下に近づいている気がする」
「建築に農業……。
色んなことができてすごいですね」
「褒めてもかけらがうちの国に勝手に入ってきたことは忘れないから」
「それは私が悪かったので、許してもらえなくても仕方ないって思ってます」
「ふーん。……でも、無事に帰ってきてよかった」
ライさんは視線を逸して照れくさそうに頬を掻く。
私のことを心配してくれていたのかな。
心の中で静かに喜んでいると、また誰かが近づいてくる。
「かけら様……」
コツコツっと杖をついて歩いてきたのは、白い髪と髭が目立つ老人。
グリーンホライズンで出会ったジイさんだった。
「ジイさん……!? どうしてここに……」
「かけらもジイさんのことを知ってるんだ」
「……ということは、ライさんも知ってるの?」
「ジイさんは、この農場の先生。
畑の作り方や野菜の育て方を皆に教えている。
クレヴェンの人たちにも色んなことを教えてくれているんだ」
いつの間にか、ふたりが知り合いになっていて驚く。
レトに視線を向けると微笑んで頷いてくれた。
今では、この様子が普通なんだろう。
「我が国……、いや、世界の平和のために行動されていたんですな。
それをレト様やセツナ様からお聞きしました。感謝いたします。
ワシらがかけら様に無礼をしたことをお許しください」
「気にしないでください。
ジイさんが家に泊めてくれたおかげで、今があるんですから」
「恐れ多いです。
今では、かけら様のこと女神樣だと思っておりますので」
女神樣だと言われてこっちの方が恐れ多くなる。
大きな畑をいくつか見たあと、湖の周辺に戻った。
再びレトが案内してくれる。
クレヴェンだけではなく、グリーンホライズン側にも平屋が数軒建っていて大きく発展していた。
「隙間風が入ってこなさそうな家だね」
「もしかして、ジイの家のことを思い出した?」
「いやいや、そういうわけじゃ……」
「かけらは、ライさんの家を建てる手伝いをしたよね。
その時の技術を活かしてるんだ。
この場所から発展していけば、グリーンホライズンの民も前よりもずっと安心できる家に住める。
生活が豊かになる未来が見えてきたよ」
レトが望んでいる未来へ向かって変わっていく。
嬉しい報告を聞いて口元が緩む。
周囲を見ながら歩いた時、凹んでいる地面に気づけなくて転びそうになる。
「うわっ……!?」
「かけら!」
倒れる前にレトが私の体をしっかりと支えてくれた。
抱きしめるように触れられて鼓動が早くなる。
私を容易く支えるほど力が強い。
離れる前より更に逞しくなっている気がした。
「大丈夫かい?」
「ありがとう、レト。助かったよ。
一瞬で判断して動けてすごいね」
「かけらがスノーアッシュに連れて行かれたあと、守れなかったことに後悔してさ。
毎日、セツナと特訓していたんだ。
その成果を出せたかな」
「忙しい毎日を送っていたんだね」
「僕らは立ち止まっていられないから。
……さて、見学の続きをしようか。
スノーアッシュから帰ってきて疲れているだろうし、次で最後にするよ」
確かに、まだ大丈夫っとは言えない状態だ。
地下の部屋にいた時は運動をしていなかった。
久しぶりに体を動かしたから、ふくらはぎや足の裏が痛くなっている。
でも、開拓が進んでいるこの場所を見ているのが楽しくて、つらいとは思わなかった。
最後に案内してくれるのはどこだろう。
レトに案内されて行った場所は、湖の傍にある小さな家だった。
「湖の前にも建てたんだね。別荘みたい」
「かけらは他の世界から来たから、この世界では住むところがないんだよね」
「うん……。帰る場所がなくて……」
「これはセツナと話し合って決めたことなんだけどさ……。
びっくりすると思う」
「なっ、なに……?」
「グリーンホライズンとクレヴェンの国境を跨ぐところにかけらの家を建てたんだ」
小さな家の前にレトが立ち、満面な笑みをして両手を広げて披露する。
白く塗られた木材で作られている可愛い平屋。
見た目は、私が前にいた世界の木造の家にそっくりだ。
とても素敵だけど、建っている場所が二つの国の間で荷が重すぎる……。
でも私のために建ててくれたのだから素直に喜びたい。
「ウッドデッキもあるから、いつでもゆっくりと湖を眺められるよ。
とりあえず、中に入ってみて」
自信満々にそう言ったレトはドアを開ける。
先に入るように誘導されて小さな家に入った。
「お邪魔します。わぁー……!」
室内には生活で必要な家具とベッドが置いてあった。
そして、パステルピンクのラグも敷いてある。
マカロンのような見た目のクッション、化粧台、小さな棚もあってお洒落だ。
しかも、白い花まで飾ってくれている。
どうやら白とパステルピンクに色が統一された部屋のようだ。
「家具も素敵……。
こういう女子力が高い部屋に住んでみたかったんだ」
「実は、僕が考えたんだよ。
妹がいるセツナから、女性の好みを聞いて参考にしてさ。
かけらが好きそうかなって思った物を選んでみたんだ」
「私の好みを当てるなんてすごいね。
それに、帰る場所があるのが嬉しいな」
「今までたくさん苦労をさせてしまったよね。
これからは、かけらにあまり無理をさせないようにしたくて……。
残りの二部屋は、台所と浴室。
必要な物も一通りあるから、これで最低限の生活ができると思う」
「ありがとう。別荘を持った気分だよ」
「気に入ってもらえてよかった。
……それじゃあ、僕は新しい畑を作る場所をいくつか回ってくるよ。
かけらは、この家で休んでいて」
玄関に向かって歩いていくレトを見ていた時にふと思う。
初めて出会った時に助けてもらったことを……。
そのお礼をできていない……――
「待って、レト!」
「なんだい?」