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「えっと……、その……。
夜には帰ってくる?」
自分から聞いたことなのに恥ずかしくて堪らない。
セツナやトオルは、私を誘う時にこんなにも勇気を出していたんだろうか。
久しぶりにレトとふたりきりになったせいなのか緊張する。
「紅の地に寝泊まりしているから帰ってくるよ。
でも、それがどうしたんだい?」
「前にポテトチップスっていう料理を作ったよね。
あの時は失敗したから、もう一度作りたいなって思って……」
「なるほど。塩が手に入ったからか。
ジャガと油を持ってくるよ」
「忙しいっていうのに、手間を掛けてごめんね」
「気にしなくていいよ。
かけらのお願いなら喜んで引き受けるから。
でも、僕からもお願いしていいかな?」
「もちろん。なんでも言って」
「僕ひとりで来ていい?」
つまり、セツナ、ライさん、シエルさんは呼ぶなということだろうか。
レトにお礼をしたいだけだからまあいいか。
「分かった。レトのことを待ってるね」
頷いてから答えると、レトの口角が上がった。
そして目を細めて爽やかに笑う。
「ありがとう、かけら。
急いで仕事を終わらせてくる」
「いってらっしゃい」
レトは軽やかな足取りで外に出て行った。
玄関に立って、その姿が見えなくなるまで目で追う。
まるで仕事に行く夫を見送る妻のようだ。
「かけらのこと、気にしてるんだな」
急に視界の外から声が聞こえてきて、びくっと肩が上がる。
ここに到着するまで一緒にいたから誰なのかすぐに分かった。
「シエルさん……!?
いつからそこにいたんですか」
「さあな」
私の家の前に立って腕を組んでいる。
レトに案内された時はいなかったのに……。
「私たちの話を聞いていたとか言わないですよね?」
「かけらの行動は見守るが、人間関係の邪魔をするつもりはない」
「見守るとしても敵国にいたら危ないんじゃないですか」
「紅の地にいてもいいとセツナ王子に許可してもらった。
身の安全も保証するとな。だから、俺は少し離れたところからかけらを見ている」
「滞在を許してもらえたなんて……。
セツナが優しいからですかね。
ところで、さっきふたりで何を話していたんですか?」
私をレトのところに行くように勧めた時のことだ。
紅の地にいていいと許してもらうために、いろいろ話したと思うから聞いてみた。
「王子同士でしかできない話だから、かけらは気にしなくていい」
それがどんな事なのか聞きたかった。
しかし、話が終わらないうちにシエルさんはどこかへ行ってしまった。
見守ると言っているから近くにいるんだろうけど。
シエルさんが冷たいのは相変わらずだ。
それから自分の家のベッドで横になって休んだ。
歩き疲れていることもあって、すぐに眠気がやってきた。
落ち着いて暮らせる場所ができて嬉しい。
そう思っているうちに眠ってしまって、目が覚めると辺りが暗くなっていた。
流石に電気はないか……。
月明かりが窓から差し込んでいてなんとか見える。
テーブルの上にろうそくが置いてあったから、それを使って部屋を明るくした。
小さな炎が微かな光を放ち、いい雰囲気が漂っている。
ろうそくを見つめていると、コンコンっとドアを叩く音が聞こえた。
「かけら、ただいま。材料を持ってきたよ」
ドアを開けて入ってきたのはレトだった。
「おかえりなさい。
材料を持ってきてくれてありがとう」
早速台所に行き、レトが持ってきてくれた材料を使って料理をする。
ジャガを薄く切り、油で揚げて、塩を摘んでパラッと振りかける。
この料理ができたのは、グリーンホライズンとクレヴェンが協力したおかげだ。
狐色に揚がったポテトチップスを丁寧に皿にのせてテーブルへと運ぶ。
「おまたせ。今度こそちゃんと作れたよ」
「いい匂いがするし、美味しそうだね。
スプーンで食べるのかい?」
「手で食べるんだよ」
「どれどれ……」
レトは迷うことなく口に運び、パリッと音を立てて一口食べる。
「これはっ……!」
カッと目を見開き、一枚目を食べ終えて、二枚目を手に取る。
「すごく美味しいよ。
軽い食感とちょうどいいい塩気。
ああ……、手が止まらなくなる。
ジャガはこんなにも美味しい物になるんだね」
瞳を輝かせて食べるレトを見ていると、こっちまで幸せな気分になってくる。
助けてもらったことに比べると少ないお礼かもしれない。
でも、自分がレトにしたいと決めたことができてスッキリとした。
「ごちそうさま。また作って欲しいな。
僕は、かけらの料理が好きなんだよね」
「その時は、皆にも食べてもらえるようにいっぱい作るね」
「えっ……。ああ、うん……。
……かけら、外を見て。今日は星が綺麗みたいだ」
窓を開けてウッドデッキに行き、夜空を見るとたくさんの星が輝いていた。
なんだか懐かしく感じる。
この世界に来た最初の日とレトと一緒に寝袋を使うようになった時。
私は今と同じくらい綺麗な夜空を眺めていた。
あの頃は不安だったけど、色んなことを知って、自分がやりたいと思ったことができている。
前の世界にいた頃は自分の意見も言えない“いい子”だと言われていたけど、少しは変われているだろうか。
そして、この湖も変わっている。
開拓が進み、松明が置かれるようになって、数十個の灯りが見える。
湖にその光が反射していて夜景が綺麗だ。
呪われた地だと言われていたけど、今は穏やかで憩いの場所になっている気がした。
「あのさ、かけら……」