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「…マジで?」
間の抜けた声が出た後、守は慌てて表情を取り繕って戻ってきたメンバーを見た。
海には少し擦り傷等があったが何事もなさそうだった。
他の二人は少し海より傷が多かったが無事だった。
ほっと胸を撫で下ろした後、無陀野に問う。
「何があったの?」
無陀野は小脇に抱えているものを見せて言った。
「京都支部からだ。救援要請で、人手が必要だと」
守はこくりと頷いて「わかった」と返す。
「で、俺と桃華はどうすればいい?」
「付いてこい。それだけ状況は悪い」
「オッケー」
事務的なやり取りを数回すると、もう動揺は消え去って代わりに大人の顔があった。
「さ、聞いていたね。君達」
にこりと笑って明るく告げる。
「着替えたら集合!いい?」
その言葉に全員が頷きで答えた。
「わ~!良い風~!」
「おねえちゃん!おちちゃうよ!」
「その時はその時だ。桃華、やめておけ」
船の手すりから身を乗り出して言う守に妹達は慣れたように注意した。
その姿を見て、四季は不思議そうに訊ねる。
「そういやさ、神示の姉ちゃんと妹、いつも何してんの? 」
海は少し考えてから答えた。
「姉さんは副担任みたいな。桃華は…お手伝いだな」
冷静に返してはいるが、心中は実はこのようなものであった。
(姉さん達の事を聞かれたから答えたが、なぜ私に!?)
実は、海は極度の人見知りの陰キャである。
まともに喋ることができるのは家族のみ。
鬼ごっこのとき単独行動をしていたのは見知らぬ人と喋りたくなかったからである。
本当は外になんて出たくもないし、休みはもっぱらゲーム三昧で、話術など無いに等しい。
(これで終わってしまえば怪しまれてしまうか?しかし…)
ぐるぐると思考を巡らせていると、四季がまた話しかけてきた。
「なあ、」
「あ、姉さんは休みは大体アニメを…」
「へ?」
(遮ってしまった…!)
気まずい。非常に気まずい。
だらだらと冷や汗を流しながら四季の方を見る。
(機嫌を悪くしたか…?)
そう思いながら視線をやっと四季の方に向ける。
「姉ちゃん大好きかよ!」
あははと笑いながら言う四季に安心し、気を取り直して聞く。
「遮ってしまってすまない。…何を聞こうとしたんだ?」
四季は「やっとか」とでも言うように顔を輝かせて答えた。
「お前の事!聞きてぇ!」
屈託無く笑う四季は、海には眩しく見えた。
(私とは大違いだ)
一瞬よぎった暗い思いを封じ込め、海も笑う。
「私は、そうだな…チョコが好き…かな」
やっとの思いで口を開くと、四季は嬉しそうに言う。
「そっか!うめぇよな~!」
好きなお菓子、好きなゲーム、好きな動物。
それぞれの好きなものを話す。
こんなに家族以外と喋ったのは初めてだった。
四季が笑ってくれたのが嬉しくて、ついつい頬が緩む。
(いけない、あまり緩めすぎては…)
頬をぎゅむぎゅむと両手で抑えて緩みすぎないようにしようとしたが、意味はない。
緩んだ頬は止まることを知らず、ニヤニヤとにやけてしまう。
「…楽しい」
ふと、言葉が溢れ出す。
照れ隠しにへへっと笑い誤魔化すが、四季は答えた。
「俺も!」
京都まで、もうすぐ。