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京都への船の上。
「あの、」
「…」
ぴよぴよと皇后崎の後ろを付け回す少女の姿があった。
ぶかぶかとした桃色のパーカーに大きな横かけ鞄を持った少女_桃華は話しかけながら追いかける。
対する皇后崎はどう扱えば良いのか分からず何も喋らない。
「…くろますくさん」
「誰だよ」
思わず突っ込んでしまった事を悔やみながら皇后崎はしゃがんで目線を会わせた。
「で、何だ」
桃華は鞄からドラ◯もんのようにビーズのケースとテグス、ハサミを出した。
「これ、いっしょに…やりたいです」
屋内の方に入り、テーブルに座る。
いそいそと他のビーズも取り出し、並べ始めた。
「どれがいいですか?」
ふんふん言いながら皇后崎の手首に合わせてテグスを切る。
その姿はただの女児そのものだった。
「お前、何でここにいるんだ」
気づけば疑問が口をついて出ていた。
桃華は言った。
「あかちゃんからいたので、わかんないです」
何でもないように答える桃華はどこまでも純真無垢だ。
桃華は「どうぞ」と短い方_桃華の手首に合わせた方を手渡される。
「おい、どう言うことだ」
「ぼくはくろますくさんのつくります。だから、あなたはぼくのつくってください」
断ろうにも断れずテグスの端を結び、小さな桃色の花のビーズを手に取り、テグスに通す。
桃華の手元を見ると、黒いリボンの形のビーズを通していた。その次はクローバーとひまわりのビーズを通し、満足そうに笑っている。
「あのね、ひまわりには『あなたはすばらしい』っていみがあるんです」
にこにこ屈託無く無垢に笑う桃華は桃の花と言うよりも太陽に輝く向日葵のようで。
「だから、すごいのでゼッタイまけません!」
「おまもりです」と言いながらにひひと悪戯っぽく言う桃華を見て、少しだけ皇后崎の表情が緩んだ。
少し経ち、やっと京都に着くと桃華は皇后崎に笑いかけて言った。
「またブレスレットとかつくりましょうね!」
その細い手首に透明なビーズがあしらわれた桃色の花が目を引く皇后崎が作ったブレスレットがある。
姉の方に走っていく桃華の後ろ姿を眺めた後、袖を少しずらして手首を見た。
そこにはいつもの痛々しげな傷と共に、クローバーと向日葵、そして黒いリボンが通してあるブレスレットがきらきらと光っている。
「お守り…か」
袖を名残惜しそうに戻すと、皇后崎はゆっくりと歩き始めた。