テラーノベル
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私は部屋に入ると、花斗のベッドの横へ向かった。
私の体に命が宿ったその日、壱月はご両親を失っていた。その事実に胸をモヤモヤさせながら、花斗の寝息を確認する。
花斗が今日も生きていることにほっと安堵の息をつくと、ベッドサイドに壱月からもらったエプロンがおいてあるのが目に入った。
明日は、これをつけて朝ご飯をつくろう。
そう思ってベッドに潜り込んだけれど、新たに知った事実が頭を駆け巡って、なかなか寝つけそうにない。
自分のことばかり考えていた。
〝種を植え付けられてトンズラされた可哀想な女〟だとは思われたくないって、ずっと思ってた。
けれど、それを一番意識していたのは、自分だったのではないか。
心の内で、壱月をずっと責めていた。
どうして私だけって、散々悩んだ。
けれど、私が花斗と過ごした時間だけ、壱月にも時間は流れていた。
壱月にも大変な事情があったなんて、どうしてそんな簡単なことに、今まで気づけなかったんだろう。
突然聞かされた、あの日の真実。
咄嗟に受け止めてあげられなかった不甲斐なさが、胸を襲う。
それから私は、先ほど見た、壱月の困ったような笑顔を思い出した。
壱月に、なにがあったのだろう。壱月は、どんな想いでいたのだろう。
それはきっと〝両親の死〟だけで片付けられない、なにかのような気がしてしまって。
恨んだ。自分のことばかりだった、私を。
もっと知りたいと、思った。壱月のことを。
*
翌日、結局一睡もしないまま外が明るくなって、目覚ましが鳴る前に布団から這い出た。
まだ寝息を立てる花斗の横で着替えを済ませ、壱月にもらった新品のエプロンを身につける。
「よし!」
部屋の姿見の前でそう言うと、後ろからごそごそ音がした。
「ママ……?」
しまった、花斗を起こしてしまった!
不機嫌発動の可能性に身構えつつ振り向くと、花斗はベッドに体を起こしたままふにゃりと笑って「ママ、かわいい」と言ってくれた。
ああ、天使……。
そんなことを思いながら、せっかく起きた花斗とともにルンルン気分でリビングへ。
だがそこで、私は目を見張った。すでに、コーヒーの香りがしたのだ。
「おはよう」
壱月はダイニングにおり、マグカップ片手に本を読んでいる。
しかも、その前には見事な和食の朝食が並んでいる。
出遅れた〜!
せっかくエプロンまでつけてやる気満々だったのに!
しょぼんと肩を落とすと、壱月の「はは」っと笑う声が聞こえた。
「かわいいじゃん、愛音」
「えっ!?」
つい、素っ頓狂な大声が出てしまう。
「いつきも? ぼくもね、ママ、かわいいっていったの!」
花斗はぴょんぴょん跳ねながら壱月のもとへ向かい、その膝にペタリとくっつく。
本をパタンと閉じた壱月は、目の前にやって来た花斗を膝の上に乗せ、「おおー、わかってるな!」と彼の頭をよしよしと撫でた。
「でも、ご飯……」
呟くと、
「……ぷっ!」
と壱月が思わず吹き出す。それで、なぜだか私もつられてしまう。
くすりと笑うと、今度は花斗も笑い出す。
同居を始めてから、一番幸せな朝が来たような気がした。
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コメント
1件
ああ、この回、すごく良かったです……。自分のことばかり考えて壱月を責めていたと気づく内省の部分、すごく胸にきました。でもその後の朝、エプロン姿を見て「かわいい」って言ってくれる花斗と壱月、そして三人で笑い合う幸せな時間。重たい真実を知った後に訪れる、何気ない日常の温かさが沁みました。壱月の過去をもっと知りたいと思った主人公の気持ち、すごくわかります。