テラーノベル
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明日は休み、明日は休み……それだけを心の頼りに、眠い頭をフル稼働して仕事に臨んだ今日一日。
二十代も後半になると、やっぱり睡眠不足が体に来る。
「店長、発注書間違ってますよ。ほら、ここ」
水瀬に指摘されなければ、ハーフパンツ十万枚をどう売りさばくつもりだったのか、自分に問いたい。
私はしょぼしょぼする目に目薬をさして、頬をペチペチ叩き、何度もブラックの缶コーヒーを口に運ぶ。
そうしてようやく迎えた業務の終業後。
「店長、なにかいいことありました?」
「えっ!?」
引き継ぎをした水瀬にそう言われて、思わず大声を出してしまった。
水瀬は一瞬ぴくりと肩を震わせたが、そのままニヤニヤと笑みを浮かべる。
「疲れてるようにも見えるし機嫌いいようにも見えるし……お子さんのことですかね? いや、これは〝旦那さん〟となにかありましたね!?」
出た! 水瀬の鋭い観察眼。
普段は抜けてるくせに、こういうところは目敏いんだよなあ……。
ため息をひとつこぼし、まだ意味深な笑みを浮かべる水瀬をあしらうように言った。
「別に、真田さんは〝旦那さん〟じゃないからね」
「あ!?」
突然の水瀬の大声に、今度は私がぴくりと肩を震わせた。
「な、なに……?」
「店長、今初めて否定した! しかも、けっこうナチュラルに!」
水瀬は目を丸くする。
「え、そうだっけ?」
ついきょとんとしてしまうと、彼女は再びニヤリと笑った。
「そうですよ。ってことはつまり、本当にいい人見つかったんですね!」
なぜ、そうなる?
水瀬の思考回路は理解できないが、実際そうだから仕方ない。
「うん、まあね」なんて曖昧な返事をすると、ツンツンと背中をつつかれた。
「店長、今度は逃がしちゃダメですよ?」
なにも知らないくせに、水瀬はニヤニヤした笑みを浮かべて売たまま売り場に戻ってゆく。
会社中に知られるのは時間の問題かもしれないと思いつつ退店し、花斗の待つ保育園へ向かった。
*
「ママー!」
保育園につくと、花斗は画用紙片手に入り口まで走ってきた。どうやら、お絵描きをしていたらしい。
「みて! これ、いつきのひこうき!」
バンっと胸を張って見せられたのは、飛行機(?)の絵。
どうやら壱月にもらったものを絵に描いたらしい。いつの間に、そんなに思い入れができたのだろうか。
「うん、上手だね」
そう言うと、花斗は得意げに笑って「もってかえる!」と私に画用紙を差し出してきた。
「はいはい」
「『はい』は一回でしょ!」
そんないつものやり取りをしていると、姉がこちらにやってきた。
「花斗くんは、お帰りの前に手を洗ってきましょう」
「はーい!」
水道へと駆けていく花斗を見ながら、姉か耳元でこっそり聞いてくる。
「花斗くん、楽しそうだけど……平気?」
そう言う姉は、困ったように微笑んでいる。私は画用紙をくるくると巻きながら、口を開いた。
「うん……あのね、」
私の言葉に、姉は「ん?」と首をかしげる。
すべてを知っている姉になら、今話してしまおうと思ったのだ。
「壱月と、付き合うことにした」
「……え?」
思った通り、姉は目をパチクリさせる。その反応に、私は自嘲するように笑った。
「壱月にも事情があったみたいだし、ひとりでなんでも抱えて生きることもないかなぁって。仮にもアイツ、花斗の父親だからさ」
「……そっか」
私は手を洗う花斗の後ろ姿を見つめた。
「あ、花斗には言ってないから! いつかは、言うつもりだけど……」
「了解。園にも言わないでおくね。余計な詮索されたくないでしょ?」
「うん、ありがとう」
優しく微笑んだ姉にお礼を告げると、「困ったらいつでも言ってね」と小声で言われる。
ちょうどそこで花斗が帰ってきてしまったから、それには返答できなかった。
けれど、本当に、姉には頭が上がらない。
「花斗くんは、明日はお休みだね?」
「うん! せんせい、またね!」
「はい、さようなら」
園を出たところで、私は一度振り返る。
こちらに手を降る姉の顔が慈愛に満ちていていて、私はなんだか泣きたくなった。
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Elle
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コメント
1件
ああ、もう……水瀬の観察眼、鋭すぎて笑っちゃいました。店長が初めて否定したところ、確かにナチュラルすぎた(笑)。それに花斗くんの“いつきのひこうき”の絵、胸がぎゅっとなりました。姉の「困ったらいつでも言ってね」の言葉に、私も泣きそうになりましたよ。家族の温かさがじんわり沁みる回でした。