1話のおまけ
『僕っ、寂雷の髪好きだな〜!』
『そうかい?』
微笑む彼は紳士的で美しかった。
『だってすっごく長くてサラサラでいじりがいがあるんだもーん!』
『…でも、たまににしてくれるかい?』
『えっ、なんでぇ?そんなにヤダ?』
あまり嫌な顔をしない寂雷が急にそう言った。落ち込む反面ダメだったかも?と考えている。
嫌なのかもしれない、いつもずっと髪をいじって色んなもので飾って、取るのだって大変だ。
『…君にやって貰ったものを取るのが、勿体なく感じてしまいますから』
『!』
思っていた言葉より意外な言葉が帰ってきて驚きを隠せずいる。
『…じゃあせめて三つ編みだけでもさせてー?』
『まぁ、それならいいかな』
承諾を得て少し嬉しかった。これだけ髪の長い人はあまりいないからだ。
またサラサラとした髪に触れて三つ編みを作ってゆく、美しく綺麗に手入れされた髪は顔にかかる時もありくすぐったかった。
『ふふっ』
嬉しくて楽しくて顔が緩む、情けない顔になっていないだろうか?
『できたよっ、じゃーくらいっ』
『…早いんだね』
『デコれないんだもん』
『それはすまないね』
また笑う彼を見てしょーがないなぁ、と抱きつく。過去のような関係でありつつも過去とは全く違う。
それ以前に許されてしまった衢の件への罪悪感と助けてくれたありがたみ、このように構ってくれる優しさ、その全てに心を締め付けられ緩められの繰り返しだった。
嫌いになれない、嫌いでも好き、矛盾でしかない言葉は頭に巡り巡ってよく分からなくなる。
『あっは、なん、だろ』
『どうしたんだい…?』
『う、ううん!なんでもない、よ』
右下に視線を移す。まとめられた髪では俺の事を触れれない。
覗かれる顔は今、どんな顔だろうか?
『本当のことを言ってくれないかい?』
『素の君がーーー』
何を言っているか分からなくなる。
『あ、のさ、なんで、なんで許したんだよ』
『っ』
痛いだろう。結ばれたままの長い髪を引っ張って問いかける。俺は本当に許されてよかったのだろうか?
『私が許したいって思えたからだよ』
『……衢をあんなふうにしたのは俺だぞ?』
『そうだね』
『なんでそんなに落ち着けるんだよ』
『前も言っただろう?』
『?』
落ち着いた凛とした声で言われたその言葉は女性が聞いたら惚れるだろうに。
『勿体ないやつ、俺じゃなくてもいいのに』
本当にそう思う。こんな俺じゃなくてもいい人なんてこの世に沢山いる。
『俺は人間じゃない』
『うん』
『俺は、長く生きれないかも、しれない』
『生かしてみせるよ』
『他の人の方が可愛いよ』
『君がいいんだよ』
一つ一つ放つ言葉に寂雷は返してゆく、少しずつだけど泣き出して声が上手く出なくて、放つ言葉が途絶えると寂雷はこういった。
『それだけかい?』
『なん、でだよ』
『君以外でいい人なんてそうそういないよ』
『矛盾、してんだよっ』
『そうかい?……そうかもね』
『衢のことは…なぁ』
『君じゃなかったわけであったし助けたくなったんだ。』
『私じゃ助けれない人でも助けたい、この思いは変わらない、多くの人は助けれない、でも助けれる人は助けたい』
無責任な言葉、無責任ヒーロー、それと無自覚に心のもやもやを浄化してくれる無自覚ヒーローだ。
掴んだせいで解けた三つ編み、そのせいで髪が散らばる。
顔にかけられくすぐったいと言うも変わらない。
押し倒されたと理解するには時間はかからなかった。
『なに、すんの』
ちゅ
『ん』
キスをされる。
驚きで目をぱちぱちと開けては閉め、ちゃんと彼の顔を見る。
頬を赤くしてこちらに頭を突っ込む。
『邪魔』
そう言って頭に手を押し付けるも離れない。
『…たまにはいいだろう?』
『重いっての』
『…………………』
そのまま黙り込む寂雷を見てため息をつく、もう面倒くさくてそのままにする。
『まぁ、たまにはいいか』
そう小さく言ったということは秘密だ。
コメント
1件
え?らむてるに飽きるわけがないだろう???