ある日――
塔の屋上、星が瞬く夜。
そこには、ノーマンとシンム、ふたりだけがいた。
鬼の世界は変わった。
子どもたちは笑い、村は成長し、教育の塔は学び舎として機能している。
けれどノーマンは、ずっと心に引っかかっていた。
「……シンム、ひとつ聞いていいかい?」
「うん? どしたのノーマンくん^^」
「君の“世界”は、本当に“永遠”なのかい?」
【ノーマンの疑問】
ノーマンは冷静に続けた。
「鬼の子どもは、“人を知らずに育つ”。
でも……“知っていた世代”が完全に消えない限り、
また“過ち”が繰り返されるかもしれない」
「どんなに制度を整えても、“個の感情”は制御できない。
いつか誰かが“人間の肉を求めたい”と願ったとき、
この平和は崩れ去る――そう思わない?」
シンムは、ふわっとした声で返した。
「うん、思うよ^^ だからぼくは、**“終わる覚悟”**で作ったんだ」
「え……?」
「“ぼくのいない世界でも成り立つかたち”にしてあるよ。
制度は、“知識”と“理解”と“愛”に基づいてる。
誰かが“恐怖”に戻りそうになっても、周囲が止めてくれるように設計してある」
ノーマン「それでも……完全じゃない」
シンム「うん。でもね、完全なんて、ないんだよ^^」
ノーマンは、一冊の分厚い資料を取り出す。
「じゃあこれはどう?
もしこの“塔の電力システム”にひとつ欠陥があったら?」
シンム「……うん、それは“第五系統の供給配分”のことかな^^?
そこはすでに鬼の技術者“イルト”くんが改良してくれてるよ♪」
ノーマン「っ……なら、
“教育の指導体制”に感情の偏りがあったら?」
シンム「“感情”で教えるのがぼくたち“人”だもん^^
でも、それも防ぐために“双方向評価”を導入してある」
ノーマン「なら! “君がいなくなったあと”に、誰が“最上位判断”を――」
シンム「いるよ、“光幸くんと暗不くん”。
彼らが育ったこの場所で、未来を見守るように育ててるから」
ノーマンは、少しだけ苦笑した。
「……ほんと、君ってやつは。
僕が何十通りも想定していたのに、どれも――全部、潰されてる」
シンムは笑う。
「ふふっ、だってね? 君の考える“可能性”が好きだから、
ぼくも“未来の可能性”をたくさん考えたんだ^^」
塔の屋上。夜風が吹く中、シンムが小さなポットを取り出して言った。
「はい、ノーマンくん、ハーブティー♪ “知恵”を使った後は“やすらぎ”が必要だからね^^」
ノーマン「……ありがとう。
君には敵わないな、ほんと」
“策を尽くす天才”ノーマンが、
“優しすぎる教師”シンムに負けた夜。
それは――鬼の世界に、ほんの少しだけ“確信”が増えた夜でもあった。