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「次のワインは、どうしますか?」
何杯目かを飲んだ後で、そう尋ねられて、
「いえ、もう酔ってしまうので」
と、自分のグラスに残っていた分を飲み干して、おかわりは断った。
「私は、あの時みたいに酔ってもらっても全くかまわないですよ」
彼が、フッと唇の片端を引き上げて微笑う。
「……嫌です。だって、あんな…寝てしまうなんてことはもう……」
蘇ったかつての記憶に、気恥ずかしさに見舞われていると、
「……可愛らしかったのに」
ぼそっと呟いた彼の声が耳に届いて、また赤面しそうになった。
「私は、胸にもたれて眠ってしまったあなたの愛らしさに、どうやら惚れてしまったようなので」
ワイングラスを傾けながら、そんな台詞を臆面もなく口にする彼に、
今夜はワインをそれほど飲んだわけではないのに、もはや顔が赤くなるのは抑えられなくなりそうだった……。
──食事を終えて、ホテルを出ると、
「今夜はフルムーンなので、少し外を歩いてみませんか?」
彼からそう誘われ、夜道を二人で並んで歩いた。
「満月の夜には、星もよく見えそうですが、」
彼が夜空に目を移して、
「都会では、そうもいかないですね…」
ぽつぽつとしか見ることのできない星々に、軽くため息をつく。
「先生は、星が好きなんですか?」
ふと気になって尋ねてみると、
「ええ、好きですね…星は」
と、答えが返った。
「都会では、たくさんの星が見られるのって、プラネタリウムぐらいですよね」
夜空を仰ぎ見る彼の視線を辿り、自分も同じように空を眺めた。
「本物の満天の星空を、まだ見たことはないのですか?」
訊く彼に、首を縦に頷いた。
「実際にはまだ見たことがなくて……綺麗ですよね、きっと」
「ええ、とても綺麗で。あそこに見えるオリオン座も、どれがそうなのかわからないくらいに、空一面に星が輝いていて……」
彼がオリオン座の三ツ星を指差して、私の肩をそっと抱き寄せると、バッグに差し込むように入れていた花束に、ふと目を向けた。
「その薔薇を、胸に抱いてみてくれませんか?」
言われるままに、「こう、ですか?」と、バッグから抜いて腕に抱えた。
そこへ──
「こうすれば……」
と、片手が伸ばされて、顎がくっと上向けられたかと思うと、
「薔薇で飾られた君に、キスができる」
唇が柔らかく重ね合わされた。
「薔薇のいい香りがしますね…」
吐息とともに一旦離れた唇が、再び迫り寄ると、
薔薇の芳香と彼のスーツから香る匂いに包まれて、一瞬で酔い痴れてしまいそうにも感じた……。