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「…ねぇ、私…政宗先生に、アプローチしてみようと思うんだけど……」
ふと受付の合間に真梨奈が声をひそめて、話しかけてきた。
「どう思う? 智香は」
「どうって……」
なんて返せばいいのかわからなくて、口をつぐむ。
「……だって、とりあえず誘ってみないと、付き合えるかどうかもわからないでしょ?」
真梨奈が、奥にいる松原女史に悟られないよう、ひそひそと喋り続ける。
「それは、そうだけど……でも、」
「でも、何よ…?」
完璧に取り繕われた外面の裏に、あんな悪魔のような一面を隠している、あの男には、どうせなら近づくべきじゃないと感じる。
けれど「でも……」と言ったっきり、その後が出てこなかった。
イライラとした様子で返事を待っていた真梨奈が、
「……。……ねぇ、もしかして智香も、本当はあの先生のことが好きなんじゃないの?」
何も言えずにいつまでも黙り込んでいる私を、そう勘ぐってきた。
「……違う。そんなわけないから」
首を横に振り、反論をするも、
「……本当になの?」
と、真梨奈がさらに訝しそうに確かめてくる。
「本当に…だから……」
自分でもなぜだかわからないままに、ひどく歯切れの悪い一言を口にして、視線を逸らしうつむいた。
彼女にあの男は危険だからと忠告をしてあげたいとも思うけれど、一体どう言って説き伏せたらいいのかが、何も浮かんではこなかった……。