「別に、智花が好きじゃないんなら、先生のこと誘ってみてもいいよね?」
無邪気な笑みを向ける真梨奈に、
「うん…いいんじゃない…」
私には、そう曖昧に答えることしかできなかった……。
──その日の閉院後、クリニックが入るビルから出ようとして、
政宗医師の車が、駐車場から出て行くのに鉢合わせた。
目の前を走り去るその車の助手席には、真梨奈が座っていた──。
彼女、本当に誘いをかけたんだと思う。
そしてあの人は、その誘いをいとも簡単に受け入れた……。
やっぱりあの男には、心なんてあるはずがない──。
女性なんて、たやすく自分の思い通りにできるとでも、感じているのに違いなかった。
あんな人が他の誰を抱こうと、私には何の関係もない……。
私たちの間には、最初から恋愛感情なんてものは、ありはしなかったのだから……。
……あったのは、ただ身体を合わせた熱だけ……。
全てわかり切っていることなのに、どうしようもない悔しさが込み上げて、どうしてだか涙があふれそうにもなって、
私は、あんな男のためになんか泣きたくないと、唇を血が滲み出る程に、強く噛み締めた……。
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