テラーノベル
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朝から、何も手につかなかった。
黒板の文字も、教師の声も、全部遠い。
ただ一つだけ。
「明日、言う」
昨日のそうたの言葉が、頭から離れない。
⸻
昼休み。
教室はいつもより騒がしくて、
その中心にいるのは、やっぱりそうただった。
笑ってる。
楽しそうに。
その隣にいるのは――
🐧「……あの子か」
小さく呟く。
よく笑う、明るい子。
確かに、そうたと並ぶとしっくりくる。
お似合いだ。
認めたくないのに、そう思ってしまう。
🐬「見てんの?」
後ろから声をかけられて、肩が少し跳ねた。
振り向くと、そうたが立っている。
🐧「いや、別に」
🐬「そ?」
何も気にしてないみたいに笑う。
でも、どこか落ち着かない様子で。
🐬「あー…やっぱ緊張するわ」
そう言って、俺の机に腰かける。
距離が近い。
いつもと同じはずなのに、
今日は少しだけ意味が違う気がした。
🐬「放課後、呼び出す」
🐧「…そっか」
短く返す。
それ以上は、言えない。
🐬「うまくいくと思う?」
不安そうな声。
そんなの、分かってる。
あの子も、まんざらじゃない顔してた。
きっと――
🐧「うまくいくよ」
即答だった。
🐧「そうたなら」
その言葉に、少しだけ驚いた顔をして。
すぐに、安心したように笑った。
🐬「だよな」
その笑顔が、やけに遠く見える。
⸻
放課後。
部活に行く気にもなれなくて、
適当に理由をつけて教室に残った。
窓の外は、オレンジ色に染まっている。
ちょうど今頃だろうか。
告白してるのは。
想像したくないのに、頭に浮かぶ。
名前を呼んで。
真剣な顔で。
想いを伝えて。
――やめろ。
ぎゅっと拳を握る。
🐧「……帰るか」
ここにいても、何も変わらない。
そう思って立ち上がった、その時。
教室のドアが、勢いよく開いた。
🐬「まなと!」
息を切らしたそうたが、そこにいた。
一瞬で分かる。
その顔で。
その目で。
結果なんて、聞かなくても。
🐧「――どうだった?」
それでも、聞いてしまう。
聞かなきゃ、終われない気がした。
🐬「……」
一瞬、間があって。
次の瞬間、そうたが笑った。
🐬「OKもらった」
――ああ。
世界が、少しだけ遠くなる。
🐧「そっか」
ちゃんと声が出ているのか、自分でも分からない。
🐬「マジでやばい、めっちゃ緊張した」
興奮気味に話すそうた。
🐬「でもさ、向こうも前からちょっと気になってたらしくて」
嬉しそうに、止まらない言葉。
全部、聞いてる。
全部、理解してる。
でも、どこか現実感がない。
🐧「よかったじゃん」
やっと、それだけ言えた。
ちゃんと、笑えてるだろうか。
🐬「ありがとな、背中押してくれて」
その一言で、胸が強く締めつけられる。
🐬「まなとがいなかったら、多分無理だった」
――やめろ。
そんなこと言うな。
🐧「…大袈裟な笑」
視線を逸らす。
これ以上、顔を見ていられない。
🐬「一番に報告するって言ったろ?」
嬉しそうに言う。
覚えてたんだな、そんなこと。
🐧「……律儀だなぁ」
🐬「だろ?」
いつも通りのやりとり。
でも、もう戻れない。
何も変わってないはずなのに、
決定的に何かが違う。
🐬「なあ、これからちょっと会ってくる」
🐧「え?」
🐬「せっかくだし」
少し照れたように笑う。
ああ、そうか。
もう、そういう関係なんだ。
🐧「……行けば」
突き放すように言ってしまう。
一瞬だけ、そうたが不思議そうな顔をした。
でもすぐに、いつもの笑顔に戻る。
🐬「じゃあな、また明日!」
軽く手を振って、教室を出ていく。
その背中が、遠ざかっていく。
止める理由なんて、もうない。
⸻
一人になった教室。
さっきまであんなにうるさかったのに、
今はやけに静かで。
🐧「……は」
小さく笑いが漏れる。
何やってんだ、俺。
最初から分かってたじゃん。
こうなるって。
それなのに。
🐧「……っ」
息がうまく吸えない。
胸の奥が、ぐちゃぐちゃで。
痛くて、苦しくて。
どうしようもなくて。
🐧「……なんで」
声が震える。
🐧「なんで俺じゃないんだよ」
誰もいない教室に、言葉が落ちる。
答える人なんて、いないのに。
分かってるのに。
それでも、止まらなかった。
⸻
その日から。
少しずつ、何かが変わり始める。
隣にいるはずの距離が、
ほんの少しだけ、遠くなった。
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