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「ここがヒューマンショップ…」
そこは大きな建物であり、看板にある〝HUMAN〟の文字さえなければ、普通の店にしか見えないだろう。
店の前にはよくわからん装備の見張りが何人もいた。ローに続けて中に入ると、中は劇場のようだった。奥にはステージがあり、そこでオークションが行われるのだろう。
俺たちは出入り口に近い席に座る。
「なあ、仮面にフードってお前逆に目立つんじゃねぇの?」
「いや…うん……まあ……」
シャチの言葉に俺は言葉を濁す。だってそろそろ……
「!」
後ろからぞろぞろと複数の足音。あまり首を動かさず、目線だけ後ろに向けると、そこにはキッド海賊団の姿があった。やっぱり来るよな~……だって今回のオークションは原作の1ページなんだから。
「……見た顔だな。北の海の2億の賞金首、トラファルガー・ローだ。随分悪ィ噂を聞いてる」
そう話すキッド海賊団の方にローが振り返り、まるで挑発するように首を傾げる。
俺はというと、バレないように少しだけ体を前に倒して、俯いていた。
「態度も悪ィな…」
本来ならここでやり取りは終わる。というか本来とかいらんので今も終わってほしかったのだが、どうにも視線が未だに刺さっている気がする。絶対キッド、絶対俺!!!
「ジェディ、気分でも悪いのか」
「……いや、気分は悪くない…」
「無理するな。気分が悪いならすぐに言え」
ローがフード越しに俺の頭を撫でる。撫でられるのは構わないんだが今はあんまりよくねえかもしれねえなぁローくんや!!!!
「チッ!」
ほら!!! 今のキッドの舌打ち聞いた!!? 普通舌打ちってもう少し小さくするもんだと思うんだけど!?!? めっちゃめちゃこっちに聞こえてるからね!?!?
絶対俺だってバレてる~……。俺は更に深くフードを被る。やっぱりヒューマンショップは苦手だとか言って断ればよかった~……レイリー見たさにこんなところまで来てしまった自分を猛烈に殴りたい。
「それではみなさん、長らくお待たせいたしました!! まもなく、毎月恒例1番GR、人間大オークションを開催いたしたいと思います! 司会はもちろんこの人! 歩くスーパーバザールこと~~!! ミスター・ディスコ!!」
会場内に響くアナウンスと共に、ステージの照明が一斉に点き、そこにMr.ディスコが現れる。派手な服に身を包み、スポットライトを浴びてマイクを握っている。開場が歓声に包まれる。
「どうも皆様! 今回も良質な奴隷たちを取り添えることが出来ました、皆様ラッキー! 本日は超目玉商品もございます!! お好みの奴隷をお持ち帰りいただけますことを心よりお祈りしております」
エントリーナンバー1、プロフィールと共に現れるのは男。オークションが始まったのだということが嫌でもわかる。
だが、正直言ってもう帰りたかった。想像以上に胸糞悪くて、それこそ体調を崩しそうなくらいで。
「…悪い、ロー。肩借りる」
「あぁ」
そう一言断りを入れてから、ローの左肩に自分の頭を乗せる。ローの体温を感じながら、目を瞑った。耳から感じ取れる情報すらも遮断したかったが、それをしては意味がないと思い、そのまま聞き続けた。
それから次々と人が買われていく。その度に、どんどんと俺の心は冷たくなっていくような感覚を覚えた。
人を買う奴らの笑い声、人の人生を弄ぶ声、それらが俺の精神をぐちゃぐちゃにしていくような気がして。
「大丈夫か」
「……ああ」
そう短く返事をして、ゆっくりと深呼吸をする。今更何を言ったところで変わらない。俺の役目はただこのオークションを見るだけ。ここにいるだけ。
「さァさァ盛り上がって参りました!! 続いても〝買いの一品〟エントリーナンバー15は絶世の美女奴隷♡ ご覧ください、この奇跡のプロポーション! 20歳の踊り子、パシアです!」
次に出てきたのは、綺麗なドレスを着た女だった。表情が恐怖、絶望にさえ染まっていなければ本当に綺麗な女性なのだろう。
――ガチャ、ギィ……
出入り口が薄く開き、そこからチョッパーやナミの麦わらの一味が入ってくる。俺はまたフードを深く被った。
「美しい踊り子パシア! 80万スタートで720万ベリーという高額での落札となりました~~!!」
再び上がる歓声。やっぱり貴族は嫌いだ。
また後ろの扉が開く。扉の先から来たのは天竜人。呑気に鼻をほじりながらのご登場だ。さすがは天竜人だ。カスの煮込み。俺は顔を逸らす。
そうこうしているうちにエントリーナンバー16の男が舌を噛んで自殺を図った。すぐに幕が引かれ、オークションが一時中断となる。だがすぐに再開し、自殺を図った男は〝極度の緊張屋〟と処理される。
「――しかし皆様っ! これからご紹介させていただきます商品は、こんなトラブルを一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの~~~~ォ、超~~~ォ目玉商品!!! ご覧くださいこのシルエット!! 探し求めておられる方も多いハズ!! 多くは語りません、その目で見ていただきましょう!」
俺はとうとうフード越しに耳を塞いだ。だってこれ以上聞いてたら、俺の中で何かが爆発してしまいそうだから。何が楽しくて友達が売られているところを見なくてはいけないんだ。そんな気持ちでいっぱいになって。
耳を塞いでも薄く聞こえてくる。ケイミーの名前が聞こえた。心臓が大きく跳ねた。息が苦しくなって、頭が痛くなる。
「5億で買うえ~~!! 5億ベリィ~~~~!!!」
天竜人の声が響く。俺の体が震える。
「ロー、ちょっと、頭…撫でてくんね…?」
「あァ」
ローは俺の言葉を聞いてから、俺の頭を優しく撫でてくれる。ローの手つきはどこか優しくて少しだけ速く脈打つ心臓が大人しくなっていった。
「ありがと…良くなった」
俺は少しだけ顔を上げて、舞台の上を見た。そこには金魚鉢のような丸い水槽に閉じ込められているケイミーがいた。首や腕に太い鎖が巻かれている。
早く来てくれ、ルフィ……!