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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
――メルヴィナは震えていた。
自分の目の前にいるのが、自分の信じていた神ではなかったとしても――
ただ、それでもソレは……『オルビス』という存在なのだ。
……意識的ではなかった。
ただ、乱れ続ける心が――アリアを取り囲む光の魔法陣を、少しだけ。
僅かに変える形で、動かしてしまったのだ。
オルビスを殺せないという思いと、アリアに手を貸したいという思いが、彼女の中で交錯する。
「あぁ……!?
……わ、私は……、何てことを――……」
アリアの右腕から、弧を描くように――赤い鮮血が噴き出す。
メルヴィナは目を逸らし、目を強く閉じた。
……しかし、それでも何とか目を開いて、アリアの方を見上げていくと――
……アリアはメルヴィナを振り返りながら、目を細めながら、微笑んでいた。
まるで、メルヴィナの愚かな行為を受け止めるように。
その奥にいるオルビスに目を移すと、顔の下側には亀裂が入り――
……口のようなものが、ゆるやかに微笑んだような気がした。
オルビスは、片手をメルヴィナにかざした。
咄嗟に、ガルドが射線上に立ちはだかる。
「お嬢さん――」
瞬間、ガルドとメルヴィナを巻き込みながら――……空間が消えた。
まるで世界がそこで途切れたかのように、一直線に……この世界の終端が、黒々と生まれたのだ。
どこまでも彼方に、どこまでも天空に……終わりが見えない、全ての光を吸い込むような黒い壁。
「メルヴィナ!? 旦那ァ!?」
「……大丈夫。きっと、生きているはず」
アリアの言葉に、ザインは冷静さを保とうとする。
……アリアが言うなら、きっとそうなのだ。
「――待っててね。
あたしがここで、終わらせるから――……」
アリアは左手で右肩を押さえながら、弱々しく、再び黒い槍を振りかぶった。
メルヴィナがいなくなり、光の魔法陣は薄くなっていく。
槍はまだ……かろうじて、形を保っている。
アリアは、体勢を崩しながらも――何とか、オルビスに向けて槍を放った。
それを見たオルビスは宙に浮き、自身の前の空間を歪める。
……物理的、物質的なバリアではない。
そこを通ることを、空間自体が拒絶するようなバリア。
しかし、放たれた槍は勢いを増して――
オルビスのバリアを迂回するように、突然、軌道を変えた。
オルビスの動きが一瞬、揺れて見える。
「簒奪の第二指――『因果調律』による、確定命中……よ。
……投げたものを、神と呼ばれたモノに当てるくらいなら――」
アリアの言葉と呼応するように、黒い槍が――……オルビスの胸を貫いた。
虚空には再び、オルビスの悲鳴が響き渡る。
――《Execute Protocol: Self Restoration》
> Damage Detected:CRITICAL
> Biological Core:PENETRATED
> Regeneration Sequence:RUNNING
> Result:FAILED
> Cause:UNREGENERABLE
> Recalculate:RUNNING
> Result:FAILED
> Restore Command:DENIED
……銀色と七色の身体に、黒い亀裂が走っていく。
亀裂は少しずつ滲むように広がり、そして――オルビスは崩れ、宙に消えていった。
それを見届けるように、アリアも……歪な柱から崩れ落ち、地面へと吸い込まれていく。
「どっしゃあああああッ!!!!」
ザインは全力で走り、アリアを何とか受け止めた。
しかし……アリアが軽いとは言え、両肩に掛かる力はかなりのものだ。
受け止めながら、最大限の受け身は取ったものの――当然のように、ザインの両肩は壊れた。
「……ぬぐっ。ぐおおおあぁあ……ッ!?」
「あー……。なーに、やってるのさぁ……」
アリアは弱々しく、ザインに声を掛けた。
アリアは天を仰ぎ、ザインは地に伏せている。
「何って……。お前が危ないから、助けたんだろうが……ッ」
「あたしなら、身体強化の魔法が掛かってるんだけど……」
「……そんな大怪我をしておいて、説得力が無ぇよ……」
そこまで言うと、ザインも何とか身体を動かし、天を仰いだ。
何も無くなった世界に、ただ、ふたりきり――
「情報屋はさぁ……、転移スクロールで……戻りなよ。
若いんだから、まだ死ぬときじゃないよぉ……?」
「何言ってるんだよ。お前だって、同じくらいの歳だろ……」
その言葉に、アリアは少しだけ笑った。
「――それに、一緒に戻ろうぜ?
お前も、転移スクロールは持ってるんだろ?」
「ふふふ、ざーんねん。人数分、売ってなくてねぇ……」
「いや……それでも大丈夫だろ?
大聖堂で、お前は大司教と一緒に……1枚で転移してたし!」
「みんなに渡した転移スクロールは……あたしが改造した、特別製……。
……別の世界から戻れる代わりに、完全にひとり用なんだよねぇ……」
「それじゃ……お前は、どうやって戻るつもりだったんだ……?」
「……無事に倒せたら、あたしの魔法で……ちゃんと、戻るつもりだったよ……」
「それなら、その魔法を――」
そこまで言って、ザインは気が付いた。
アリアは大怪我をしており、おそらくはもう……魔法を使っている場合では無い……のだ、と。
「……あたしはもう、目的を果たしたから……大丈夫。
本当に……長い旅だったぁ……。……まぁ、事前準備の方がずっと長かったけど――」
「おい!? そんなこと言うんじゃねぇよ!!」
「――……ただ……ひとつだけ……。……レイラって、誰……だったんだろう……?
あたしのことを……、あんなに好きだった人なんて……いなかった、はずなのに……」
アリアの言葉は弱くなっていく。
「……先輩……のはずも、ないし――」
彼女が語る1つ1つに、ザインの気持ちは焦っていく。
ザインは必死に声を掛け、優しく身体を揺らすが、それでも――
……しかし、ザインは突然思い出した。
「そ、そうだ! 雪の街で、貴重な治癒薬を買っていたんだ!!
それを使えば――」
アリアが同行を許してくれたあと、自分でも出来るだけの準備をしておきたい――
……そう思ったザインは、密かにオークションに参加していた。
そこで何とか、治癒力のかなり高い……貴重な治癒薬を手に入れていたのだ。
「……無駄、だよ。治癒薬も、結局はオルビスが創り出したもの……。
魔力が無いこの世界では、何の効果も発揮しないから……」
「そんなこと、やってみないと分からないだろ! この、理屈系アリアちゃんめ!!」
「……あは、は。本当に……情報屋は、面白い……ねぇ……」
「凄く高かったんだからな! その分、痛むぞ!!
――アリア!! 我慢する準備をしておけよ!!」
ザインは目に涙を溜めながら、治癒薬の蓋を開けた。
一瞬、祈るように、空の光に透かしてから――アリアの右腕に振りかける。
「――……んぎっ!!?」
突然、アリアが大声を上げた。
想定外の反応に、ザインは心の底から驚く。
「ちょ……あいたたたっ!!? んががががぐぅ……!!?」
「あれ……?
効く……じゃん?」
ふと、意識をまわりに向けてみれば――どこか懐かしい空気が、辺りを満たしていた。
この世界に来てからは感じたことのなかった……魔力。
「……元の世界に、戻っていく――
なるほど……。オルビスがいなくなったから――この世界も、消えるのか……」
アリアは弱々しい声で、言葉を振り絞っていく。
「――でも、魔力は消えない……?
これからどんな世界が来るのか……分からないなぁ……」
アリアは誰にともなく言った。
ここから先は、アリアの考えてこなかった世界。
だから彼女にも、未来のことは何も分からない――
「まぁ……生きていればこそ、だな。
――ところでさぁ」
痛みに堪えながら、何とか立ち上がるアリアの横で――
……ザインは天を仰ぎながら、にこやかに笑う。
「俺も両肩を怪我してるんだが……。治癒薬、余ってない……?」
「あ……、ごめーんっ!!」
アリアは慌てて、帽子から治癒薬を出して――ザインに何本も、次々と掛けていった。
オルビスの世界――
……消えゆく白い世界で、ザインの絶叫も消えていった。
コメント
1件
ああ……もう、本当に、読んでいて心臓がぎゅっとなりました……! メルヴィナが葛藤で魔法陣を歪めちゃうところ、アリアがそれを受け入れるように微笑むところ、全部がせつなくて。 何より最後のアリアとザインの掛け合い、「生きていればこそ」って言える余裕に泣きそうになりました。それでいて「レイラって誰だったんだろう」の一言が刺さって離れません。 成瀬りんさん、この二人の距離感の描き方、本当に繊細で素敵です……! 続き、気になって仕方ないです😢🌷