テラーノベル
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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
――時間が経つと景色は薄れ、世界の境界も薄くなるように……元の世界に戻っていった。
アリアたちは高い空の上にいたようで、最後の方は徐々に降下しているような、そんな感覚があった。
「……戻ってきたねぇ」
「おう。アル……何とかの門、にな」
そんな名前は、既に意味を持たない。
ただ、かつて栄えた文明の痕跡が……消えるように、円状に遺されていた。
「さて……。
メルちゃんとガルドさんも、無事のはずなんだけど――」
辺りを見てまわすと、少し離れた場所の大きな瓦礫の横に……ガルドの姿が見えた。
静かに近付いてみる。するとそこには、毛布を掛けて座る、眠ったガルドがいた。
……その毛布にはメルヴィナも包まれており、身体を寄せ合っていたようだ。
「むふ♪ もしかして、このふたり――」
「いや、寒いからくっついてるだけだろ……」
「ちぇー。お似合いだと思うんだけどなぁ」
聖女のフィオナと、彼女をずっと守ってきたガルド――
これはこれでお似合いではあるが、一生くっつかない気がしていた。
ただ、メルヴィナとガルドも身分差があるから――これはこれで、といった感じだ。
……ふたりを微笑ましく見ていると、ガルドの身体が僅かに動いた。
「……おお、アリアさん! 無事だったか……!!」
「みんなのおかげで、無事でしたよ。ガルドさんも、ありがとうございました」
「いや、アリアさんの力があったからこそ、だ。悲願の成就、本当におめでとう。
――ザインも、オレたちがいなくなった後……支えてくれたんだろう。ありがとうな」
「へへっ。旦那から礼を言われる日が来るなんてなぁ」
ザインも満更ではないように笑う。
ガルドは笑顔のまま、視線を下げて――メルヴィナの頭をゆっくりと撫でた。
「――ずっと、泣いていたんだ。
アリアさん、どうかお嬢さんのことは――」
ガルドの手がふと止まると、メルヴィナが小さく声を上げた。
数人の気配を感じて、メルヴィナは慌てて身体を起こす。
「あ……アリアさん……。
わ、わたし――ほんとうに、ごめんな……さい……」
メルヴィナの涙はもう出なかった。ただ、顔は悲痛に泣いている。
そんな彼女の前にしゃがみ込み、アリアはメルヴィナの頭を優しく撫でた。
「えへへ。メルちゃんのおかげで、あたしは助かったよ。
だから……感謝の気持ちしかないよ? 本当に、ありがとね」
「でも、わたしは……。あなたを、うらぎって――」
「大丈夫、大丈夫だから。ほら、大丈夫だったでしょ?」
アリアは右腕を見せながら、何ともないように笑った。
戦いが終わったあと、既に着替えているため――血の痕跡は見えなかった。
そんな彼女の右腕に、メルヴィナは悲しく抱き着いてくる。
「ああ……。無事で、本当によかった……。
私、罪滅ぼしを――何でも、しますから。何でも……お願いしますから、仰ってください……」
「いや、うん……。メルちゃんがいなかったら、そもそも倒せなかったんだからね?
そこのところ、ちゃんと理解してる?」
メルヴィナは、頭を横に……いや、縦に? 判断が付かない方向に振っている。
さすがのアリアも、これには話を進めにくかった。
「あたしとしては、メルちゃんに無理をさせすぎたって反省してるよ。
だから、罪滅ぼしとか、そういうのは――」
アリアは困り、ザインとガルドの顔に視線を移した。
しかし、そこでピコンと閃いた。
「――それじゃ、あたしが奢る話になってた焼き肉ぅ♪
メルちゃんも半分だけ出して!!」
「え……? いえ、それだけでは……」
「いいから、いいから!
たくさん騒いで、いろいろ忘れよう?」
アリアがウィンクすると、ザインとガルドも言葉を続けた。
「そうだぞ! たくさん、美味いもの食おうぜ!
何なら、俺も出してやるからさ!」
「ふふふ、オレも限界まで食ってやりますよ。
ただ、その分はきちんと払いましょう」
「あはは♪ みんな、それじゃ割り勘になっちゃうじゃーん!」
3人が笑い合っていると、メルヴィナもようやく――
……涙の跡を拭きながら、少しだけ……笑うことができた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――4人は雪の街に戻ると、しばらくそこに滞在した。
全員とも、何かしら思うところはあり……どこか強がるような、素直になれないような――
そんな時間もあったが、少しずつ、元通りになっていった。
ただ、心の底では確かに何かが変わった。
彼らが成し遂げたことは、とても大きいことだったのだ。
「……今のところ、以前と変わりは無いねぇ」
「魔法が使えることはお嬢さんが確認済みだし、特に教会でも変わりは無い。
ザインが礼拝に行ったときに、少し違和感があったくらいか……」
「信仰心が一番なさそうなヤツに、そういうことを試させるかねぇ?」
「教会での礼拝……ということなら、この中ではザインさんが一番適任なんですけど……」
そもそも礼拝をしないアリアと、大聖堂を捨てたメルヴィナとガルド。
そうとなれば、一般信徒のザインが最も適しているとは言える。
「はぁ……。こんなやさぐれたパーティ、他には無いだろうなぁ」
ザインの言葉に、全員が軽く笑う。
「さて、祝勝会にはそろそろ飽きてきたでしょ?
そろそろ、この街を離れる?」
「ああ、そうだな。このままでも楽しいが、オレは大聖堂に戻るつもりだし――」
その言葉に、メルヴィナの身体が反応した。
ただ、そこからの言葉が続かなかった。
「メルちゃんと一緒に、異端諮問局の外回りをやる……っていうのも、楽しそうだけどねぇ」
「その……。オルビス神……いえ、オルビスが……あんな存在だったというなら……。
私は、もう――」
大聖堂を捨て、信仰していた神の真実までを見てしまったのだ。
厳密に言えば……アリアが生命を与えた存在ではあったが、元々は同じ存在――
「……そう考えると、ガルドさんはよく戻れますね?」
「ははは。オレはフィオナ様を支えるのが目的だからな。
神にも教義にも、関心は無いさ」
「私は、まだそこまで割り切れない……。ガルドが羨ましいな……」
「こんなに色々なものを捨ててきた人間を捕まえて……。
羨ましい、ということは無いですよ」
ガルドはメルヴィナの頭を優しく撫でた。
メルヴィナの頬が、少しだけ赤くなったような気がする。
「それで、ガルドさんはすぐに大聖堂に向かうんですか?」
「そのときはアリアさんにも付いてきてもらいたいんだが、すぐに行くか?」
ガルドはアリアに、見透かしたような視線を送った。
アリアの答えは決まっている。
「いやぁ……。あと1年は、行きたくないですねぇ……」
「さすがにそんなには待てないが……。
それならどうだ? オレが住んでいた森に寄っていかないか?」
ガルドの言葉に、ザインとメルヴィナが反応した。
そんなふたりを見て、ガルドは言葉を続ける。
「ああ、お嬢さんも是非いらしてください。ザインはまぁ、どっちでもいいぞ」
「もちろん行くぜ!!」
「私も――少し、お邪魔するね」
「あーあー。本当に、仲良し四人組だねぇ」
アリアの言葉に、ザインが意地悪く続ける。
「レイラは? アリアちゃん大好き人間なんだから、忘れてやるなよ?」
「……まぁ、今は少し……話したい気が、しなくもないけど」
アリアは目を逸らしながら……誰にともなく、そう零した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくの時間を掛けて、アリアたちはガルドが住んでいた森に戻ってきた。
気候は暖かくなり、穏やかな日々が……心の固くなった部分を、少しずつ溶かしてくれる。
「アリアさん、今回はどうでしょう……!」
「おー、美味しくできてるじゃーん。これはガルドさんもにっこりだよ~」
「何でそこで、ガルドの名前が出てくるんですか!」
「え? ……いや、この料理が好きだから……」
「……はぅ」
そんなふたりを眺めながら、ザインとガルドが酒を酌み交わしている。
「はぁ、平和だなぁ……。
でも、旦那はそろそろ……行くのかい?」
「そうだな……。お嬢さんのことが気がかりなんだが、お前はどう思う?」
「旦那が俺に相談たぁ、仲間冥利に尽きるねぇ」
そうは言いつつ、ザインもよく分からなかった。
今はアリアがいるから安定している……。ただ、アリアが離れるとどうなるか分からない――
……何となく、レイラみたいな感じだな。ザインはそう思った。
「――まぁ、旦那はフィオナさんのところに行ってやれよ。
メルヴィナのことは、俺たちが面倒を見るからさ」
「……すまんな。でも、お嬢さんには手を出すなよ」
「ははは。そんなことしたら、俺がアリアに殺されちまうよ」
「ふっ。それもそうか……」
ガルドは笑みを浮かべながら、グラスを煽った。
「……そうだ。もっと強い酒があるんだ。お前も付き合え」
「お、今日はご機嫌だな?
でも、このあと……少しだけ用事があるんだ。すまんな」
「ほう……。それなら、その酒は明日に開けるとしよう」
「旦那も、少しくらい自制心が働くんだなぁ。見直したよ」
「ははっ、ぬかせ!」
そうこうしていると、アリアとメルヴィナが両手に皿を持ってやって来た。
「ご飯の時間ですよぉ~♪」
「私も頑張りました! 上手くできたと思います!!」
「おー、本当に美味そうだ。メルヴィナも上達したなぁ!」
「お嬢さん、見違えるようになって……」
アリアとメルヴィナにも酒が勧められ、賑やかな夕食の時間が流れていった。
――深夜を過ぎた頃、アリアが屋根に上がってきた。
そこには既に、ザインが座っている。
「あれ? ひとりで、どうしたの?」
「ふ……。こんなところ、お前以外に来ないだろ……。
お前が来ないなら、俺はひとりになっちまうだろ……」
「ふぅん?」
アリアは自然に、ザインの横に座った。
「メルちゃんがずっと離してくれなくてさ。ふふっ、ラブラブぅ」
「やっぱり……トラウマに、なってるんだろうなぁ」
あのときの行動――
……アリアを傷つけてしまったことについては、今はメルヴィナだけが影響を残していた。
そのため、アリアはできるだけ、メルヴィナと一緒に過ごしているのだが――
ただ、アリアはアリアで、思うところがあった。
「――あたしは……全部終わったから、故郷にでも戻ろうかなぁ……」
それはザインが、最も恐れていた言葉だった。
旅の目標を終わらせたアリアが、いつかどこかで、出してくるだろう言葉。
「……戻ってどうするんだ?
もう、誰も……いないんだろ?」
オルビスを倒したあと、アリアの故郷のことを、ザインは聞いていた。
オルビスによって滅ぼされ、誰もがいなくなり、緑に埋もれつつある廃墟――
……アリアがいつから住んでいるのか、何故そこに住んでいたのかは……まだ聞けていない。
この期に及んで、まだまだ秘密の多い……そんなアリアだったのだ。
「――それよりもさ。俺と一緒に……また、旅を始めないか?
泣き虫のお前を、ひとりにしてられないからな」
「はぁ……? 泣き虫だなんて――」
「……気付いてないのか? さっきから、ずっと泣いてるぞ?」
アリアはいつの間にか、涙を零していた。
故郷に想いを馳せたのか、仲間との別れを悲しんだのか、それとも――
「あ、あれ? あれれ? え? いや、これは――」
アリアは慌てふためいた。
……涙とは、ほど遠い人間だと思っていたのだ。
「はぁ……。お前はそろそろ、自分の可愛さを自覚した方が良いな」
「は、はぁ!? こんなときに――
ななな、何を言って……!?」
アリアは言葉を止めた。
しかしザインも、アリアをからかうように……同じく、言葉を止めた。
……冷たい風が吹き、頬を撫でていく。
そんな空気に、アリアはどうしても耐えられなくなる。
「……ううぅ。
あうあ――――ッ!!」
アリアは一瞬、光に包まれた。
黒いローブに黒い帽子、黒い靴。金色と赤色の刺繡や装飾が沈むように施されたデザイン――
「――大丈夫。私はそんな言葉で揺るがない」
「ははは!
俺、そっちのアリアも大好きだぞ!」
ザインはアリアの帽子を取って、小さな頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ちょ……、ちょっと……?
……ああ、もう!!? わたしの頭、気安く撫でるなーっ!!」
――時間は進み、空が白み始める。
アリアの旅は終わった。
しかし空の色が、新しい旅の気配を漂わせていた――
コメント
1件
おかえりなさい、アリア!✨ みんな無事に戻れて本当によかった…。メルちゃんが泣きながら謝るところ、胸がぎゅっとなったけど、アリアが焼き肉奢るって笑顔にさせたの最高に温かかったよ。ザインが屋根の上で「一緒に旅をしないか」って言ったとき、涙が止まらなかった…。ふたりの距離感が愛おしすぎるよ🥺💕 これからの新しい旅、ずっと応援してるね!