侑が病室の前で手を消毒していると、巡回中の看護師さんが声をかけてきた。
「面会の方、よく来てくれますね。」
侑は振り返って、少しだけ気まずそうに笑う。
「……まぁ、はい。あいつ、ほっとかれへん性格なんで。」
言いながらも、どこか誇らしげ。
「彼女さん、あなたが来るとすごく嬉しそうですよ。」
そう言われ、侑は一瞬黙った。
嬉しいくせに、それをそのまま返せない。
「……そら、嬉しいに決まってるやろ。彼氏ですし。」
強気な口調で言うが、耳だけほんの少し赤い。
看護師さんはクスッと笑って、
「なるほど。頼れる人なんですね。」
と返す。
侑は鼻で笑った。
「頼れるんはバレーの時もですけど。普段は普通のかっこいい彼氏なんで。」
でもその声はどこか照れていた。
看護師さんはカルテを確認しながら言う。
「体調は安定してますよ。無理しないように過ごせば大丈夫です。」
侑はそこで、少しだけ真剣な目に変わる。
「……ほんまに? 無理して元気そうにしとるとか、ないですか。」
看護師さんはにこっと柔らかく笑う。
「心配なんですね。」
侑はあからさまにそっぽを向く。
「心配とかちゃうし。まあ……ちょっとだけな。」
“ちょっとだけ”と言いながら、顔は完全に“めちゃくちゃ心配してる人”だ。
「あなたが来ると、彼女さん安心してる感じありますよ。」
その言葉に侑はわずかに固まって、
「……そら、安心してもらわな困るし。」
と控えめに言ったあと、
「……でも、他の人の前では強がらんでええって俺が言っといてください。」
と、小声で付け足す。
看護師さんは驚いたように笑った。
「ふふ、独り占めしたいんですね。」
侑はムッと眉を寄せた。
「……そんなん言われたら否定できへんやん。」
看護師さんが去ろうとすると、侑は少しだけ声を低くして言う。
「……いつもありがとうございます。
あいつのこと、お願いします。」
意外なほど丁寧で、大切な人にだけ見せる“真面目”が滲んでいた。
コメント
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え、もう、侑の過保護とか最高やんけぇッ