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ショッピングモールの中の大通りは若い男女達が三々五々に歩き、それぞれのブースにはそれなりのお客さんがいた。
僕は入り口近くのブースを眺め見る。
矢張り男というのはいつの時代だってファッションなどという流行り廃りの目まぐるしい激流にはついていけないわけで、服屋、おしゃれにいうのであればファッションセンターにいるお客さんは大半が女性を占めていた。
幾らかの男子は隣に女子がいて、その甘ったるい雰囲気からカップルだと断定した僕は、瞬時にそいつらを敵として認定した。
なぜかって?
だって彼らが若し仲間なのだとしたら僕は隣にいる彼女、三枝とそういう関係であると認めなくてはならないのだから。
もっとお淑やかな淑女であれば両手を打って首を縦に振るのだが、いかんせん相手は意気軒昂の三枝である。
これは、例えば巷には何年の愛も冷めるという言葉があるが、それに則るのであれば、悠久の愛も冷めるというべきものなのだ。
僕には幾分気息奄々とするきらいがあって、彼女の烈しさは僕の心の軋轢となりうるのだから。
まあ、そんなことは置いておいて。
僕は彼女に目を向けるとこう問うた。
で、何を買うんだ。
「何よ。あんたから誘ったんじゃない。あんたが決めなさいよ」
いやいや、そもそも君が出し抜けに機嫌を悪くしたのが悪いんじゃないか。だから僕はここに連れてきただけだ。
「もう、じゃあいいわ。服を買うから。ただし、ちょっとは出しなさい」
……はぁ、まったく。
「何よ」
……いや、なんでも。
僕は何か言いかけた彼女を顧みず、歩き始めた。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
彼女は慌てて僕に肩を並べる。
いつものところでいいんだろ?
僕はついてきた彼女を一瞥するとそう聞く。
「確かにそうなんだけど、あんたってロマンがないわ」
ロマンってどんな?
「ショッピングモールに来たら少しぐらいはあたりを回るものよ」
生憎、僕はそんな非効率を許さない性質でね。
「んー、なんか思ってたのと違うー」
まあいいじゃないか。何もかもが予想通りなことほどつまらないことはないだろう?
「むー、確かにそうだけど……」
そう言って彼女は言葉を切る。
すると僕の左手には柔らかくて熱い感触が伝わってきて、左肩には重さがのしかかってきた。
左を見るとそこには少し頬の上気した三枝がいた。
「これぐらいは我慢しなさいよね」
すごすごと呟く彼女のあえかな姿に驚いた僕はぎこちなくもまた歩き始めた。
やれやれ、いつもこんなふうに大人しければ僕も幾分は楽だってのに。