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二人の魔神の様子から、単なる気休めではなさそうだと察した善悪の問いにバアルが答える。
「そうだね、んじゃこんな話はどうかな? 今から二千年とちょっと前、現代で言うペルーとボリビアの境界辺り、アンデス山中に段々畑を作り、二頭のリャマと暮らす貧しい一家が居たんだけどね、ビラコチャ、当時はまだ悪魔としてガミュギュンと名乗っていた彼が、ほんの戯れに発生させた霧のせいで両親が亡くなったんだそうでね、幼い姉と病弱な弟の二人だけが残ってしまったんだ、姉は絶望して当時から信仰の対象だった太陽神に祈ったんだよ、『神様、いいえ、悪魔でも悪戯好きな精霊でも構わない、私と弟をお守り下さい、この貧しい土地で生きていける力と富を与えて下さい』とね、だけど太陽は勿論、その願いに答えてくれる者は無かったんだってさ、そうして数年後、いつも以上に厳しい冬がアンデスを襲った時、飢えと寒さに朦朧とした姉弟はその声を聞いたんだってさ」
コユキが身を乗り出して聞いた。
「声って?」
バアルに代わってアスタロトが答える。
「吹雪の中だというのに、ハッキリと聞こえたそうだ、『依頼は受諾した、お前達とその子孫が望み続ける限り、私が守護し、力と富を与える事を約束しよう』とな」
「っ!」
「ふふふ、分かったでしょ? コユキ姉様! ガミュギュンが姉弟の依頼を受諾したんだよ、その後千五百年以上、姉弟の子孫は南米で繁栄し続けたんだ、インカ帝国の中枢を支配してね! 最後の皇帝アタワルパがスペイン人達に、大部屋一杯の金と二杯分の銀を身代金で支払うと約束した時にも、ガミュギュンが皇帝の言葉通りに金と銀を準備して見せたんだよ、まあ、それが逆にスペイン人達に恐怖を抱かせる事になってしまったのは皮肉だったんだけどね…… 皇帝が残酷な処刑を恐れて信仰を捨てると言ってしまってガミュギュンの仕事は終わってしまったんだね…… もしも、皇帝サパ・インカアタワルパが最後まで信仰を捨てなかったら、きっとガミュギュンは彼とインカ帝国を救って見せたと妾は思っているんだよ、引き受けた依頼はどんな事があっても反故(ほご)にしない、それがガミュギュンなんだよ」
アスタロトが続ける。
「それに奴は始めた仕事は途中で投げ出さない、今で言う社畜に近い奴だからな…… 海岸線では我が物凄い信仰の対象だったのに…… 奴のせいで早々にショボショボに…… とほほ」
「あはは、そう言う訳だから、彼が『復活させる』って言ったからには何が何でも姉様兄様は復活すると思うよ! 彼は依頼を達成するまで決して対象から離れないとも言われているからね、案外そこら辺に居たりして?」
素早く周囲を見回すコユキ。
善悪は薄ら笑いを浮かべながらコユキに言う。
「んまあ、ガミュギュン君探しは明日にして今日は兎に角休むのでござるよ! 二人とも疲れたでござろ? 明日、明日! 全ては明日以降の話でござるよ!」
フューチャーと一緒に玄関を上がりながらコユキが言う。
「善悪…… アタシ小腹が空いちゃったんだけど…… 何か食べてからでも良いかな? 寝るのって」
「あ、ああ、そうなの? んじゃ簡単に何か作るからちっと待っててねん、フェイト君、フューチャー君を部屋に案内してあげて欲しいのでござる、ふぅー」
「あ、じゃあ我も食べよう」
「じゃ妾も」
「むにゃむにゃむにゃ、コユキ帰ったのかえ? ん、なんか食べるのかい? んじゃアタシも頂くかな、ふわあぁー、眠いわい」
善悪は夜食のオニギリを大量に握り、コユキとトシ子、バアルとアスタロトは腹いっぱいに堪能し、全ては明日、そう言い合って眠りに着いたのである。
いつの間にか日付が変わっていた。