コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「慧さん、私……」
目の前にいるのは雫ちゃんじゃない。
「私、慧さんのことが好きです! 付き合ってもらえませんか?」
キラキラした目で俺を見てるのは、果穂ちゃんだ。
「ごめんね……果穂ちゃんの気持ちには応えられないから」
もう、夜の9時を回ってる。
果穂ちゃんに呼び出されてやってきた誰もいない小さな公園。
遊具はすべり台とシーソーしかない。
「どうしてですか? 慧さんが雫さんのことを好きなのはわかってます。だけど、私……雫さんより絶対に慧さんのこと愛せます。めいっぱい大事にできます」
真っ暗闇の中、薄明かりの電灯と月の光に照らされて、果穂ちゃんが言った。
「雫ちゃんには……好きな人がいるんだ」
思わず言ってしまった。
「え? そうなんですか?」
「ああ……」
俺は、小声でつぶやいた。
「だったら……だったら余計に」
「誰に言われても無理なんだ。俺が雫ちゃんを好きな気持ちは何があっても変わらないから」
変わるわけがない、こんなに想ってるのに。
「雫さん……あの人はいったい誰が好きなんですか?」
「彼女にはっきり聞いたわけじゃないよ。だけど、わかる。雫ちゃんの目に映るのは俺じゃないって……」
「榊社長ですよね!?」
「……」
「雫さん、あの御曹司の社長さんとくっついたんですか! 私はあの人が誰と付き合おうが全然構いませんけど、でも結局……お金じゃないですか。あんな見た目も良くて、お金も持ってて、そういうのに惹かれて付き合ったんですよね。なんか……最低。振り回すだけ振り回しておいて、慧さんが可哀想です。私なら、そんなひどいこと絶対にしません!」
果穂ちゃんの想い、俺には重すぎて……
本当なら若くて可愛い女の子に告白されて嬉しいはずなのに、心は全く弾まなかった。
もしこの子を好きになって付き合って、雫ちゃんを忘れられたならどんなにラクだろう。
でも、やっぱり俺には……彼女を忘れるなんて絶対に無理なんだ。
「ごめん、俺、もう帰るね。果穂ちゃんは可愛いんだから、もっといろんなところに目を向けてごらん。きっと、俺なんかより良い男に巡り会えるから。申し訳ないけど……俺を追いかける時間が無駄になるだけだよ」
「私、諦めません! 絶対に慧さんを振り向かせてみせます! ちゃんと私を見て下さい。雫さんは他の人のとこに行っちゃったんですから、慧さんこそ、雫さんじゃなくて私に目を向けて下さい。私……慧さんのためならどんなことでもできます」
果穂ちゃん……
これ以上、俺はこの子に何を言えばいいのかわからなかった。
結局、明るいところまで送って、果穂ちゃんは1人帰っていった。