俺は、北海道に……行く。
もう決めたことだ。
それは、自分の成長のためだと思ってる。
だけど、本当は……雫ちゃんの側にいるのがつらい。
それが、とても大きかった。
情けない、本当に呆れるくらい情けないけど……
これから先、彼女の近くにいて、榊社長と雫ちゃんが2人でいるのを見るのは……やっぱり嫌だった。
どうしようもなく雫ちゃんを好きになって、心の中全部が彼女で埋め尽くされて、こんなにもずっと彼女だけを想い続けてきた。
そして……
今日、俺は、ハッキリとフラレた。
彼女を好きになったことはもちろん後悔していない。
死ぬまでずっと、後悔することなんて絶対にない。
でも、今はまだ……
あの可愛い笑顔を近くで見ているのが……つらいんだ。
北海道にはいつか行ってみたいと思ってた。
逃げるみたいでかっこ悪いけど、でも良い機会だと思った。
広大な土地で親戚が酪農を営んでいて、その敷地内にある店で、父の兄がバターやチーズ、新鮮な牛乳を販売している。
叔父の店はとても有名で、北海道でも有数の優良店だ。
乳搾りやバター作り体験などができ、各地から観光客がやって来て人気がある。
そこで一緒に仕事をしないかと、父さんと共に数ヶ月前から誘われていた。
敷地内に東堂製粉所を立て、そこで小麦粉を販売しながら、俺は酪農も勉強する。
父さんも、いつまで自分が社長をできるかわからないし、いつかは俺が東堂製粉所を継がなければならないだろうからと……
今からいろんなことを勉強しておけば全てに役に立つからと言っていた。
東堂製粉所をもっと大きくして、たくさんの人にうちの小麦粉を使ってもらいたい。
「美味しい」って、「日本一の小麦粉」だって……みんなに言ってもらいたい。
それが、俺の夢だから。
雫ちゃんに背中を押してもらえたせっかくのチャンス。
精一杯、向こうで頑張りたい。
父さんは、あんこさんの側にいたいんだと思うし、無理に連れて行くのは止めようと思ってる。
好きな人の側にいられることは、本当に幸せなことだから。
もちろん、父さんがあんこさんにフラレてなければね。
あの2人の関係は昔から微妙で、息子の俺にもわからない部分がたくさんある。
大人の恋は……やっぱり簡単にはいかないのかも知れないな。
とにかく、早速、北海道行きの準備を始めようと思う。
新たな道を、俺なりに前向きに捉えて進みたい。
「雫ちゃんが幸せで、2人の未来が輝かしいものであるように……」なんて、そんなカッコいいことを心から願える日は本当に来るんだろうか?
まだまだちょっと……今の俺には難しそうかな。
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