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事件当日の夕方に時を戻そう。
夕方、早めの夕食を済ませた私達はホテルでまったりと過ごしていた。ブリテン料理だからと警戒していたけど、さすがに自重したのか伝統的な料理は少なくて一般的なものが多くどれも美味しかった。先入観があるから肩透かしを食らった気分だよ。いやまあ、悪いことじゃないんだけどさ。
あとは明日の朝までゆっくりしようと考えていたら、フィーレの相手をしていたフェルが近寄ってきた。
「ティナ、今夜は母船に戻って過ごしませんか?」
「どうしたの?フェル。何かあった?」
急に言われたら気になるよね。もしかしたら対応に気に入らないものがあったのかもしれない。フェルがそんな娘だとは思わないけど、異文化交流に価値観の行き違いは付き物だ。もしそうなら早めに訂正しておきたい。
「いえ、そんなことはありません。皆さん本当に良くしてくださっていますよ」
「ちょっと大袈裟な気がするけどね。でも、じゃあなんで母船に?」
銀河一美少女ティリスちゃん号は長いし恥ずかしいので母船と呼ぶことが増えた。私だけの呼び方だったけど、フェルが合わせてくれる。相変わらず優しい。
「その、ティナが作った部屋でゆっくりしたいなって」
「あー」
フェルとフィーレが植物園を作ったように、私も部屋を作ったんだ。前回の訪問時、女将さんが畳一枚と敷布団含めた寝具一式をプレゼントしてくれた。畳が一枚なのは私がお願いしたから。一枚でもあればあとはアリアに任せて解析し、クラフト装置で複製できる。
そして使われていない部屋を和室に作り替えたんだ。まあ、床を畳にして敷布団を敷いただけなんだけど。SFチックな部屋に和室を再現、自分で言うのもなんだけどなかなかシュールだ。
ただ、フェルが予想以上に気に入ってくれた。旅館でもフェルは畳の感触や香りを気に入っていたから、寝る時はずっと入り浸っていたんだよねぇ。
でもなぁ、せっかく用意してくれたのに帰るのは……。
「……駄目?」
「よし、帰ろう。朝霧さんとメリルさんに伝えないと」
潤んだ瞳で上目遣いは駄目だって。意思脆弱?フェルのあれには抗えないよ。
「私もデータを纏めたいから母船に戻りたいな」
「フィーレちゃんも一緒に戻りましょう」
「ばっちゃんは?」
「私はちょっと野暮用があるから残るよ☆ゆっくりしていってね☆」
「だからどこで覚えたのさ」
ばっちゃんなら変なことしないだろうし、いっか。たぶん私が分からない政治的なお話をするんだろうし。
ティナ達は既にホテルを後にしていたのだ。そしてこの事はティリスからメリルと朝霧にのみ伝えられ、ブリテン側も把握していなかった。その結果、情報漏えいを防ぐことが出来たのである。
対する連邦はアリアを警戒して徹底的にアナログで行動している。事実クレムリンでの企みもアリアは把握していなかった。当然特殊部隊も無線など電子器具を使わないように徹底していた。にも拘らず何故露見したか。
答えは、フェルの存在である。彼女は合衆国で起きた爆破テロ事件で、地球人に対する警戒心をより一層高めたのだ。
彼女はブリテンに入国した瞬間“ティナに悪意を持つ地球人を探知する”という限定的な結界でブリテン島全体を包み込んでしまったのである。この事は地球側に一切伝えていない。
そして連邦の特殊部隊は、ブリテンに潜り込んだ瞬間にフェルから察知されたのである。
悪意を察知したフェルはティリスに相談。事態の深刻さを正しく理解したティリスは、アリアに調査を依頼する。
ロンドン市内は世界でもトップレベルの監視カメラ設置数を誇るため、該当者の調査はアリアにとって造作もないことである。複数の監視カメラから情報を抜き取りその陰謀の一部を察知したアリア。しかし、ティリスはこの件をティナに知らせず地球側へのカードとするべく策を巡らせる。先ずは安全第一として、ティナ達を軌道上の銀河一美少女ティリスちゃん号へ避難させる。理由はフェルが上手く用意し、ティナも疑うこと無く宇宙へ上がった。
地上に残ったティリスは事態をメリルと朝霧にのみ共有する。
「私が二人にだけ伝える意味、ちゃんと考えてくれたら嬉しいな☆」
「ティリスさん、貴女ならばこの問題を無血で解決できるのではありませんか?」
「そりゃ出来るけど、地球のいざこざにティナちゃんを巻き込むのは許さない。ブリテン政府が大言壮語を吐いたんだ。ちゃんと解決して貰わないとこれから安心して観光なんて出来ないし☆」
「……ほぼ間違いなく血が流れることになりますよ。ティナちゃんを苦しめないか心配です」
「大丈夫だよ、メリルちゃん。今夜はなにも起きなかった。ブリテン政府はそうするしかないよね?連邦を非難しても、自分達の警備の甘さを指摘されるのは目に見えているからさ☆」
「つまり、ティナさんにはなにも伝えていないのですか!?」
「これからの交流に、こんな事件は必要ないからよね?☆」
情報は提供するが手は貸さない。地球の問題にティナを巻き込むことも許さない。ブリテン政府は無かったことにするだろうから、ティナにも伝えない。
ティリスの宣言を受けてメリルと朝霧は頭を抱えたが、直ぐにブリテン当局に警告を出した。しかし、物的証拠があるわけでもなく何より時間が少なすぎた。彼らは警戒を強化する他選択肢はなく、更に言えば当局は知らないが守るべきティナ達は既に宇宙だ。
「獲物が居ないことを知らないクマと、情報に右往左往する紳士。どっちが滑稽なのかな?☆」
ただ一人残ったティリスは空を飛びながら一連の大騒動を見物。メリル、朝霧の活躍で襲撃者を排除。更に当局の尽力により関与した大半のエージェントを射殺或いは捕縛することに成功する。
だがここでも問題が発生した。これらのエージェントは既に連邦に於けるデータを完全に消去されており、全て移民の末裔としてブリテンの国籍を有していたことである。
実行部隊に関しては徹底的にアナログ手段を用いた事もあり、背後関係を特定できなかったのである。もちろんアリアが干渉すれば痕跡を辿ることも容易かったが、初日の失敗でティナに不快感を与えた相手に手を貸す道理もなく放置。
「昨晩ロンドンで発生した無差別テロの犠牲者に哀悼の意を表明すると共に、宇宙からの友人が来訪中であるにも拘らずこのような事件を立て続けに引き起こした合衆国及びブリテン政府に強い疑念を表明するものである」
更にまるで見計らったかのように、翌朝早朝連邦政府が声明を発表。連邦の関与を断定するだけの時間的余力もなかったブリテンは完全に後手に回ったのである。
連邦の完全勝利かと思えたが。
「さぁて……誰が指示したか知らないけど。アオムシ退治だ☆」
彼らには、ティリスによる制裁が待ち構えていた。