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鷹槻れん

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#契約結婚
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(私、修太郎さんのそばから離れて現場に出向いたことがなかったので知らなかったですけど、もしかしたら修太郎さんが現場に出る折にはついて行けたりするのでしょうかっ?)
そう思うと少しだけワクワクした。
市雇いではないというのなら、管理係の中本さんが、高橋さんについてあまり詳しいデータをお持ちではなかった、というのにも何となくうなずける。
中本さんは、ひとしきり今まで気付けなくて不覚だったわ、とおっしゃった後、「だからね、私、高橋くんにターゲットを変えることにしたの」と続けられて。
ついで、「塚田さんはいくらアプローチしても脈がなさそうだし、この際いさぎよく諦めることにしたの」とおっしゃった。
その言葉に驚いて、思わず「えっ?」と返したら、
「そんなわけで戦線離脱のお知らせと、新たな宣戦布告! 高橋くんには手、出さないでね。そのかわり塚田さんのことには私、今後一切口出ししないわ。っていうか寧ろ応援してあげる。貴女、許婚がどうこう言ってるけど、本当は塚田さんのこと、すごく好きでしょ? 難しいかもしれないけど……好きなら頑張らなきゃ!」
一気にそうまくし立てられた。
「……あ、あの、私っ」
何か言わないと、と口を開いたら、「言い訳はなしよ?」と先手を打たれてしまう。
ロッカーに荷物を入れ終えた中本さんが、ツカツカと私の方へ近づいていらした。
「貴女、少しは自分の欲望に忠実になりなさいな。親や許婚の言いなりとか……結局は楽な方に流されてるだけでしょう? 欲しいものがあるなら踏ん張らなきゃ!」
眼前にビシッ!と指先を突きつけられて、そう言われる。
「男はそう言う女の子に弱いみたいだけど……でもね、女だってちゃんと自分の気持ち、ハッキリしとかないと周りに都合のいいようにされちゃうんだからね?」
中本さんはそれだけ言うと、くるりと踵を返す。
私はそんな中本さんの背中へ「ありがとうございます」とお礼を言った。
以前、高橋さんにも同じようなことを言われたことがあるのを、思い出しながら。
***
中本さんに叱咤激励されて、私は自分の在り方を省みる。
これまでの私は、確かに両親や神崎家の望む自分であろうと無理をしてきた気がする。
いくらお父様の恩人のご子息だからって……物心ついてから一度もお会いしたことのない健二さんに義理だてする必要なんてなかったはずなのに。
そんなことにすら、先般高橋さんに指摘されるまで私は気づいていなかった。
(どうして私、今まで自分の境遇に何の疑問も覚えずにのほほんと暮らしてこられたのでしょう!)
私は、古往今来本当に何にも知らないカゴの中の鳥だったのかもしれない。
健二さんに、世間の荒波に揉まれるべきだと臨時職員を勧められたのは、私にとって転機となるいい機会だったのかも。
ここに来なければ――私は健二さんとの結婚に疑問なんて抱かずにいただろうし、恐らく嫁いでからも周りの言に、唯々諾々と従うだけの存在だったと思う。
親の言う通りに結婚することに対して、「私自身がどう思っているのか」を考えることの重要性を説いて下さる方はいらっしゃらなかったから。
(中本さん、高橋さん、本当にありがとうございます)
もう一度心の中でお二人にお礼を言うと、私は晴々とした気持ちで席に戻った。ちょっとだけ自分を縛っていた憑き物が落ちて、真っ直ぐに前を見て修太郎さんの方へ歩いて行けそうな気がした。
コメント
2件
中本さん、いいひと!
中本さんの「自分の欲望に忠実になりなさい」って言葉、すごく胸に刺さりました。主人公が「カゴの中の鳥」だったって気づくシーン、じんわり来ましたね。周りに合わせて生きてきた人が、自分の気持ちを見つめ直す瞬間って、すごく大事だと思うんです。高橋さんや中本さんに背中を押されて、少しずつ変わっていく主人公の姿が応援したくなりました。自分を縛ってたものが落ちて、前を向けるようになったラスト、すごく好きです🌙