テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
藤白りいな…お転婆で学校のマドンナ。天然で、先輩や後輩など学校のほぼすべての人が名前を知ってる。
海と仲が良いが、最近結構意識してる
天童はるき…ツンデレの神。りいなのことが大好きだが、軽く、好きなど言えない。嫉妬深い。
男子と仲のいいりいなが誰かにとられないかと心配してる。海に嫉妬中!
佐藤海(かい)…りいなのことが昔から好き。りいなと好きなど軽く言い合える仲。
結構チャラめ(?)デートなどはゲームだと思ってる
月下すず…美人だがなぜかモテない。はるきと海の幼馴染。りいなのことは好きだが、嫉妬中(?)
はるきと海のことが気になってるが、どちらかというとはるきのほうが好きらしい(?)
午後3時。まだ空は明るくて、雲がほんの少し流れている。 光が強すぎるわけじゃなくて、でも顔を上げるとまぶしくて目を細める、そんな時間帯。
りいなの前には、はるき、海、律。 それぞれの告白が空気の中に残っていて、誰もその場を立ち去っていない。
けれど――りいなは、静かに言葉を放った。
「今は、誰かの隣にいるより、自分の気持ちをちゃんと抱きしめたい」
木漏れ日のようなその言葉に、風がふわりと反応する。
「選ばないっていうのは、逃げじゃない。 わたしが、わたしを信じるってこと。午後3時のこの光みたいに、ぼやけてもいいから、ちゃんと“今”を見つめたい」
海が目を細めて、うなずく。 はるきは、遠くを見たまま小さく息を吐く。 律は、笑って言う。
「午後3時のりいな、めっちゃかっこいいじゃん」 「でしょ。午後3時って、すごく“迷ってる人に似合う”時間なんだよね」 「それ、わかる気する」
すずが、りいなのそばに寄って、ペットボトルを差し出す。
「じゃあ、まず水飲も?自分の気持ちってすぐ脱水になるから」 「ありがと…水分補給の自己肯定、やるね」
みんなが、ほんの少しだけ笑う。 午後の空気が、その笑いを包み込んで、揺れたまま進んでいく。
午後3時。太陽が高いのに、そこだけ異空間。 “黒館”と名付けられた、お化け屋敷の入り口には、ちょっと古びた看板と、意味深な案内人が立っていた。
「恋の迷路より怖いかもしれませんよ~」 「……言われなくても、今まさに恋の迷路なんですけど」 すずがぼそっとツッコむ。
りいな、海、はるき、すず。 律はすでに帰った。でも、その名残のように、空気に“思い出の気配”を残していた。
「入るの、やめる?」 海が聞いたけれど、りいなは首を振る。
「むしろ入りたい。ちょっと“感情と別の怖さ”に浸かりたい」 「了解。じゃあ、りいな先頭で」 「それはイヤ!」
そんなやりとりをしながら、4人はお化け屋敷の暗闇へと入っていった。
中は、冷たい風が人工的に吹いていて、足元が少しだけ揺れる仕掛け付き。
「わっ!なにこの壁、手出てる~!」 「すず、それただの腕型クッションじゃ…」 「うるさい!」
前を行くりいなが、ふと立ち止まる。
「ねえ……ここの暗さ、ちょっと落ち着くかも」 「わかる。現実、明るすぎて眩しかったから」 はるきがぼそりと返す。
「告白のあとのお化け屋敷って、何この落差」 海は小さく笑って言う。
そして、進んでいくうちに、ひとつの分かれ道が現れる。
「えっ、分かれ道あるじゃん。右と左?どうする?」 「ジャンケンでしょ!」 すずがすかさず提案。
じゃんけんの結果――りいなと海が右へ、すずとはるきが左へ。
別れた瞬間、空気が急に変わる。 笑い合っていた感情が、またふと静かになっていく。
右の通路で、りいなと海。 揺れの続きでも、誰かと並んで歩く時間は、心に“今だけの答え”をくれる。
「ねえ、海」 「うん?」
「わたし、選ばなかったけど……こうして一緒にいる時間、ちゃんと意味あるよね」 「もちろん。それが“答えじゃない選択”の正しさだと思ってる」
ふたりは、前方の不気味な光を見つめる。 笑うためじゃない。ただ、“隣で震えること”が、今はそれだけで十分だった。
お化け屋敷の右通路。 りいながちょっと前を歩いて、海が数歩後ろで笑ってついてくる。
「ねえ、海……絶対なんか来るよね、この先」 「うん。でも俺は、りいなの反応の方が楽しみ」
「ひどっ!それ、お化けより怖くない?」
そう言いながら、突然“ガタン”と音が鳴る。 りいなが思わず「ひゃっ」と声をあげたその瞬間――
「わっ、ちょ、海!抱きつくなってば…!」
「いやいや逆でしょ。りいなの方が俺にしがみついてるから!見て、抱きしめ返してあげてるだけだよ?」
ふたりの体がぴたっと寄り添う。 暗闇の中、ライトがふわっとふたりの顔だけを照らしている。
「…ねえ、近すぎない?」 「“ちょうどいい”って言って?俺、今の距離気に入ってる」
りいなが照れながらも、小さく海の服の裾を掴む。
「……じゃあ、このままもうちょっとくっついててもいい?」 「え、もちろん。むしろお化けより怖くなくなるから、推奨距離だね」
海の腕が、そっとりいなの肩にまわる。 お化け屋敷の怖さも、今はただの背景でしかない。
「お化け、ありがとうだね。くっつく理由、くれた」 「うるさい!でも…ちょっと、それわかるかも」
ふたりは歩く。 でもその距離は、もう“並んでる”じゃなくて、“寄り添ってる”。
笑いながら、ふざけながら、 “好き”を少しずつ、確かめながら。
お化け屋敷の左側通路。薄暗くて、壁の模様が少し不気味。
ふたりとも、あまり言葉を交わさず歩いていた。 けれど、段差のあるエリアでふと立ち止まる。
「……はるきさ、言えてよかった?」 すずが、目を逸らしたまま問う。
「うん。怖かったけど、言わない方がずっと怖かった」 「りいなの“揺れ”、見てるのは辛い?」 「辛いっていうか……なんか、俺自身が問われてる気がする」
すずは壁にもたれながら息を吐く。
「わたしもね、ずっと傍にいたけど……“りいなと海”って、無理なく自然すぎて、たまに切なくなる」
「……わかる。俺、“好き”って言ったけど、勝ち負けで見てるわけじゃなくて、ただ隣にいてもらえたらって思っただけ」
沈黙。 でも、その沈黙には、ふたりの“言葉にならない肯定”が宿っていた。
すずが、はるきをちらっと見て言う。
「ねえ、わたしたちって、ちょっと陰キャコンビかもね」 「それ、今さら言う?お化け屋敷で言うセリフ?」 「だって、ちょうど“影”の中にいるし」
ふたりは、少しだけ笑った。 そして、“光のペア”がいるもう片方の通路へと歩き出した。
お化け屋敷の中でも一番奥。 カーテンをくぐると、そこには“誰もいない応接室”のようなセット。 レトロなソファ、揺れるランプ、BGMは心臓の鼓動のように小さな音。
「ここ……なんか秘密基地っぽい」 「ね、ちょっとした隠れ家だよね。しかもふたりきり」
海はソファにぽんっと腰を下ろし、りいなを手招きする。
「こっち来て。だってさ、今のこの距離、逃したくない」
りいなが笑いながら、隣に腰掛ける。 すると海がそっと、りいなの肩を引き寄せる。
「……また近すぎる」 「じゃあ遠ざけていいよ」 「……いい。今は、これでいい」
静かにくっついてるふたり。 怖さじゃなくて、信頼と照れが混じった距離感。 まさに“秘密の部屋”がふたりの気持ちを包み込んでいる。
けれど。
突然、ライトがすべて消える。 そして「通路変更のため、ご移動ください」と音声が響く。
「え、なに?強制イベント?」 「待って、りいな――」
人形が落下する演出。扉がバタンと開く。 ふたりは思わず別方向に走ってしまう。
そして。
りいなは細い通路の先で、立ち止まる。 「海…?海っ!」 返事はない。通路が一方通行に設定されている。
“はぐれた”
怖さより、悲しさが先にきた。 さっきの体温が、もうすぐ手の届かないところにあるようで。
突然、暗闇の中から、別の足音。
そして――
「りいな。大丈夫か?」
それは、はるきだった。
りいなが驚いて振り向く。
「え……はるき?なんで…」 「すずと分かれて、出口出ようとしてた。でも……声、聞こえた気がして」
りいなは少しだけ目を潤ませる。
「はぐれちゃって……海と、ちょうどいい距離だったのに」 「うん。わかるよ。ちょうどいい距離って、逃すと“遠すぎる”になっちゃうもんな」
はるきは、りいなの手をそっと取る。
「今だけ、俺の隣でもいい?出口まで連れていく」 「……うん。ありがとう」
その手は、力強くも優しかった。 海じゃない。でも、どこか知っている“懐かしさ”がある手。
暗い通路を、はるきの手に導かれて歩く。 お化け屋敷の出口が見えてきたころ、りいなは少しずつ心の輪郭が戻ってきた気がした。
「海、いないかもしれないし……」 「もし戻ってなかったら、一緒に探すよ」 はるきの声が、優しく響く。
そして――出口の明かりが射す。 その光の先に、立っていた。
海。
ぴったり、出口の外側。 人が通るたびにぺこぺこしていたらしく、係員に「待ち合わせですか?」と声をかけられてた。
そしてりいなが姿を現した瞬間――
「りいなっ!!」
海が駆け寄って、何も言わずにぎゅっと抱きしめる。 はるきが少しだけ距離をとって目を逸らす。
「うわっ…急すぎ!でも……探してくれたの?」 「うん。出口に来ると思って。てか、ここで待つ以外の選択肢、俺にはなかった」
りいなが海の制服の裾を軽く掴んだ。
「……あのね。ほんとに怖かったの、お化けより。海に会えないかもって思うのが、いちばん怖かった」
海は、りいなの顔をじっと見つめた。
「じゃあ、今、ぎゅってしてる時間は最強の安心ってことじゃん」 「ほんとに……そうかも。今がいちばん安心」
すずが遠くから顔を出す。
「ねえ、なにこの青春カップル。周囲の空気置いてきぼりなんですけど~」 はるきがぼそっと返す。
「笑えてるなら、オーケーってことでしょ」
りいなが、海の腕の中からちらっとふたりを見て――またぎゅっと自分からしがみついた。
「ごめん、もうちょっとこの距離でいたい」 「俺は“ずっとこの距離”でもいいと思ってる」
明るい午後3時の太陽が、ふたりの肩をそっと照らした。
お化け屋敷の出口。 海と再会してぎゅっとした直後、りいながふと観覧車を見上げた。
まだ午後3時半。 空は明るくて、観覧車の赤と青のゴンドラがくるくるとゆっくり回ってる。
後3時すぎ、陽が傾き始めて、遊園地の喧騒も少しだけ柔らかくなる頃。 すずとはるきがフライドポテトを分け合っている横で、海は缶ジュースを片手に立っていた。隣には、りいな。照り返す光が、ふたりの影を重ねている。
そのとき、海が突然、少し照れた顔で言う。
「なあ、りいな。次さ…ふたりで乗ろうよ。」
「え?何を?」
「観覧車。…一番高いやつ。」
唐突すぎて、りいなはポテトを咥えてたすずを思わず見る。 すずは目をまんまるにして「うちとはるきで乗るからだいじょぶ〜」と即答。 はるきは何か言いかけたけれど、言葉を飲み込んだまま笑って見せた。
海は続けて言う。
「昼間にみんなで乗ってもよかったけどさ、俺…りいなとふたりがいいって思っちゃった。」
「…なんで?」
「だって、空がオレンジになるこの時間って、ちょっと特別じゃん。りいなと見たいって思った。」
それが無意識なのか、狙ったのか――でもりいなには、どっちでもよかった。 どっちでも、嬉しかった。
「…ふたりで乗るの、いいかも。」
そう言って、観覧車の方に歩き出すりいなの背中に、海が小さく微笑む。 りいなが振り返ると、海が少しだけ照れながら、 「…あ、りいなが照れた〜。もーかわいい。こっち向いてよ〜。顔真っ赤でもいいから〜」と、からかう。
「…うるさいっ!」
でも、海の隣で歩くその足取りは、ちゃんと嬉しさに浮いていた。
りいなが、わざと海の肩に頭を乗せて言う。
「ねえ、ここ落ち着く〜」
海:「永久使用OKです。何なら名前彫る?」
りいな:「刺青?じゃあ背中にも“りいな好き”って入れてよ。」
海が吹き出して、「まじで?その覚悟いる?」と笑う。 そこで、ふたりの距離がぴったりになった瞬間──
りいなが海の胸元に手を置いて、小さく言う。 「…ちょっと近すぎ…」
海はそのまま耳元でささやくように返す。
「じゃあちょっとだけ離れる。…でも心は近いままね」
りいなは一瞬目を泳がせて、ぷいっと窓の外を向く。
海:「あっれれ〜?照れちゃった〜?もーかわいい。こっちむいてよ〜。顔真っ赤でもいいから〜」
りいな:「やめてよ〜!照れてないし!」
海:「じゃあ照れてない選手権やろう。第1回“照れちゃった選手権”開催〜👏」
りいな:「それ、照れてる人が負けるんじゃん!」
海:「もちろん。そして俺は審判で、りいながもうすでに“ほぼ負け”。」
りいなは反撃とばかりに、海の鼻先をつん!
「はい今ので照れポイント+50ね。反撃成功!」
海:「ええー!それ俺の照れカウントじゃん!ずるい!」
りいな:「照れてるのはどっちかな〜〜?」
海は顔を近づけて、まさかの再判定。
「じゃあ、審判からの最終判決。…りいなの照れ顔、優勝。」
りいな:「優勝とかいらない!」
でも、手は海の袖をぎゅっと掴んだままで── ゴンドラの中、ふたりの“甘い試合”は終わる気配なく続いていた。
そしてその頃、すずとはるきの乗った別ゴンドラ。
窓の外のふたりの姿がちらりと見えて、すずが呟いた。
「…なんかさ、あのふたり…付き合ってんのかな?」
はるきは一瞬黙ってから、「…そう見える?」とぼそっと返す。
「うん。だって、りいながあんな表情するの、海の前だけだよ。」
はるきは窓の向こうに目を落として、指先でゴンドラの窓の縁をなぞる。
「…そっか」
すずは、はるきの横顔を見つめながら、少しだけ困ったように笑う。 「でも、ふたりがあんなに楽しそうなら…それはそれで、いいよね?」
はるきは答えなかった。でもその沈黙が、“揺れている”ことを教えていた。
ゴンドラの中、夕焼けの空と静かな時間。 りいなと海の“いちゃ甘さ”がどんどん濃くなっていく一方、外では微かな波紋が広がっていた。
夜の遊園地、観覧車を降りた頃には街の灯がふわっと滲むほど暗くなっていた。 すずが「ね、そろそろ帰ろっかー」と言って、はるきが「駅まで歩こうか」って応える。 イルミネーションの残光に包まれて、4人は並んで園内を抜けていく。
りいなは、海と自然に並んで歩く。観覧車の中でのいちゃつきが尾を引いてるのか、手を繋ぐわけでもないのに、お互いの距離感がやけに甘い。
そのとき、海がちらっと横を見て言った。
「…ねえ、照れてるでしょ?」
「は?照れてないし」 りいなはわざとツンと顔を反らす。
「よし、じゃあ第二回・照れちゃった選手権〜帰り道編〜開催です👏」
すずが後ろから「またやってる〜笑」と言いながらも、楽しそうに見守ってる。 はるきは小さく笑って、それでもりいなと海の空気に少しだけ目を伏せる。
海は真面目な顔で審判モード。
「第一問。観覧車の中でりいなが俺の肩に頭乗せた瞬間の顔。はい、照れポイント25。」
「してないしっ」 「第二問。『ここ落ち着く〜』の後にそっぽ向いた。はい、照れポイント45。」
「やめてよもぉ〜!」
「そして今!この“照れてない”って否定した表情、はい!追加で照れポイント30!」
「照れポイントってなに!?累計とかあるの!?」
「累計100越えたら、罰ゲームです」
「え、なにそれ」
「罰ゲームは…俺のほっぺに好きって言う」
「無理!!!」
「じゃあ照れたら負け。りいなが今、負けかけてるから…俺、ほっぺ出すね」
海が冗談交じりに頬を差し出すと、りいなが笑いながら肩をバシッと叩く。
「それ罰ゲームじゃないじゃん、罰ついてないじゃん!」
「俺はむしろ、ご褒美狙いだから」
りいなが吹き出して、「も〜〜っ」と言いながら、でも手は彼の袖口をぎゅっと掴んだまま。 駅へ向かう帰り道、笑い声とあったかい空気がふたりにじわじわ広がっていく。
後ろで、すずがそっとはるきの腕を触る。 「ちょっと、次は私たちが“勝つ”番かもね」
はるきはその言葉に「勝ち方、まだわかんないけどな」と言って、少しだけふたりの距離を近づけた。
駅に着くころには、商店街の灯りがまばらに灯り始めていた。 4人の歩調は自然にゆっくりになり、夜風に包まれながらそれぞれの“余韻”に浸っている。
りいなは海の隣で、「照れちゃった選手権」なんて茶化した彼の声を思い出して、思わず小さく吹き出す。 でも、笑ってるうちにふと、海の頬がちらついて見えた。
そういえば罰ゲーム…って言ってたよね。
「…ねえ、あの“罰ゲーム”って、ほんとにやる気だったの?」
りいなが、袖口をつかんだままそっと問うと、海はちょっと目を伏せてから、真面目な顔で言った。
「うん。りいなが嫌じゃなければ、ほんとに…やってほしい」
その瞬間、りいなの胸がどくんと跳ねた。からかいじゃない。冗談じゃない。 照れちゃった選手権の延長線が、思いがけず“本気”に足を踏み入れた。
駅前のベンチに、すずとはるきが座って待っている。2人は気づいているのかいないのか、静かに話しているだけで、邪魔する気配はない。
海が小さく「…ほっぺ出すよ」と言って、そっと顔を近づける。
りいなは、頬を赤くしながらも、袖口を握りしめる手に力を込めて…
「好き、だよ」
ふわりと吐き出された言葉に、海の目が驚いたように見開かれて、それからゆっくりほころぶ。
「俺も好き。選手権、りいなの優勝でしょ」
りいなが顔を覆いたくなるような恥ずかしさと嬉しさでいっぱいになって、 でもそのまま、2人の手はそっと繋がれる。
遠くから、すずの「やだ、勝ってるじゃん〜〜!」っていう可愛いヤキモチ混じりの声が聞こえてきて、 はるきがそれをなだめるように笑った。
駅のホームに、ゆるやかな静けさが流れている。電車の接近を知らせるアナウンスが響くと、4人はベンチから立ち上がった。 その瞬間、すずがぴょんと足を弾ませるようにして言う。
「よしっ、次は私たちが勝つ番!照れちゃった選手権、はるきペア編スタートです!」
はるきは「え、俺もやるの?」とちょっと戸惑う素振りを見せながらも、すずの目の輝きに負けたらしい。 「じゃあ…まあ、やれる範囲で?」と照れたように笑った。
すずは歩きながら、まるで実況者みたいな口調で語り出す。
「第一問!すずが髪を結び直してたら、はるきが何も言わず手伝った。あの距離感…はい、照れポイント20!」
「え、それ照れてたの俺じゃなくてすずじゃ…」
「第二問!すずがベンチで寒そうにしてたら、はるきが自分のパーカー貸そうとしてくれた。照れポイント35!」
「それは、まあ、寒そうだったから…」
「そして第三問。今、選手権に参加するって言って、すずの笑顔にちょっと目逸らした。照れポイント40!」
「それは、すずが可愛いからで…いや、言わせるなよ!」
すずが目を丸くして、「ちょ、え、今の…!」と固まってしまう。
りいなと海がそれを見て、顔を見合わせてから爆笑。
「それ、もう優勝じゃない?」 「照れポイント急上昇すぎるでしょ」
すずは頬を赤く染めながら、「じゃあ…罰ゲーム、あるのかな?」ってはるきを見る。
はるきは一瞬だけ迷ったあと、小さな声で答える。
「…すずに、“付き合ってほしい”って言うこと。照れポイント100、超えた罰ゲーム」
電車がホームに滑り込む音がして、ガタンという扉の開く音が静かに響く。
すずは、何も言わずに、手を差し出した。 はるきがそれを取る。
りいなが小さく「うわ、甘い〜〜」って言って、 海がそれに頷きながら、「これは完全に罰ゲームじゃないやつだね」と笑った。
4人は車内へ乗り込み、夜の電車の揺れに身を任せながら、それぞれの“選手権の勝利”に頬を緩ませる。
電車の中、4人並んで座ったシートには、どこか名残惜しさの余韻が漂っていた。 窓の外を流れる灯りの向こうで、さっきの“好き”って言葉がまだ胸の奥でじんわり響いている。
りいながふと、スマホを見ているすずに目を向けた瞬間、隣のはるきがぽそっと言った。
「…なあ、りいな」
「ん?」
「俺とも…“照れちゃった選手権”、やってみる?」
りいながぱちっと目を見開いて、「えっ?」と反応する。 はるきはそれに慌てて、「いや、ほんと冗談!…でも、ちょっとだけ、さ」
すずはスマホ越しにふたりの空気を感じ取って、静かに笑ったまま黙っている。
はるきは小声で続ける。
「“今でも”って言ってくれたの…すっげぇ、嬉しかったから。ほんの1駅分くらい…俺にも、罰ゲーム出してくれよ」
その言葉に、りいなはじわっと心が熱くなる。
「…いいよ。じゃあ第一問。さっきの“俺も好きだった”って目線、照れポイント40」
「それもう判定入るの!?」
「第二問。今の“照れちゃった選手権やろ”って台詞。照れポイント60」
「じゃあ…第三問。りいなの“好き”で俺がちょっと泣きそうになった。照れポイント100、自分申告」
沈黙。だけど、その沈黙は優しい。 誰も否定しない。誰も責めない。
りいなが小さく笑って、「…じゃあ、罰ゲームね」って言って、はるきの手のひらに折り紙みたいに小さく折ったメモをそっと忍ばせる。
「それ、後で読んで。私なりの“好き”のかたちだから」
はるきは何も言わずに、それを大切にポケットに入れる。 電車が次の駅に近づいていく頃、りいなの視線はそっと海へ戻っていた。
海はりいなの表情を見て、安心したように微笑む。 はるきは、すずの肩に静かに寄りかかる。
それぞれがそれぞれの照れを抱えて――でも、誰もがちょっとだけ優しくなれる夜だった。
電車が次の駅に到着するまでのほんの短い時間――ふたりの恋模様は、まだまだ終わらない。 今度は、はるきが立ち上がって、手をパチンと鳴らす。
「よーし、選手権。審判は俺がやります!」
すずが「えっ?はるきが審判!?」と驚いた声を上げて、りいなと海は「これは波乱の予感…」と笑いをこらえる。
はるきは真顔でジャッジモードに入り、目をキラリと光らせる。
「まずは、りいなが“好きだよ”って言ったあとの海の笑顔。照れポイント50!」
「それは海の方が照れてたやつ!」
「でも、りいなの袖ぎゅっも加点あり。さらに!すずが“勝ってるじゃん〜”って言った瞬間に、はるき、ちょっと焼きもち焼いた。照れポイント25!」
すずが「焼きもち…だったの!?」と目を丸くし、りいなが「それ、言っちゃう?笑」と肩を震わせる。
そして――審判・はるきが、わざとらしく咳払い。
「さて、照れポイントが累計100を超えました。ということで…罰ゲームです!」
「え!?」海もすずも戸惑う。りいなは目を見開く。
「罰ゲームは…“キュンキュンボディータッチ系”。相手の“照れてる部分”を優しくタッチしてあげてください」
すずが「どういうこと!?照れてる部分って!?」と大慌て。 海が「俺、頬が一番照れてるから、じゃありいな、任せた」と笑顔で差し出す。
りいなは「え〜〜、ほんとにやるの!?」と言いながら、そっと指先で彼の頬をつつく。 その瞬間、海が「うわ、効いた…照れMAX…」と顔を覆う。
すずは「じゃあ私…はるきの、耳!」と言ってぴょこんとタッチすると、はるきが真っ赤になってうずくまる。
「それはヤバい、すずポイント100!」
電車の揺れの中、選手権はクライマックスへ。 甘さと笑いと、そしてちょっとの心のざわめきを残して、夜の冒険はまだ終わらない。
電車の空気が、ふたりをすっぽりと包む。 すずと海は少し離れた席で話していて、りいなとはるきは並んで座っている。
はるきが、ふと真面目な顔で言う。
「…りいな。今から照れちゃった選手権、俺とやんない?」
りいなが「え、また?」と笑うと、はるきは頷いて、
「でも今回は俺が審判。りいなの“照れてる仕草”を判定してく」
「え〜〜なにそれ、絶対ずるいじゃん」
「そして…罰ゲームは、手をつなぐこと」
その瞬間、りいなの心がぐわっと跳ねる。 でも、それはちょっとだけ期待してしまうような――甘い予感。
はるきは小さく咳払いして、ジャッジモードに入る。
「第一問。観覧車降りてから、りいなが海と並ぶ時の“ちょっと振り返る”目線。照れポイント20」
「え、それ今の!?過去も対象!?」
「第二問。俺が審判やるって言った瞬間の“赤くなった頬”。照れポイント35」
「してない!…してないと思う!」
「そして第三問。今、“手つなぐ罰ゲーム”って聞いて、ちょっとだけ手をムズムズさせてる仕草。照れポイント45!」
「それは…ちょっと…かも」
「累計100です。罰ゲーム、決定」
はるきは冗談っぽく手を差し出す。でも目は、まっすぐりいなだけを見ていた。
りいなはちょっと照れながら、指先をゆっくり近づける。
そして――手と手が、ふわりと重なる。
はるきが小さく笑って、「…やっぱ、反則だな。罰ゲームっていうより、ご褒美だったかも」と言ったとき、 りいなは「あたしも。審判ずるい」と言いながら、でもそのまま指先をきゅっと絡ませる。
すずと海が遠くから見て、「うわ、なんか勝手に甘くなってるー!」ってつぶやいたのは聞こえないふりをした。
家に帰り、ひとりになった部屋の静けさの中。 はるきはベッドに腰かけ、ポケットの中からそっとあの小さな手紙を取り出す。
折り紙みたいに丁寧に折られたそのメモは、りいなの手のひらのあたたかさを、まだほんのり残していた。
ゆっくりと開くと、中にはりいなの丸くて柔らかい字でこう書いてあった。
「好き、って言葉じゃ足りないくらい。 でも、それでも“好き”って言いたくなるのは、 きっと、はるきだから。」
「あの頃も今も、私の中の“優しさ”は、いつもはるきから教えてもらったものだった。 手をつないだ瞬間、心の中に小さく灯りがともった気がした。 ずっと消えないように、あたしは“今の私”でちゃんと向き合いたい。 …それでも、好きって言っていいかな。」
はるきは、静かに読み終えてから、手紙をそっと抱きしめるように握る。
窓の外、夜風が少しだけ揺れてる。 その風に紛れて、はるきは小さな声で呟く。
「…りいな、やっぱ俺、まだちゃんと好きなんだな」
でもその“好き”は、無邪気なものじゃない。 すずの笑顔も思い浮かぶ。いま目を逸らすことはできない。だけど――
手紙の言葉が、心に灯りをともした。 それは、これからの自分の選び方が、少しずつ変わっていく予感だった。
夜。窓の外は静かに灯りが滲んでいて、りいなはベッドにうつ伏せになりながら、スマホを握る手に力が入っていた。 メッセージを打とうとして、打てずに消す。その繰り返し。送信先は――はるきにも、海にも、定まらない。
好きって、ちゃんと伝えたつもりなのに。 “今の私”を選んだはずなのに。 でも、心の中でときどきよぎる、はるきの真面目すぎる横顔と、あの日の優しさ。
海といると、あったかくて、甘くて。 でも、はるきと過ごした過去は、今でも息をしてる。
「こんな風に悩むってことは、まだどっちにも“触れられてない”ってことなのかな…」
りいなはそっと枕に顔を埋める。 照れちゃった選手権では笑い合ってたのに、 いまは自分の“選び方”が分からなくて、涙も出てこない。
「海といる時間に“幸せ”を感じた。 でも、はるきと手をつないだ時――胸が痛かった。 この痛さって、何の気持ちなんだろう」
スマホの画面がぼんやり光ってる。はるきからの「今日は楽しかったな」っていうメッセージが未読のまま。
りいなは、深く息を吐いて思う。
「選ばれるんじゃなくて、自分で選びたいって思ってた。 なのに今、“選べない”自分がいちばん悔しい」
だけど、悩むことも、“自分らしく生きようとすること”かもしれない。 りいなはそう信じて、そっと目を閉じる。
静かな夜は、心の中でまだ続いている照れちゃった選手権みたいだ。 誰にも罰ゲームは与えられず、誰にも審判されないまま、りいなの気持ちだけが揺れている。
ベッドの中、静かな部屋。スマホの明かりが顔を照らしてて、タイムラインには今日の写真がいくつも並んでる。遊園地、観覧車、笑い合う4人。 どれも楽しくて、大切で――でも、どこか「わたしはどこにいるんだろう」って思ってしまう。
りいなの笑顔がまぶしくて、海と並んで歩いてる姿は、きっとあの子の“本物の好き”なんだって感じた。 でも、はるきと手をつないだ時――心が、ほんの一瞬だけ跳ねたんだ。
「どっちが好きか、って聞かれたら…まだ答えられないな。 ただ、“わたしも選ばれてみたい”って気持ちは、確かにある。」
すずは枕に顔を埋めて、そっと笑う。 照れちゃった選手権の罰ゲームみたいに、どこかドキドキしてた今日。 りいなが揺れてるの、気づいてる。でも――それを責めたいわけじゃない。
「りいなが迷ってるように、きっとわたしも迷ってる。 はるきの優しさも、海の明るさも、どっちも好きって言っちゃダメなのかな」
選ばれることより、誰かと“まっすぐ向き合えること”がほしい。 たぶんそれが、すずの願いなんだ。
「もしわたしが誰かを“選ぶ”ことができたら、 その人にはちゃんと届くように、照れちゃった選手権じゃなくても、伝えたいな」
夜の静寂が、ほんの少しだけ優しくなる。 明日また4人で会ったら――もしかしたら、“ほんとうの勝負”が始まるかもしれない。
部屋の灯りは落としてあるのに、スマホの画面だけがぼんやり光ってる。 画面には、りいながそっと頬をタッチしてくれた瞬間の写真――誰かが撮ったのか、偶然残ってた。
海はそれを見ながら、小さく笑う。
「罰ゲームって言ったけど、あれってほんとは“ご褒美”だったな。 …りいなが触れてくれた指先、ずっと熱かった。」
だけど、そのあと。電車の中で、はるきとりいなが静かに手をつないだ瞬間。 あの空気に、海の胸がキュッと締まった。
「俺の“好き”は、ちゃんと届いてたのかな。 それとも、りいなの心の奥には、まだはるきがいるのかな。」
負けたくないと思ってた。でも、照れちゃった選手権って、勝ち負けじゃないんだよな。 “誰の心に、どれだけ残れたか”っていうほうが、ずっと大事。
「りいなが俺にくれた“好き”が、もし一瞬でも本気だったなら―― それだけで、俺はもう十分…って言えたらかっこいいのにな」
でも、そう簡単に割り切れるほど、好きって軽くない。
「俺、もっとりいなに触れたい。 声じゃなくて、時間じゃなくて、“感情”で繋がりたいって思った。」
夜の静けさの中で、スマホの画面を閉じる。 でも心は、りいなの最後の笑顔を、まだずっと反芻してる。
「もう一回、“罰ゲーム”してほしいな。 今度は、照れてない俺で――ちゃんと、伝えたい。」