テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
家へ戻ると、目を覚ました希海と共に昴は風呂へ向かったので、その間に羽衣子は夕食の準備を始める。
今日のメニューは、希海の希望でカレーになった。
『カレーがいい!』
帰宅してすぐ、お腹を空かせた希海が真っ先にそう主張したのだ。
野菜を切り、鍋で煮込み始めた頃、風呂を終えた二人がリビングへ戻ってくる。
「ういちゃーん、まだー?」
「もう少しかな」
濡れた髪をふわふわさせながらキッチンの周りをうろうろする希海に羽衣子は思わず笑ってしまった。
「いいにおい……」
待ちきれない様子が可愛らしく、そんな何気ない光景がどうしようもなく微笑ましい。
やがてカレーが完成し、三人で食卓を囲む。
「いただきます」
「いただきまーす!」
希海は夢中でスプーンを動かし、口いっぱいに頬張った。
「おいしい!」
「本当?」
「うん! ういちゃんのカレー、すき!」
その無邪気な言葉に羽衣子の頬が自然と緩んでいった。
食後、片付けを始めようとした羽衣子を昴が引き止めた。
「後は私がやっておきます」
「え、でも……」
「今日は色々していただきましたから。その間にお風呂へどうぞ」
穏やかに促され、羽衣子は恐縮しながらも言われた通り風呂に入ることに。
暫くして風呂から上がると、待っていたように希海が駆け寄ってくる。
「ういちゃん、あそぼ!」
「ええ? もう寝る時間じゃない?」
「ちょっとだけ!」
結局押し切られ、買ったばかりの玩具で一緒に遊ぶことになった。
そしてひとしきり遊び終える頃には、希海もすっかり眠そうになり、目を擦っていた。
「そろそろ寝ようか」
「うん……」
「それじゃあ希海くんを寝かしつけてきますね」
「すみません、お願いします」
昴に一言伝えた羽衣子は希海の手を引き、寝室へ向かう。
ベッドへ横になった途端、希海は甘えるように羽衣子へ擦り寄る。
「ういちゃん……」
「ん?」
「いっしょにねよ?」
「でも、ここは希海くんとパパのベッドだから……」
寝室には希海と昴が共に寝起きしているキングサイズのベッドが一つある。
そのベッドに自分が横になるのは申し訳ないと思うものの、
「やだ、ういちゃんもここでねるの!」
希海が横で一緒に寝ると言って聞かない為、眠るまでの間だけ、横にならせてもらうことに。
けれど、小さな身体を優しく撫でながら寝かしつけているうちに羽衣子自身にも今日一日の疲れがどっと押し寄せてきて、気づけば、そのまま希海と一緒に眠ってしまっていた。
一方その頃、なかなかリビングへ戻ってこない羽衣子を不思議に思った昴が静かに寝室の扉を開けると――ベッドの中央で希海と羽衣子が寄り添うように眠っていた。
希海は安心しきった顔で羽衣子へ抱きつき、羽衣子もまた柔らかな表情のまま眠っている。
「…………」
その光景を見た瞬間、昴の胸に不思議な温かさが広がり思わず口元が緩みかけた、その時。
『パパとママとお出掛けなんて、いいわねぇ』
昼間、年配の女性に言われた言葉が脳裏を過る。
「……っ」
途端に妙な気恥ずかしさが込み上げてきた昴は小さく咳払いをしてから二人を起こさないよう静かに布団を掛け直す。
そしてどこか落ち着かない気持ちのまま、そっと寝室の灯りを落としてリビングへと戻って行った。
翌朝、薄く差し込む朝日で、羽衣子はゆっくりと目を覚ます。
「……ん……」
ぼんやりした意識のまま身じろぎをすると、すぐ隣から小さな寝息が聞こえてきて、視線を向ければ希海が安心しきった顔で羽衣子の腕に抱きついたまま眠っていた。
「……あ」
そこで、羽衣子の脳裏に昨夜の記憶が一気に蘇る。
寝かしつけをしている途中で自分もそのまま眠ってしまったこと。
そして――ここが昴と希海が普段使っているベッドだということ。
羽衣子は内心で悲鳴を上げた。
(うそ、私……寝ちゃった……!?)
慌てて身体を起こしかけたものの隣で眠る希海を見て動きを止める。
そして、起こしてしまわないよう、そろそろと視線だけを巡らせた後、重大なことに気づく。
昨夜、自分がここで眠ってしまったのなら、昴はどこで寝たのだろうと。
嫌な予感がした羽衣子は、希海を起こさないよう慎重にベッドを抜け出すと静かに寝室を後にしながらリビングへ。
すると、
「……っ」
ソファーで横になったまま眠っている昴の姿が目に入り、その光景を見た瞬間、羽衣子の胸がぎゅっと痛んだ。
(やっぱり……私のせいで……)
自分が眠り込んでしまったせいで昴はソファーで休むことになってしまった申し訳なさでいっぱいになりながらも今起こすわけにもいかないので、羽衣子はそっと視線を落とすと、ひとまず朝食を作ろうと静かにキッチンへ向かった。
物音を立てないよう気をつけながら冷蔵庫を開けようとした、その時。
「……吾妻さん?」
「ひゃっ……!?」
不意に背後から声を掛けられた羽衣子は肩を跳ねさせた。
振り返ると、いつの間に起きたのか昴が少し眠たげな顔でこちらを見ている。
「す、すみません……! 起こしちゃいましたよね……!?」
慌てて謝る羽衣子に、昴は小さく首を横に振った。
「いえ。なんと言いますか……人の気配で目を覚ましただけなので。気にしないでください」
寝起きだというのに責める様子は一切なく、むしろ気遣う優しさに羽衣子は余計申し訳なくなってしまう。
「……その、寝かしつけだけのつもりだったのに、私まで眠ってしまって……ベッドまで占領してしまって、本当にすみませんでした」
すると、昴は一瞬だけ目を丸くした後、ふっと柔らかく笑った。
「占領、ですか」
「だ、だって……」
「別に構いませんよ。むしろ、あんなに安心した顔でぐっすり眠ってもらえたなら、ベッドを譲った甲斐がありました」
「……っ!!」
昴のその言葉に、心臓が大きく跳ねた。
「それに、希海も嬉しそうでしたしね」
「…………っ」
胸の奥が、じわじわと熱を帯びていく。
昨夜感じた“家族みたい”という感覚が頭の中に浮かび、今ここでそれを意識してしまうと表情に出てしまいそうだと思った羽衣子は誤魔化すように視線を逸らし、小さく頭を下げる。
「……あの、朝ご飯、作りますね」
「ありがとうございます」
そう穏やかに微笑まれるとまた胸が高鳴り、結局その後も羽衣子の心臓はなかなか落ち着いてはくれなかった。
#シークレットベビー
#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
1,277
西原衣都
639
猫塚ルイ

757
コメント
1件
ほんわかする……! 羽衣子さんが希海くんと一緒に寝落ちしちゃうところ、めっちゃ愛おしいし、その後ソファで寝てた昴さんに「占領、ですか?」って優しく返されるの、もう胸きゅんすぎました🥺 “家族みたい”な空気がじわじわ染みてきて、朝の台所で心臓が落ち着かない羽衣子さん、すごく共感しました…🌙