「許すなんて、あんこさんのパンはみんなのものだから。ダメだなんて言わないよ」
「ありがとう、良かった。あのさ……いつか、あの人と長野の星空を見にいってよ。本当にすごく綺麗だから。雫さん、感動して泣いてしまわないように気をつけてね。じゃあね、また!」
溢れた涙を手で拭う希良君の、何ともいえない笑顔が……私の胸に切なく残った。
しばらくその場に立ちすくんで、そして、重苦しい足取りでマンションへと向かった。
私は、自分の気持ちに正直に向き合っていくって決めた。
だから……強くならなくちゃ。
慧君にも今のそのままの思いを伝えようと、急遽、スマホを出した。
「慧君、ごめんね。今、大丈夫かな?」
『うん。待ってたよ、お疲れ様』
「慧君もお疲れ様」
『話……あるんだよね。聞くよ、全部話して』
私は、その言葉に甘えるように話し始めた。
「ご飯、誘ってもらったんだけど、一緒には行けないんだ。私……好きな人がいるから」
『うん、そうだよね。わかってたけど、改めて聞くとちょっと気持ちがグラつくな』
「慧君には本当にいろいろ支えてもらった。なのに、ごめんね……」
「ううん、そんなことは気にしないで。雫ちゃんが笑っていられるならそれでいいから。俺も自分のこと……いろいろ考えてるから。だから……」
「慧君?」
「俺、北海道に行く」
「えっ!?」
「前から誘われてたんだ。なかなか決心がつかなくてさ。でも、やっと気持ちが固まったよ。北海道での仕事、頑張ってみようと思う。俺も頑張るから、雫ちゃんも頑張って。あっ、ごめん、電話入ったから切るね……また」
慧君、北海道に行くんだ……
そっか……
いつも当たり前みたいに近くにいたのに、何だかちょっと、心に穴が開いたような気がした。
慧君も希良君も、そうやっていつかは私の知らない人生を歩むんだ。
私は……うん、そんな2人を素直に応援したい。
そして、自分自身も1番大切な人と、新しい人生を歩んでいきたい……って、心からそう思った。
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