「胡蝶さん、こちら任務についての追加データです。到着までに目を通して頂けると」
「ありがとうございます」
任務に行く時にはおなじみとなっている補助監督、和泉さんが渡してくれたタブレットに目を通すと、そこには私が今から向かう任務先であるブルーロックの間取り図や入寮している選手達の情報などが載っていました。
任務に絶対必要となる被害状況や高専への依頼の経緯に関しては、昨日の時点で伝えられたので、これらは追加の情報として、頭に入れておいた方が良いものなのでしょう。
「……あら、電話」
制服の内ポケットに入れている携帯の振動に気付いた私が画面を見ると、そこには“五条先生”との文字が。
「出てもらって大丈夫ですよ」
「すみません和泉さん。……はい、もしもし」
『あ、もしもし? 補助監督から追加情報もらった?』
「えぇ、今目を通しているところです」
『そこに書かれてる選手の情報、今日中に覚えてね!』
「……はい?」
『だから、選手の情報は今日中に覚えてね、って』
「いえ、聞こえなかった訳ではないですけれど。本気で言ってます? 何人いると思ってるんですか」
『もちろん。しのぶならできるでしょ?』
「やれと言われたらやりますけれど……」
ブルーロックにいる選手は現在275名。入寮テストで300人から25人減ったということですが、それにしても多いことには変わりありません。それを今から1日で覚えろというのでしょうか。いえ、1日というか、今の時刻は10時ですから、今日中と言われればあと14時間しかありません。
名前と顔だけを覚えれば良いのであればまだやりやすいですけれど、五条先生が今求めているのはそういうことではないでしょうし。
私に五条先生と同じだけの頭脳を求めないでほしいものです。
『まぁ別に、今日中っていうのは言い過ぎにしてもさ。選手達と関わることも増えるでしょ、多分。ついでに言うとさ……』
そこまで言ってから声のトーンを変えた五条先生。いつもはおちゃらけている先生が真面目な声を出しているということは、私に無茶振りをする理由がちゃんとあるのでしょう。
『ブルーロックにさ、呪霊のこと見えてる奴がいるらしいよ』
「! ……それは、」
『最初っから見えてたのか、それとも入寮してから見えるようになったのか……そこまでは分からないしまず認識できてるっていうのが誰なのかも、はっきりさせられてない』
それは仕方ないのかもしれません。
今回の任務は突然依頼されたものだそうですし、任務場所は関係者以外の立ち入りを基本禁止しているブルーロック。中の情報は集めにくいのだと思います。
私が受け取った情報に関しても、多くが依頼者側から届けられたものだそうです。私に割り振られる前に等級や被害状況について確認するために術師の介入がされているとは思いますが今回のような長期任務の場合、任務内容は詳しいことを調べることからであったりもします。
「……それを私が調べる必要がある、ということですね?」
『大正解!』
「理解しました。それなら選手の情報に関しては覚えておかないと駄目ですね。ですが、」
それはそれとして、五条先生には言いたいことがあります。
「それ、今言うことですか?」
『……細かいことは気に――』
「しない、じゃなくて。せめて一昨日の時点で教えてくださいよ、こういう時間のかかることは」
『メンゴメンゴ!』
「ふざけてます?」
『ごめんって』
「ただでさえ急な任務だったのに、更に追加でこんなこと言われるなんてひどいと思いません?」
『あー、……そんなしのぶにざんね――ぁ゙、五条先生誰と話してるの?! まさかしのぶさん?!』
五条先生が何かを言いかけたところで、誰かの声が割って入ってきました。
「……野薔薇、ですか?」
『ちょっと野薔薇、僕電話中――絶対しのぶさんじゃない変わりなさいよ、っていうか変われ!』
『今しのぶさんっつったか?』
『めんたいこ!』
聞こえてきた後輩の声。恐らく今は1、2年合同の授業中だったのでしょう。いつもの転がし祭りでしょうか。
「…………ふふ、」
賑やかなのは変わらないようです。皆の声に、一昨日のことを思い出して思わず笑いが漏れました。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!