テラーノベル
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カブトムシを見ていると、どうしようもなく奇妙な気分になる。
夏の森の奥で、彼らは必死にしがみつき、ひたすら命を燃やしている。
その光景は、どろりとした甘い匂いを放って、私の記憶に張りついて離れない。
かつて私は、トーストの上にそんな記憶を塗り広げて食べていた。
──そう、あの夏の日々。
今ではもう、懐かしい幻覚のような味わいに過ぎない。
世界の境界線は、いつだって不確かだった。
誰のものでもない土地を、誰かが自分のものだと叫んでいる。
子どものころからずっと、それは変わらない。
私の内側にも、そんな境界線がある。
今日まではここ。だが明日からは越えてしまうかもしれない。
なぜなら私は、きっと…明日、あなたに会いに行くのだから。
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