赤 × 桃 : 《 ホワイトデーの思い出 》
俺達は絶対に、今日という日を忘れない。
三月 十三日 14:35 葵 桃
今日は青が俺の家に来る日だ。
青は俺に似合う服がよくわかっていて
青に選んでもらった服を着て仕事行ったら
かなり評判がいいので、
明日の勝負服を選んでもらうことにした。
桃「 候補はこんくらいかな、 」
何着か俺自身が好きな服を出してきて
ベッドの上に並べて眺める。
俺的には本当に決められない。
ピロンッ、と俺のスマホの通知音が
俺以外誰もいない部屋に鳴り響く。
おそらく青からだろうな、と思いながら
スマホの通知画面を確認する。
そしたら、本当に青だった。
青『 駅ついた 』
『 あと十分くらいで家に着くと思う 』
適当に返信をしてスマホを
そこら辺のクッションに雑に投げる。
候補が決まったとはいえ、終わりでは無い。
次は俺の得意分野、メイクだ。
大切な人に今からの人生で
いちばん大切な物を渡すのなら
服の印象だけでなく、顔も大事だ。
雰囲気的なね。
メイク道具を厳選して、チーク類も
何種類もある中からひとつを選び抜く。
そして色々決まったら
試しでササッとメイクする。
もうすぐ、という緊張からか
今日は肌のノリが最高に悪い。
本当にムカつく。
青「 おじゃましま〜す 」
そして合鍵を行使してインターホンも
押さずに入ってくる腐れ縁の青。
桃「 合鍵持ってっから 」
「 めんどいのは痛いほど分かるけどさぁ 」
「 インターホンくらい押せ 」
青「 押したよ 」
「 この部屋にいたら聞こえないでしょ 」
桃「 …そ〜かよ 」
青「 んで、これが候補? 」
そう言って、
ベッドの上に置かれている服を指さす。
そして俺の返事も聞かずに
アイツはクローゼットを漁りだす。
俺のセンスはそんなに悪いのかよ。
桃「 そこに出てる服じゃダメなんか? 」
青「 悪くないけどプロポーズじゃない 」
「 どちらかと言えば…デート服だね 」
確かに よく考えたら
勝負服にこれは少し違うかも、と思えてきた。
いつだって青のセンスは良いし、
着眼点が俺なんかよりも優れている。
でも自分の容姿の良さに気づかずに
人のこと着せ替え人形にするんだけど。
桃「 服の候補決まったら… 」
青「 よし、買いに行こう 」
「 ここにプロポーズに相応しい服が無い 」
桃「 マジかよ 」
青「 メイクするならしていいよ 」
「 メイクと合わせるのも大切だから 」
桃「 ん、分かった 」
俺がメイクをしようと鏡の前に座った時、
青が俺の服をしっかりハンガーにかけて
綺麗にクローゼットにしまうところを
鏡越しに見た。
青は本当に不器用ながら優しい。
その優しさに気づいていながら
見て見ぬふりして赤に惚れた。
もし赤に出会ってなかったら
俺の方は、いつか青を選んでたのかな。
そんな未来でも良かったのかもしれない。
けど今の俺は、赤を選んだ。
そして俺自身に出来ることを精一杯やって
赤の隣にいれる人間になりたい。
赤は人当たりが良くて、対人関係も上手いから
赤と仲良くなった時に、
何度か嫌味を言われてきた。
でも、そんなの気にせずに
頑張って赤を落とした。
そんな俺の頑張りが、
僻むことしか出来ない奴らに
踏み躙られるなんてたまったもんじゃねぇ。
青「 今日、肌のノリ悪いね 」
俺の顔の隣から急に
にゅっ、と出てきて少しびっくりした。
てか、青から見ても分かるくらい
肌のノリ悪いってとんでもねぇな。
桃「 …緊張からかな〜って思ってる 」
青「 頑張ってよね 」
青がニカッと笑って
俺の背中を少しポン、と叩いた。
少しだけ気合いが入って気持ちが引き締まる。
の前に服を選ばなきゃいけないんだけど。
青「 …楽しみ、だね 」
「 僕も応援してるよ 」
少し悲しそうに、少し悔しそうに、
けど沢山の想いが詰まった笑顔だった。
初めて見る顔で、少し戸惑った。
桃「 …お前のこと、振っちまったからな 」
少しのイタズラ心で笑う。
けど青は満足そうな顔をして
青「 本当だよ 」
笑った。
これが本当の青の笑顔なのかもしれない、
なんて思ってしまった。
そんなこと、無いだろうにな。
三月 十四日 18:56 葵 桃
赤との約束の時間まで後四分。
青に励まされたからか、緊張はしていない。
手に持っている袋の中には、
少し苦戦したけど何とか作ったマカロンと
薄紅色に光る指輪と桃色に光る指輪。
青の知り合いに
俺と、赤の名前を掘ってもらった。
一生、傍にいたいから。
三月 十四日 18:46 浅野 赤
桃ちゃんに呼ばれた。
まぁきっとホワイトデーのお返しだ。
桃ちゃんは甘いもの苦手だけど
俺は甘いものの方が好きってこと知ってるから
お返しは毎年甘いものをくれる。
去年はマジで美味いシフォンケーキだった。
桃ちゃんに教えてもらった分量で
生クリームを作った後、いちごとか桃とかを
適当に乗せて食べたら
本当に美味しすぎて吹っ飛ぶかと思った。
あれば本当に何個でも食べれそうなくらい
美味しかった記憶がある。
ヤバい。
考えてたらヨダレが口の中に溢れてきた。
汚ねぇ。
今年のお返しは、何なんだろうなって
考えながら赤信号を待っていたら
急に大きい音が聞こえた。
そして次の瞬間には、
俺の体の至る所から血が流れて
全身が熱くなり、頭が朦朧としていた。
でも確かに見えたのは、
二人でイルミネーション前で撮った
待ち受け画面だった。
俺の顔にはモザイクかかってたけど
桃ちゃんの顔はハートマークで囲んで
分かりやすくしてある。
本当に大好きな、俺の
三月 十四日 19:18 葵 桃
赤が遅すぎて
赤の家までの道を辿ろうとした時、
赤から電話がかかってきて
「 昼寝でもしてたんか 」って
思いながら電話に出た。
そしたら、頭が真っ白になることが
耳から頭に入ってきた。
「 赤さんが事故にあって、 」
「 意識不明の重体となっています 」
《 事故 》《 意識不明の重体 》
なんて聞いたら、普通の人は
頭が真っ白になるか戸惑うの二つだろう。
俺は両方に陥って、
手に持っていた袋を落とした。
そして、一応その袋を拾って、
ここから一番近い病院まで全力で走った。
電話から聞こえてくる声は
耳には入ってくるが、頭に入ってこない。
三月 十四日 19:25 葵 桃
普通なら十五分はかかる道のりを
凡そ十分で走りきった。
そしてカウンターに行き、
カウンターに座っていたお姉さんに訊く。
桃「 あっ、あの…っ゙!! 」
「 浅野、ッ゙…浅野 赤は、ッッ゙!!! 」
訊く、というか怒鳴っている感じだ。
当たり前だけど、カウンターのお姉さんは
少し怖がりながら「 私には分かりません 」と
答えた。
俺は限界以上に走った体が追いつかず、
そこで意識が朦朧として
数分もすれば意識が飛んだ。
意識が飛んだのは、
脳が色々な事に対しての処理が
全く追いついてなかったからだと思う。
けど、薄れゆく意識の中に、
赤がいた気がしたから「 俺、死んだんだ 」
って思ってしまったけど、
次意識が戻った時には病院特有の匂いと
見覚えのない天井が広がっていた。
?月 ??日 10:40 葵 桃
医師「 …! 」
そして俺の顔を覗き込んでいる
知らない人の顔があった。
医師「 葵さん、起きましたか…! 」
白衣を着ているから、
おそらく医師なんだろうけど
なんでそんなに驚いてんだよ。
俺はどこも怪我してなかっただろ。
そりゃいつか起きるだろ。
医師「 葵さん、右手を握ってみてください 」
思うように力が入らなかったけど
一応、右手に力を入れて握ってみた。
けど、本当に何処か体がおかしいのは感じた。
医師「 自分の名前、分かりますか? 」
何言ってんだよ。
桃「 …ぁ゙、お…い… 」
なんでこんなに声が出にくい。
そういえば体が起こせないし
なんとなく息苦しく感じてきた。
何なんだよ。
俺は赤が心配で病院まで来たし
俺に持病なんて無かったはずだ。
医師「 …自分の名前もちゃんと言えてる… 」
「 やっぱりショックだったのか…? 」
医者は何やらブツブツと独り言を吐いている。
でも、それとは別の騒がしさが耳に入ってきて
とてつもない耳障りだ。
方向的に廊下側だろうか。
?月 ??日 10:42 浅野 赤
俺が目を覚ました時に、心電図の音と
俺が呼吸してる音が聞こえてきた。
頭はまだぼんやりしてるけど、けど
桃ちゃんの顔だけはしっかり頭に残ってる。
たぶん事故にあった時、頭は強打した
みたいだけど桃ちゃんは覚えてるし、
俺の名前も思い出せる。
でも、今日は何月何日だ。
ずっと眠っていたのか、
数日とかしか経ってないのか分かんない。
カレンダー…はこの部屋に無いみたい。
あれ、椅子に誰かいる。
黄「 …っ、赤ッ゙!!! 」
相変わらず心配性だなぁ。
俺の体は見るに堪えない物かもしれないけど
俺はちゃんと生きてるし、もはや痛くない。
神経がやられているのか、一時的か、
それとも痛みを逃がす麻酔なのか。
てか何で声出ないんだ。
ずっと眠ってたから声帯が固まった?
赤「 …ぁ゙、あ゙ぁ…ん゙…ん〜゙ 」
声は出るな。
声帯が完全にやられた訳じゃなさそう。
一時的に固まってたけど、
しばらく声出しすれば治る程度か。
黄「 赤、僕のこと…ッ、 」
赤「 わ、かる…よ 」
俺的には微笑んだつもりだけど
ちゃんと表情見えてるかな。
表情を動かす感覚はあったから
皮膚も落ちたりしてない。
でも足の感覚がほとんど無い。
足は神経がやられてんな。
手は…動く。
骨が固まって動きにくいだけで
全然動いてるから俺は下半身がイカれたか。
黄「 …よかっ、たぁ… 」
黄くんはヘナヘナと椅子に座りこんで
頭を抱えた。
赤「 な、か…あっ、たの…? 」
黄「 …葵さん、が… 」
「 …ショックで昏睡状態…って… 」
ショック、って…
俺が事故にあったからだよね。
それで昏睡状態…
ぼんやりとしていた頭が
急にハッキリとしたと思ったら、
急に体が動き出した。
まともに動かない下半身を意地でも動かして
何処にいるのかも分からない桃くんを探す。
黄くんは俺の体を押えながら
「 もうやめて!! 」ってずっと叫んでる。
ほかのお医者さんや、看護師さんにも
止められても俺の動きだした体は
止まることを知らずに、押さえられながら
ジタバタと動いていた。
これはもう、俺の理性で動かしていなくて
俺の心が勝手に体を動かしている。
医師「 …桃さんは、生きていますよ!! 」
一人のお医者さんが、そう俺に言った。
生きてる死んでるは大切だけど、
それはもう二の次で俺は桃くんに会いたい。
けど俺の体は活動限界を迎えてしまったようで
動かなくなって、意識が飛んだ。
?月 ??日 10:45 葵 桃
廊下の騒ぎが大人しくなったところで
俺は眠くなって、そして睡魔に意識を預けた。
ふと見えたカレンダーは五月だった。
五月は、赤の…たんじょう、び…
五月 二十日 11:58 葵 桃
俺が起きた時、隣には見覚えしかない
赤髪の耳が四つ着いた包帯まみれのやつが
すやすやと眠っていた。
俺が頭を撫でると、
ソイツは嬉しそうに笑った。
怪我してても、反応は何も変わんねぇや。
そんな当たり前で大切なことを、
俺は大人になって思い知ったんだ。
桃「 あ〜あ、今年はお返ししそびれた… 」
「 …っ、… 」
俺のベッドの隣にある小さな引き出しの上には
青と俺しか知らない指輪ケースがあった。
中身を開けると、一つ、桃色が無い。
そして赤の左手の薬指を見たら
桃「 付けるんなら、言えよな 」
しっかりと光り輝いた桃色の指輪が
赤の綺麗で細い指にはめられていた。
俺も、薄紅色に光り輝く指輪をつけて
電気に手をかざす。
眩しいくらいに光り輝くその指輪は
明るい未来を照らしてくれるようだった。
赤「 …本当に、綺麗だね 」
「 桃、ちゃん… 」
赤は突然起きたと思ったら、
俺の方を向いて泣いていた。
笑えよな、もうすぐ誕生日なんだから。
桃「 …綺麗だろ 」
「 …こんな形で申し訳ないけどさ… 」
「 …っ、俺と…!! 」
赤「 返事なんて、一つに決まってんじゃん 」
俺の心臓が、強く跳ねているのを感じた。
赤「 俺でよければ、これからも一緒に 」
桃「 いる、絶対に…傍にいる… 」
赤「 …ありがとう 」
赤は、いつの笑顔でニカッと笑いながら
俺に生チョコを渡した。
赤「 誕生日プレゼント 」
「 黄くんに、手伝ってもらった 」
赤は、バレンタインの時と同じように
イジワル顔で笑ってきたけど、
いつもの赤で安心して胸を撫で下ろした。
だから、俺も
桃「 お返ししなきゃな〜 」
「 とびきり甘いの 」
なんて言って笑うんだ。
四日後、誕生日の君に贈る、
誕生日プレゼントも兼ねて。
本当に大好きで、生涯忘れられないような
プロポーズだ。
その時だけは、泣きながらも笑った。
五月 二十日 12:00 藤田 青
青「 おめでとう、二人共 」
とても短いけど、色んな思いを込めた
僕なりの祝いの言葉。
赤くんを轢いたのは、僕の兄だった。
酒に酔った兄は飲酒運転をして
赤くんを轢いて捕まった。
そんな僕が、二人の傍にいたら
きっとダメだからこの言葉だけを置いて
僕は君達からそっと離れる。
青「 お幸せにね 」
たくさんの思いが綴られたような話。
きっとあの二人は、幸せの絶頂の中に
けどあの子は、絶望の底にいる。
それが本当の幸せかどうかも確かめずに。
支離滅裂で本当に申し訳ないです
コメント
2件
良い話すぎて 涙腺崩壊しました😢 赤くんが 轢かれた時は どうなることやら ... 最高の作品 ありがとうございました 。
めちゃくちゃいい話で泣きました😭 本当に2人とも生きててよかった、、😭