TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

 とある軍事国家の会議室。

 これからの方針を決めた国のトップ達の話は、如何にして目標を攻め落とすかと作戦会議へとシフトしていた。


「ふぅむ。エインデルブルグの外周に一斉砲撃すると城の兵士やシーカーどもが出てくるのではないか?」

「はい。出てきた奴らには囮部隊をぶつけます」

「囮とな? なるほど、もしや転移の塔を?」

「はい。対リージョン部隊が転移の塔を破壊。どこぞのリージョンに出ている総長は、しばらく帰ってこれないでしょう。その間にリージョンシーカー本部を制圧。いずれ戻る総長を叩きます」

「ほう」


 エインデル王国を落とすには、必ず障害となるリージョンシーカー、そして最強と名高い総長であるピアーニャ。完全なる防御と高速の空中移動によって魔法は通用しないとまで言われているが、決して無敵というわけではない。


「ハウドラント人の弱点は、『雲塊シルキークレイ』がなければ何も出来ないという事と、『雲塊シルキークレイ』も目視できるものにしか対応できない事です」

「確かに、操るからには見る事が重要ではあるな。それで?」

「そこで数人で同時に【光乱霧リフリートミスト】と【魔断波シャッターウェイブ】を使います」

「【光乱霧リフリートミスト】は分かるが【魔断波シャッターウェイブ】だと? そんな魔法を使っては……」

「はい、魔法は一時的に使えなくなりますが、『雲塊シルキークレイ』もうまく使えなくなるようです」

「なんだと!?」


 話に出た【光乱霧リフリートミスト】という魔法はチカチカと光る霧を生む魔法で、主に目くらましに使われる。もう1つの【魔断波シャッターウェイブ】は、対魔法防衛の為に開発された魔法で、使用者を中心に魔力を霧散し、遮断する空間を作り出す。その効果範囲は使用者の魔力に比例し、魔法を使用している限り効果を発揮する一種の結界である。

 実は最近になってリージョンシーカーの方から、ファナリア人以外の能力も、根源となる力は魔力であるということが発表された。完全ではないが様々な能力の動きを鈍らせた検証結果も公表されている。中には『雲塊シルキークレイ』の動きが鈍り、徐々に高度を下げるという情報もあったのだ。


「ククク、ならばリージョンシーカーを消し、異界人どもを排除できるな」

「はい。所詮魔法を持たぬ奴らなど、取るに足らぬという事」

「止まっている間に何も出来ぬ小娘を捕獲するなど、大人であれば造作もない」


 魔法に関しては自分達が最強の国家だと信じている彼らは、魔法以外の能力は排除するべき悪としている。それは長い間自分達に言い聞かせ続けた教育であり、一種の自己暗示でもあった。

 会議はこの後、特に厄介な『異界人』の能力とそれに対抗する方法を考える会議へと移行していった。

 話題がシャダルデルクの影の能力を封じる事が出来るかという話題になった時、会議室の天井付近の影に潜り込んでいたシャダルデルク人のシーカーが跳び上がりそうになるほど驚いていたが、引き続きドキドキしながら問題無く盗聴を続けていった。

 この国は『異界』を見下している余り、その『異界人』はどこにでもいて『異能力』が身近にあるという事に気づかないようだ。


(……大丈夫かなこの国……と、この人達)


 まさか見下している相手が頭上から自分達の事を真剣に憐れんでいるとは思わない、国の上層部であった。

 後日、当然のようにリージョンシーカー本部へと、この会議の様子が伝えられる事になる。




 ヨークスフィルンの凍り付いた夜。昼は屋外で賑やかに騒いでいた人々は、夜は屋内で穏やかに過ごしている。

 その風潮は、最凶の警備隊と言われている団体の施設でも例外ではない。


「ふんっ!」

「あああっ、素晴らしいわ! この大胸筋! ペロペロしていいですか!」

「大胸筋だけでいいのかい?」

「えっ」

「腹筋も、いいんだぜ?」

「ぶふーっ!」

「何やってんだアンタら」


 ケインとエンディアのやり取りを見て、もうお腹一杯と言いたげな様子のコーアンが呟いていた。

 エンディアはサイロバクラムの一件の後、ケイン達の警備隊に入隊した。元々部下だったフーリエも一緒である。そのフーリエは、興奮して鼻から噴出してしまったエンディアの血を一生懸命拭いている。


「あまりエンディアを刺激しないでくれよ隊長……」

「すまんすまん、可愛くてついな」

「だからそれをやめろって、ああもう嬉しさで痙攣してるし!」


 もう元部下というよりは気心の知れた世話係である。とは言っても、意外と今の生活は気に入っているようで、ごくたまにレジスタンスをやっていた事を振り返っては「今の暮らしも刺激があって楽しいものだな」と再認識したりしている。

 そんなエンディアとフーリエだが、女装がメインの警備隊では初となる本物の女性隊員だという事で、割と大事にされている。さらに戦闘力や対応力についても申し分なく、様々なアーマメントを活用し、たまに現れる凶暴な魚の対処や夕方に報告された迷子の捜索などで活躍していた。その見た目の妖艶さも相まって、既に人気者になりつつある。

 ただし、悩みが無いわけではない様子。


「なぁ、本当に行くのか? フラウリージェ」

「勿論だ。ドルナに肉体を与えたという噂もあるからな。それに新しい水着が欲しい」

「えっと……エンディアの目に毒なんだけどな」

「なぁに、気にする事でもないだろう」

「気にしてくれよ! たまにはみ出してるんだってば!」

「ははは」


 ケインはたとえ気持ち悪いと指を差されても、それが原因で殺意を持たれたとしても、全く意に介さない程におおらかである。完全に自分の生き方に自身を持ち、意志を一切曲げずに貫いている。

 さらにどんな暴力的な悪人も笑いながら捕らえる程の実力者で、活動も善意に満ちている。周囲からは「少しくらい悪意とか持ってくれたらガッツリ批判出来るのに」と困った声が漏れる程である。

 フーリエはそんな隊長の存在そのものに悩み、夢中になっているエンディアを真剣に止めるべきか葛藤しているのだ。


「クラウンスターにあるコーナーでも良いんだが、もしかしたら本店に新しい水着があるかもしれないからな。あそこの子らとは顔見知りだし、相談に乗ってくれるだろう」

(なんだろう、出会いがしらに魔法を撃たれる気がするのは。アタシがまだ馴染んでないせいか?)


 悩んでいる間にエンディアの興奮が収まり、優しいほほ笑みを浮かべてフーリエに語り掛けた。


「まぁフーリエがいまだにフラウリージェの服を着るのに躊躇するのはわかるわ」

「違う、そこじゃない。それもあるけど」

「でも思い出してみて。サイロバクラムに来たあの子達、サイロバクラムに合わせた服着てたじゃない」

「うん分かるけど、そうじゃなくて……」

「だからわたくし達も、ボディラインを出さない事を恥ずかしがってる場合じゃないと思う」

「いやまぁ、うん……」


 エンディアの説得に、フーリエが軌道修正を諦めた。

 サイロバクラムは基本ボディラインがハッキリ出るボディスーツを着て過ごしている。ムームーと一緒に過ごしているクォンも同様だが、どうしてもボディラインを隠す服に抵抗があり、恥ずかしくなってしまうという感性をサイロバクラム人全体が持っているのだ。


「それに、最近問題になっているの事を調べるにも、必要になると思うの」

「分かってる。だから真剣な顔でこっち見ながら、隊長の腹筋の溝を指で撫でるのやめてくれない?」


 そう言いながら、エンディアの涎と鼻血をせっせとふき取るフーリエであった。




「なんでピアーニャはアリエッタちゃんの事好きになっちゃったの? 以前の妹扱いを頑張って拒絶したいのに逆らいきれなくて後で凹むわたくしの大好きなピアーニャはどこにいったの?」

「そんなフウにわちをみてたのかテリアぁっ!」

「お姉さん悲しいわ」

「おまえはアネじゃないだろ……」


 夜、明日また大きくしてもらいたくて泊まりに来たピアーニャが、エルトフェリアでネフテリアとおしゃべりしながら食事をしていた。


「アリエッタはわちをオトナにしてくれたんだ。ケイイをもつのはトウゼンだろう」

「いやあの見た目は大人未満だと思うけど」


 身長が伸びてもまだ子供らしさが目立つ見た目だったので、ネフテリアは大人というフレーズに疑問を持っているが、今の小さなピアーニャから見たら、それでも立派な大人に見えるという事である。

 そんな他愛ない話をしながら、のんびりと食事を終えた2人。アリエッタの話の次は、その周囲の話へと派生する事になる。


「あ、そうだ。明日の夜にニオとお風呂に入るんだけど、ピアーニャもどう?」

「どうっていわれても……」

「途中からアリエッタちゃんが突撃する予定よ」

「おまえ、ホントひどいコトするな?」


 ついにあの計画を決行するようだ。


「大丈夫。ちゃんと防音するから」

「そこじゃない」

「絶対面白いけど、一緒に入る?」

「うーん」


 意外と真剣に悩むピアーニャ。


「アリエッタちゃんと洗いっこしたら?」

「しょ、しょうがないなー」

「ニヤけてるわよ。ほんと、どうしてこうなっちゃったのかしら……」


 少し前とはまるで正反対のピアーニャに、流石のネフテリアも困惑。試しにちょっと意地悪な質問をしてみる事にした。


「……ミューゼからアリエッタちゃんを盗ってみる?」

「バカなこというな! そんなのアリエッタがのぞんでないだろ! アリエッタはミューゼオラのことがスキなんだからな!」

「ををう……」


 何故か物凄い剣幕で怒られてしまい、ちょっと怖くなってこれ以上踏み込むのを止めた。

 その頃、ニーニルに引っ越してきた実家で寝ているニオはというと……嫌な予感がしているのかずっとうなされていた。

からふるシーカーズ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

46

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚