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「あの時の話をしなかったのは花乃が嫌がるかと思ったから。言っても聞く耳持ってくれないって分かってたからだよ。
もっと距離が縮んでからちゃんと謝ろうと思ってた」
「な、何それ? まるで聞かない私が悪いみたいに言わないでよ!」
大樹と話していると、どんどん私が形勢不利になってしまう。
ごめんって謝る大樹の姿は誠意が溢れている様に見える。
それを頑なに拒否する私は、本当に可愛げがない頑固者だ。
「花乃が悪いなんて言ってないだろ? 悪いのは全部俺だよ」
ああ……大樹を責める程私は惨めな気持ちになっていく。
「花乃、お願いだから最後迄聞いて?」
「……」
「あの時、俺は花乃に酷い事を言ったけど、花乃に嫌がらせをしたかった訳じゃないんだ」
「あんなの……嫌がらせ以外の何が有るの?」
軽い冗談のつもりだった?
そんな事を言われても受け入れられないけど。
「嫌がらせじゃない。だって俺は花乃が好きだったんだから」
「……は?」
予想もしていなかった言葉に私は涙が溜まったままの目を見開いた。
「花乃は俺をただの幼馴染としてしか見てなかっただろうけど、俺は物心が付いた頃からずっと花乃が好きだった。だから毎日嬉しそうに近藤の所に来て話しかける花乃を見て嫉妬したんだ。毎日毎日嫉妬してイライラしていて、あの日ついに耐えられなくなってあんな事を言ってしまった」
う、嘘……大樹が私を好きだった? 信じられない!
だって大樹はその頃から既にイケメンモテ人生で、美人で大人っぽい先輩と付き合ってる噂も有ったくらい。
「それが本当だったとして、どうしてあんな酷い言い方したの? 私を好きだって言いながら嫌われる真似をしたなんておかしいでしょ?」
大樹は悔しそうに顔をしかめた。
「今だったらあんな言い方は絶対しない。でも仕方無いだろ? あの頃は俺だってガキだったんだよ。花乃に近藤じゃなく俺を見て欲しかった。でも花乃を傷つけないで自分の方を向かせる言い方が分からなかったんだよ」
「そ、そんな開き直んないでよ……」
「開き直ってる訳じゃないけど真実だから。でもあの時、花乃の傷付いた顔を見た瞬間、取り返しの付かないことをしたって後悔した。何度も謝ろうと思ったんだ。でも拒絶されるのが恐くてどうしても言えなかった」
私に拒絶されるのが恐い?
そんなの大樹の言葉とは思えない。
「どうして私の拒絶が怖いの?」
「花乃が好きで嫌われたくないから」
大樹は何の迷いも無く言い切る。
とても真剣な目で、嘘は言ってないと思える。
あの出来事を無かった事にするのは無理だけれど、大樹がただいたずらに私をからかった訳じゃなかったのは本当なんだろうって思えた。
「分かった……もういいよ」
気にしてないとは言えないけど、もう仕方が無い。
「花乃?」
「大樹の話、信じるよ。謝ってもらったし、今後は蒸し返さない。大樹ももう気にしないで」
いつの間にか涙は止まってた。
それに今になって、ようやく気がついた。
私が今まで上手く恋愛が出来なかったのは、あの時のトラウマのせいだけじゃないんだって。
大樹が言った「あの頃は俺だってガキだった」って言葉は結構堪えた。
逆に考えると、大樹は今は大人に成長したってことだから。
きっと今あの場面になったとしたら、大樹は違う態度を取るだろう。
さっき須藤さんから私をかばってくれた様にスマートに行動するんだろう。
でも私はあの頃と大して変わってない。
トラウマを言い訳に、自分が成長出来ていなかった。
それは大樹のせいじゃなく、すべて自分自身のせいで……何だか目が覚めた気持ちになった。
須藤さんに振られ、自分の未成熟さを思い知り、どん底な気持ちだけれど逆に吹っ切れたかも。
ここから這い上がって、いつかちゃんとした恋をしよう。そんな前向きな気持ちが生まれてくる。
よし、大分気力が戻ってきた!
気持ちが落ち着いてくると、沙希と美野里にも随分迷惑かけた事を思い出した。それから井口君達にも。
でも……みんなはどこに行ってしまったの?
いつの間にか六人がけのテーブルに座っているのは、何時の間にか私と大樹の二人だけになっている。
「あ、あれ? みんなは?」
「席を外した。どこか他の店に移動したと思う」
「ええ? どうして?」
驚く私に大樹はサラリと言う。
「気を利かせたんだろ。俺が“ごめん“って言った辺りで出て行ったから」
「そ、そんな前?」
私、どれだけ周りが見えなくなってたんだろう。
「沙希と美野里に謝らなくちゃ。井口君達にも“すみませんでした”って伝えておいてね」
そう言うと大樹は軽く頷いた。
「花乃、話はまだ終ってないんだけど」
「話? もういいよ? 私的には納得したし」
「いや、肝心なところをまだ話してないんだけど」
え、何? まだ何かあるの?
何を言われるかと警戒する私に、大樹はなぜか緊張している様子で小さく息を吐いてから顔を上げた。
「俺、あの時、花乃が好きで近藤に奪われたくなかった」
「そ、それさっき聞いたよ」
でもニュアンスが大分過激になってる気がするけど。
真っ直ぐ見つめられながらそんなふうに言われると、いくら大樹が相手でも恥ずかしくなる。
目を逸らそうとする私に、大樹がそれを妨げる様に言った。
「その気持ち、今でも少しも変わってないから」
「……え?」
何? どういう意味?
今でも少しも変わってないって……。
脳が考えるのを停止してしまったのか、直ぐ側にある答えにたどり着けない。
いや、私は考えるのが恐いのかも。
でも大樹はそんな曖昧さを許さないとでも言う様にきっぱり告げる。
「と言うよりあの頃よりもっとずっと好きになってる。誰が相手でも花乃だけは奪われたくない、絶対に渡さない」
「あ、あの?」
何、これ?
大樹の口からこんな言葉が出ていいの?
あの能天気でいつもヘラヘラしていて適当な大樹から。
「花乃、俺諦めないから。これからはもう遠慮しない。覚悟して」
ゾクゾクする様な男っぽい目をして大樹は言う。
わ、私……どうすればいいの?
こんな時の対応、全く分かりません!