結局私は何も答えなかった。
大樹はそんな私を責める事なく、力強い腕でフラフラする私を椅子から立たせ店から連れ出し駅へ向かう。
足元がおぼつかないけど大樹が支えてくれているから、倒れる不安はない。
「花乃大丈夫? 気持ち悪くない?」
心配そうに言う大樹の態度はいつもと変わらなくて、さっきの出来事は夢だったのかも。そんな風に思える程だった。
私は電車で少し眠ってしまった様だった。
いつの間にか自宅最寄の駅に着いていて、大樹に起こされて支えられてホームに降りた。
ひんやりとした風が、頬を撫でる。
少し寝たせいか気分は大分良くなっている。
それでもまだ足元はフラフラしていて、
「花乃、気をつけて」
と大樹に肩を引き寄せられる。
大樹の身体にぴったり寄り添う形になり、なんだか凄い密着度。
でも何時もの様な嫌悪感は沸いて来なかった。
酔っ払ってるせいなのかな?
家迄の道をゆっくり歩きながら、私の肩を抱く大樹が言った。
「花乃」
「何?」
見上げると、極上の笑みが視界に入る。
「俺、今日の朝はどん底な気分だったんだ」
「どうして?」
とても落ち込んでる様には見えないけど。
「だって花乃が男と飲むって言ってた日だから。今日って言うよりこの一週間イライラして結構やばかった。だから花乃と会って変な事言わない様に距離を置いてたし」
「ちょっと……大げさじゃない?」
「大げさじゃないし。俺、かなり嫉妬深いから。よく知ってるだろ? それで昔失敗した訳だし」
それは、さっき聞かされたけど。
でも大樹曰く「ガキだった」あの頃から成長してるん……ですよね?
私の心の声を読んだみたいに大樹は言った。
「花乃、男はいくつになってもガキなんだよ。だからもう他の男とでかけたりしないでね」
「な、何それ?」
言い方は可愛い感じにしてるけど、その獰猛な目付き、どう見てもガキには見えないんですけど。それに、
「私達、付き合ってる訳じゃないでしょう?」
好きだどは言われたけど付き合うなんて話はしてないし。
第一、大樹と付き合うなんて想像出来ないし。
でも大樹は私のたどたどしい反論なんて受け付けませんとでも言う様に、微笑んだ。
「いつかちゃんと告白する。花乃がOKしてくれる様に俺頑張るから」
「……」
自信満々なその笑顔。
ヤケに魅惑的で魅力される。
悔しい事に私は何も言えなくなった。