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第二章 小さな光
第七話 旅立ちの約束
翌朝。
ジントは目を覚ましても、しばらくベッドから動けなかった。
窓から差し込む朝の光が天井を照らしている。
穏やかな朝だった。
けれど、昨夜のことを思い出すたび、胸の奥が落ち着かなかった。
「……」
ダイチ。
昨夜、部屋へ来てくれた。
話を聞いてくれた。
そして
抱き締めてくれた。
思い出した瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
温かかった。
安心した。
ずっと怖かったのに。
あの時だけは不思議と大丈夫な気がした。
「……」
顔が少し熱い。
慌てて布団を頭まで被る。
誰も見ていないのに。
なぜか、少しだけ恥ずかしかった。
◇
朝食を終えた後
ジントはいつものようにマーサの手伝いをしていた。
薬草を仕分ける。
乾燥棚を整える。
いつもと同じ作業。
けれど心はどこか落ち着かなかった。
その時
店の扉が開く。
聞き慣れた声が響いた。
「おはよー、ジントのばあちゃん」
ダイチだった。
ジントの手が一瞬止まる。
「おはよう、ダイチ坊っちゃん。
ジントは奥にいるよ」
マーサの声。
そして足音が近づいてくる。
「……おはよ、ジント」
何故か少しぎこちないダイチ。
目が合う。
逸らす。
「うん……おはよう」
また合う。
逸らす。
気まずかった。
理由はよく分からない。
ただ
昨夜までとは、少し違う気がした。
「……」
「……」
沈黙。
先に口を開いたのはジントだった。
「昨日は……ありがと」
小さな声だった。
聞こえないかと思うほど。
けれど
ダイチはちゃんと聞いていた。
少し目を丸くして。
それから柔らかく笑う。
「ええって」
それだけだった。
けれど
その笑顔を見て少しだけ安心した。
ーーー
しばらく他愛もない話をした後。
ふいに、ダイチの表情が真面目になる。
「なぁ、ジント」
「ん?」
ダイチは少しだけ迷うような顔をした。
けれど、すぐに決意したように顔を上げる。
「……一緒に、街を出ぇへん?」
ジントは目を見開いた。
「え?」
思わず聞き返す。
ダイチは真っ直ぐこちらを見ていた。
「ここにおっても、何も分からん気がするんや」
静かな声だった。
「自分のこと知りたいんやろ?」
ジントは言葉を失う。
図星だった。
「……うん」
小さく頷く。
「でもダイチは……」
ダイチはソルト家の長男だ。
貴族。
街の英雄。
将来を期待されている存在。
自分とは違う。
そう思った。
けれど、
ダイチは苦笑した。
「それやねん」
「え?」
「俺な……」
少し遠くを見る。
「このまま学校卒業して、
父上の仕事手伝って、
家継いで、
決められた道進むんやろなって思っとった……」
青い瞳が揺れる。
「でもな」
その目に光が宿る。
強く。
真っ直ぐな光。
「なんか違うねん」
ダイチは笑った。
「もっと自由に生きたいんや」
その言葉は
十年前
草原へ寝転びながら話してくれた言葉と同じだった。
「好きな場所行って、
好きなことして、
広い世界を見てみたい」
そして、
少しだけ照れ臭そうに笑う。
「ジントと一緒にな」
胸が鳴った。
ジントは思わず目を伏せる。
◇
街を襲った魔物。
冷たい視線。
囁かれる噂。
自分へ集まる瘴気。
砕けた御守り。
そして
マーサ。
大好きな祖母。
頭の中に様々な光景が浮かぶ。
けれど、
最後に残ったのは
昨夜のダイチの言葉だった。
――俺がおる。
胸の奥で何かが動く。
ジントの黒い瞳に
小さな光が灯る。
顔を上げる。
ダイチが待っていた。
返事を。
信じて。
待っていた。
「……行きたい」
声が震える。
「ダイチと」
青い瞳がぱっと輝く。
「ほんまに!?」
「うん」
その瞬間。
ダイチは満面の笑みを浮かべた。
「決まりやな!」
勢いよく立ち上がる。
「じゃあ準備せな!」
「準備?」
「服やろ!
寝袋やろ!
あと武器!
食料もいるな!
水筒も!
地図も!」
次々と言い始める。
さっきまでの真面目な空気はどこへ行ったのか。
ジントは思わず吹き出した。
「なんか……」
「ん?」
「ピクニックの計画みたい」
一瞬静かになる。
そして
二人同時に笑った。
薬屋の中へ笑い声が響く。
その音を聞きながら。
マーサは何も言わず微笑んでいた。
真っ暗だった未来の中に
小さな光が見えた気がした。
それはきっと
二人が初めて自分の意思で選んだ
未来への道標となるのだろう。
しゅうたろう
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#MZ
コメント
1件
うわあ、このエピソード、すごく良かったです……! ダイチが「一緒に街を出ぇへん?」って言い出すシーン、胸が熱くなりました。彼が「決められた道」に違和感を覚えて、自分の意思で自由を選ぶところ、ジントの「行きたい」という震える声、どちらも本当に印象的でした。二人で笑い合うラストの温かさが、これからの旅立ちを祝福しているようで、読んでいて自然と顔がほころびました。comiさん、素敵な物語をありがとうございます。