コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕方。オレンジ色に染まった教室の隅で、すちはひとり膝を抱えていた。
静かすぎる。世界の音が全部、遠くに押しやられたみたいだった。
「……そっか」
みことが好きな人に告白して、笑顔で報告してきた直後だった。
“聞いてよ、すち。俺、やっと言えたんよ……!”
“ありがとう。背中押してくれて……”
その笑顔を見た瞬間──胸の奥がずるりと音を立てて崩れた。
応援したかったわけじゃない。
背中を押したかったわけじゃない。
本当は自分の方を向いてほしかった。
「俺……何やってんの」
笑えない笑いが喉の奥でひどく乾いた。
机の影に落ちるすちの表情は、夕陽が届かない分だけ濃く沈む。
感情はあるのに、表面に出てこない。
代わりに、じわじわと黒いものだけが浮かび上がっていく。
羨ましい。
妬ましい。
壊したい。
奪いたい。
「……全部、俺の中で勝手に燃えてるだけか」
指先が震える。
その震えを押さえ込むように、すちは胸元をぎゅっと掴んだ。
“好きでいてくれるわけじゃないのに、勘違いしてたのは俺の方か。”
気づきたくなかった現実が、薄い膜を破るみたいに突き刺さる。
すちはゆっくり顔を上げた。
まるで別人みたいに、目の奥の色が暗く深く沈んでいる。
「俺……」
誰もいない空間に向かって呟く。
「奪えるもんなら、奪ってでも……欲しかったよ」
その声は温度を持っていなかった。
穏やかで優しい彼の声じゃない。
静かすぎて、冷たすぎて、底に何が沈んでいるのか誰にも掬えない。
夕陽が完全に落ちる頃、
すちは立ち上がった。
影がひとつ、夜の廊下へと溶けていく。
──その背中はもう、以前のようにに柔らかくなかった。
NEXT♡250