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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第二十八話 偶然じゃない
その日は、二人とも少しだけ変だった。
いつもの時間になっても、
どちらからもすぐにはメッセージを送らなかった。
昨日の会話が、まだ頭に残っていたからだ。
しばらくして、彼女から届く。
『起きてる?』
『起きてる』
『なんか話しにくいね(笑)』
『昨日のせい?』
『たぶん』
『俺も』
短い会話。
それでも、離れる気にはならなかった。
『昨日の夢さ』
彼女が送る。
『うん』
『今日も少し覚えてた』
『何を?』
『場所』
彼の手が止まった。
『どこ?』
『分からない』
『また?』
『うん。でも、昨日の写真を見てから少し変わった』
『どう変わった?』
『写真の場所に似てる気がする』
彼はすぐに昨日の写真を開いた。
何度も見た場所。
古い写真。
現在の写真。
そして、もう一枚。
『俺も同じこと思ってた』
『……え?』
『さっき、昔の写真を見てた』
『うん』
『夢の景色と似てた』
彼女はしばらく返事をしなかった。
『偶然かな』
『分からない』
『でも、ちょっと怖いね』
『うん』
それから二人は、写真を一枚ずつ見比べた。
場所。
木。
建物。
道。
何かが同じように見える。
でも、決定的なものは何もない。
『この場所、行ったことある?』
彼女が聞く。
『昔なら』
『私は?』
『分からない』
『だよね』
そこで会話が止まった。
彼女は写真を拡大した。
すると、写真の端に
小さなものが写っていることに気づいた。
『待って』
『どうした?』
『これ見て』
彼女が送った写真には、古いベンチが写っていた。
『これ?』
『うん』
『何かある?』
『ベンチの横』
彼が拡大する。
小さな傷。
文字のようにも見える。
『読めない』
『私も』
でも、二人とも同じものを見ていた。
誰かが残したような跡。
その瞬間、彼の頭にまた何かが浮かんだ。
夕方。
同じベンチ。
誰かが笑っている。
そして、自分の手に何かを握っている。
「これ、渡す」
そんな声。
彼は思わず目を閉じた。
『大丈夫?』
彼女から届く。
『うん』
『本当に?』
『今、少し思い出した』
『何を?』
『何かを渡した』
『誰に?』
『分からない』
彼女は画面を見つめた。
そのとき、自分の中にも何かが引っかかった。
誰かから何かを受け取る感覚。
小さな紙。
その紙に書かれた文字。
けれど、そこまで思い出したところで消えてしまった。
『私も……』
『え?』
『何か、思い出しそう』
二人はしばらく何も言わなかった。
今までなら「偶然」で終わらせていたかもしれない。
でも、今回は違った。
同じ場所。
似た記憶。
そして、同じように思い出せない誰か。
『これ、偶然じゃないのかもね』
彼女が送る。
しばらくして、
『俺もそう思う』
と返ってきた。
その夜、二人は初めて、
自分たちの過去について真正面から話した。
まだ答えはない。
でも、もう「昔のこと」で
片づけることもできなかった。
何かが二人をつないでいる。
それだけは、二人とも感じ始めていた。
コメント
1件
M.Sさん、こんばんは。第28話読ませてもらいました。 「偶然じゃない」っていうタイトルが、最後の二人のセリフでちゃんと回収される感じ、すごく良かったです。特に『同じ場所』『似た記憶』『同じように思い出せない誰か』って並びが、重なるのにぴったり合わないジレンマを感じさせて、じわじわくる。ベンチの傷と紙を渡すフラッシュバック、あの瞬間が一番好きでした。 「もう昔のことでは片づけられない」って一文に、物語の転機が詰まってる気がします。続きがすごく気になる…!