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「この前送った時は昼間だったから気にならなかったけど、随分人気のねぇ道通って帰るんだな?」
「そうかな? まあ、住宅街だからね。どこも似たようなものじゃない?」
電車を降りてから少しして自宅アパートまでの道のりを一之瀬と共に歩いていると、あまり人が通らない道を通る事に驚かれる。
今までそんなに気にした事は無かったけれど、言われてみれば確かに、駅から離れて行くにつれて道幅も狭くなって、車は勿論だけど人もあまり通らない道かもしれない。
それでも、実家がある場所も似たような感じだったからか、さほど気にはしていなかった。
「いやいや、危険だろ? ところどころ『変質者注意』の看板だってあるし……つーか俺と飯食いに行った後とか飲みの後もこんな道通って一人で帰ってたのかよ……。お前だって女なんだから、危機感持てよな……」
「……ご、ごめん……」
「元カレだって部屋来たりしてたんだろ? 何も言わなかったのかよ?」
「う、うん……特には」
「有り得ねぇ……」
今まで何も無かったし、元カレもアパートに度々来ていたけどそんな事言ったりもしなかったから驚く反面、私を心から心配してくれているんだと嬉しくなって顔がニヤけてしまいそうになる。
「……何だよ、ニヤけてるぞ、顔」
「え!? あ、えっと、その……なんて言うか、一之瀬って結構過保護だなぁって」
「別に誰にでもって訳じゃねーよ。他でもない、お前だからだろーが」
「……そ、そっか……」
そこまでハッキリ言われてしまうと、それ以上何も返せなくなってしまう。
(やっぱり、一之瀬……変。本当、調子狂うよ……)
外気はそれなりに冷たい筈なのに、顔が火照っていた私の体温はどんどん上昇し続けていた。
「送ってくれてありがとう……あの、良かったら上がっていく? 大したもてなしは出来ないけど……」
あれから十分程経ってアパートに着いた私はお礼を口にすると同時に上がっていくかを聞いてみる。
けど、明日も仕事だし、あまり遅くなっても迷惑かと言ってから後悔したのだけど、
「……それじゃ、少しだけ上がってく」
少し悩む素振りを見せた一之瀬は上がっていくと言って私と共に中へ入った。
「ちょっと散らかってるけど、その辺適当に座ってて。今コーヒー淹れるから」
「おー、悪いな」
いつもは結構散らかっているけど今日はそうでも無い室内。
荷物を置いた私は手洗いうがいを終えるとキッチンに立ってコーヒーの準備をする。
今思えば、随分大胆な事をしてしまったと改めて思う。自分から一之瀬を部屋に招き入れるなんてと。
一之瀬とは付き合いそこそこ長いけど、思えばお互いの部屋を行き来したのは今回が初めてだ。
先日一之瀬の部屋にお邪魔したのがそもそもの始まりだったけど、まさか、私の部屋に上がる日が来るなんて思いもしなかった。
(まあ今までは彼氏いたし、友達だったとしても、彼氏いたら異性を部屋に上げたりはしないもんね……)
そんな事を思いながらコーヒーをカップに注ぎ終えた私がトレーにカップと市販のクッキーをお皿に盛り付けたのを乗せて一之瀬の座るソファーの前に膝をついてテーブルにトレーを置いた刹那、
「……え?」
ふわりと優しく抱き締められた私の思考回路は停止し、一瞬何が起きたのか理解するのに時間が掛かった。
「……一之瀬……? な、にして……」
我に返った私は一之瀬に後ろから抱き締められている事に焦りと戸惑いを感じて退こうとしたのだけど手を振り解けず、どうすればいいのか分からなくなる。
「悪ぃ……なんつーか仕方ねぇ事だけど、この部屋に元カレ来てて、一緒に過ごしてたんだと思ったら……何か面白くなくて、ちょっと……嫉妬したし、金輪際他の男には取られたく無いって思いが余計強くなって……我慢出来なくなった」
そして、そんな言葉と共にソファーに座らされた私の上に跨るように一之瀬が覆い被さると、
「ちょ……っ、一之瀬……ッん――」
片手で顎をクイッと持ち上げられた私は逃げる間もなくそのまま口を塞がれてしまった。