テラーノベル
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第九十八話 最後に言った言葉
病院へ向かう道を、二人は黙って歩いていた。
少年の頭の中には、
さっき届いたメッセージが残っている。
『あの人が最後に病院で言った言葉を。』
事故のあと。
自分が何も覚えていなかった時間。
そこに、まだ知らない記憶がある。
「……最後に言った言葉って」
彼女が口を開いた。
「うん」
「病院で、あの人は何を言ったんだろう」
「分からない」
少年は少しだけ間を置いた。
「でも、たぶん……俺に向けた言葉だった」
病院に着くと、
二人は以前調べた記録をもう一度確認した。
事故の翌日。
面会者あり。
その後、面会者の名前は削除。
さらに、三か月後にも面会記録が残っている。
少年はその日付を見つめた。
「……三か月後」
彼女が隣から覗き込む。
「さっきの写真の日だ」
「うん」
その日の記録には、短い一文だけが残されていた。
『面会者あり。本人との会話後、退出。』
それだけ。
「何を話したのかは?」
「書かれてない」
少年は記録をめくる。
すると、最後のページに小さな付箋が挟まっていた。
『会話内容は本人の希望により記録しない。』
少年は息を止める。
「また……俺が消してる」
「自分で?」
「たぶん」
付箋の裏には、さらに小さな文字があった。
『ただし、最後の一言のみ記録。』
「……最後の一言?」
二人で付箋の下を見る。
そこには、短い文章が残されていた。
『「待ってる」と本人に伝えた。』
少年の指が止まった。
「……待ってる」
その言葉を聞いた瞬間、頭の奥が揺れた。
白い病室。
窓際に立つ人影。
青いリボン。
そして、聞き覚えのある声。
『もう、来ないから』
自分が何かを言っている。
『どうして?』
『約束したから』
『何を?』
『待つって』
少年は目を閉じた。
記憶の中で、相手がこちらを見る。
その表情は悲しそうだった。
『あなたは、もう忘れてる』
『……何を?』
『私との約束』
少年の胸が苦しくなる。
『でも、いい』
『よくない』
『いいの』
相手は小さく笑った。
『忘れたままでいいから、生きて』
少年は目を開けた。
「……」
彼女が心配そうに見る。
「大丈夫?」
「うん……」
少年は息を整えた。
「今の、たぶん本当の記憶」
「何を思い出したの?」
「病院で……あの人と話してた」
そして、最後の言葉。
『忘れたままでいいから、生きて』
少年はその言葉を口にした。
彼女は何も言わなかった。
その言葉の重さが、二人の間に残る。
少年は再び記録を見る。
「でも、おかしい」
「何が?」
「三か月後に来たのに……『最後』って書かれてる」
彼女も気づいた。
「最後に会ったってこと?」
「たぶん」
少年は記録の下を確認した。
そこには小さな追記があった。
『以後、面会なし。』
そして、その下に――
手書きの一文。
『本人が思い出すまで、会わない。』
少年はその文字を見つめた。
「……あの人は、自分から会わなくなったんだ」
「待ってるのに?」
「うん」
「どうして?」
少年はしばらく考えた。
そして、ふと気づく。
「俺が……そう頼んだんだと思う」
「え?」
「事故のあと、俺はその人に会うことを怖がったんじゃない」
少年の記憶が少しずつ繋がる。
『もう会わないで』
『どうして?』
『俺が思い出すまで』
『……分かった』
「俺が、思い出すまで会わないように頼んだ」
彼女は驚いた顔をする。
「じゃあ、今まで探してたのは……」
「俺が思い出したから」
少年はスマートフォンを見る。
知らない番号からのメッセージは、まだ続いていた。
『ここまで来たなら、もう隠す必要はない。』
続いて届いたのは、一枚の写真だった。
三か月後の病院。
廊下。
青いリボンの人が、病室から出てくるところ。
その手には、あの小さな箱。
そして写真の裏には――
『箱は、あの人が持って帰った。』
少年は息を呑む。
「……箱」
ずっと探していた箱。
自分が渡すはずだったもの。
受け取るはずだったもの。
けれど、違った。
あの人が持って帰った。
なぜ。
その箱の中には何が入っているのか。
彼女が写真を見ながら呟く。
「じゃあ……箱は今も、あの人が持ってるのかな」
少年は答えなかった。
ただ、写真の端に写った小さな文字を見つけていた。
『箱を開けるのは、二人がもう一度会ったあと。』
少年の心臓が強く鳴る。
もう一度会う。
それはつまり――
あの人は、まだどこかにいる。
そして、いつか再び会うことを前提に、
箱を持ち続けている。
少年は写真を握りしめた。
「……会わなきゃ」
今度は、過去を取り戻すためじゃない。
約束を終わらせるためでもない。
忘れたまま置いてきた人に――
自分の言葉を返すために。
そのとき、スマートフォンが震えた。
最後のメッセージ。
『次は、箱を持っている人を探して。』
そして、その下に――
初めて、場所の名前が書かれていた。
『あの日、二人が最後に別れた場所。』
#恋愛
ばたっちゅ
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#誓い
耀聖(ようせい)
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コメント
1件
クラリスさん…!!!第98話、読み終わったよ…😭💦💦 「忘れたままでいいから、生きて」って…その言葉、重すぎて胸がぎゅってなった…。 待ってるって言いながら、自分から会わないって選んだのも、箱を持ち続けてるのも、ぜんぶぜんぶ優しさの裏返しなんだね…。 次は「別れた場所」か…!もう二人が向き合う瞬間、近づいてる気がしてドキドキが止まらない…!! 続き、絶対読みに来るからね…🌸💕