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第九十九話 最後の別れ
メッセージに書かれていた場所は、
古い歩道橋だった。
以前にも一度、二人で訪れたことがある。
事故の前日。
二人が最後に別れた場所。
少年は階段を上りながら、
何度も足を止めそうになった。
「ここ……」
「うん」
彼女も覚えていた。
あの日、ここで誰かと別れた。
『明日、ちゃんと渡すから』
あの言葉を残した場所。
けれど、まだ知らないことがある。
――その翌日。
事故の日に、ここで何があったのか。
歩道橋の上に着く。
夕方の風が吹いていた。
少年は手すりに触れた。
その瞬間、記憶が戻った。
雨ではない。
事故の前日。
晴れた空。
隣にいる誰か。
青いリボン。
『明日、ここに来る?』
『うん』
『絶対?』
『絶対』
そして相手が、小さく笑う。
『じゃあ、待ってる』
「……」
少年は目を閉じた。
「ここで約束した」
彼女が尋ねる。
「何を?」
「次の日に、会うこと」
「事故の日?」
「うん」
少年はゆっくり頷いた。
「俺は、ここに戻ってくるつもりだった」
そのとき。
また別の記憶が重なる。
事故の日。
雨。
歩道橋の下。
青いリボンの人。
『どうして来たの?』
『約束したから』
『でも……もう、来なくていい』
『嫌だ』
少年は息を呑んだ。
「……違う」
「どうしたの?」
「俺は、ここに来たんじゃない」
記憶がさらに続く。
事故の日。
少年は歩道橋まで来ていた。
けれど、相手はいなかった。
代わりに――
誰かからメッセージが届いた。
『場所を変える』
そのメッセージに従って、
少年は別の場所へ向かった。
「……呼び出された」
彼女が息を呑む。
「誰に?」
「分からない」
でも、事故直前に聞いた声が蘇る。
『こっち!』
そして、振り返った。
「俺は……あの人との約束を守るために、場所を移動したんだ」
「じゃあ、事故は……」
「その途中」
少年は目を閉じた。
「あの人は、俺を呼んでない」
「じゃあ、誰が?」
「分からない」
そこで、少年の視線が歩道橋の下に向いた。
「でも……たぶん、箱を持ってた人」
「病院にいた人?」
「うん」
二人は階段を下りた。
橋の下には、小さな古いベンチがあった。
以前は気づかなかった。
そのベンチの裏側に、あの印が刻まれている。
少年は指でなぞった。
すると、隙間から紙が出てきた。
『ここで最後に別れたのは、事故の日じゃない。』
彼女が読む。
その下に続いている。
『本当の最後は、その前の日。』
少年は紙を見つめた。
「……やっぱり」
事故の日に会ったと思っていた。
でも、違った。
最後にちゃんと別れたのは、事故の前日。
事故の日は、その約束を果たすために動いていた。
その途中で、何かが起きた。
紙の裏には、さらに一文があった。
『あの人は、ここで君を待っていた。』
「……」
少年の胸が苦しくなる。
「じゃあ、俺は……」
「来られなかった」
彼女が静かに続けた。
「事故に遭ったから」
少年は頷いた。
そのとき。
遠くから、聞き覚えのある声がした。
「……もう、十分だよ」
二人が振り返る。
誰もいない。
けれど、少年は動けなかった。
今の声。
事故の日に聞いた声と――
同じだった。
スマートフォンが震える。
知らない番号からだった。
『振り返らないで。』
少年は画面を見つめる。
『今、君の後ろにいる人が、すべてを知っている。』
彼女が驚いて振り返ろうとする。
少年は咄嗟に止めた。
「待って」
「でも――」
「まだ、振り返らないで」
二人はその場に立ったまま、動かなかった。
背後に、人の気配がある。
足音が一つ。
そして――
「……やっと、思い出してくれたんだね」
少年の呼吸が止まった。
その声は、ずっと探していた声だった。
事故の日。
病院。
知らない番号。
すべてにつながる声。
少年はゆっくり目を閉じた。
「……あなたが」
声を出そうとした、その瞬間。
背後の人物が静かに言った。
「箱を、返しに来た」
少年は振り返った。
そこに立っていた人物の手には――
あの日からずっと探していた、小さな箱があった。
#恋愛
ばたっちゅ
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#誓い
耀聖(ようせい)
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コメント
1件
クラリスさん、第101話読み終わりました。このエピソード、すごく良かったです…!「最後の別れ」というタイトル通り、記憶が少しずつ戻るシーンが切なくて、歩道橋で約束した日と事故の日のズレに気づく流れ、ぞっとしました。特に「あの人は君を待っていた」「来られなかった」っていう交換が胸に刺さります。背後から聞こえた声と「箱を返しに来た」という締めくくり、細かい伏線が効いていて、続きが気になりすぎます。