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「で?ひろくんに変なこと吹き込んだんだってね」
翌日、𝐂𝐋𝐎𝐒𝐄という看板に変わった太齋さんの店で
僕と太齋さん、昨日の女性の3人で丸いテーブルを囲み、それぞれが角を向いて座っていた
──なぜこんな状況になっているかと言うと
それは遡ること昨夜のこと……
「ひろくん、もう寝た?」
「起きて、ますけど…」
「よかった。……明日さ、あいつには俺から言っておくから」
「そ、それって!僕もいてもいいですか…?」
「えっ?…うん大丈夫だとは、思うけど。」
「ありがとうございます…!!」
(知らないところで太齋さんがあの人と喋ってるって、想像しただけで嫌だ)
(なにより野放しにしたら絶対太齋さんにくっつきかねない…!!)
───そんな会話があり、現在に至る。
「わざわざひろくんのこと待ち伏せてファミレス連れ込んだって話だけど」
開口一番に太齋さんがそう言う。
不機嫌そうな唸り声に、彼女に向けられる鋭い眼光。
しかし彼女は臆することなく、
「別に、聞きたいことがあっただけだし。」
組んでいた足を組みかえ、堂々とした佇まいで答える。
「大体おかしいじゃん、本命の女でもできたのかと思ったらこんなちんちくりんの男とか」
太齋さんはさらに圧をかけるように言う。
「俺の勝手でしょ、想像で勝手に捉えたのはそっちだ」
太齋さんの言葉に、彼女は口を尖らせて少し不貞腐れたように言う。
「なんであんたみたいな男がしゅんに愛されんのよっ!どうせ私のことバカにしてんでしょ?」
「そ、そんなこと…!」
僕が否定すると彼女は水の入ったコップを持ち
「まじで腹立つ…意味わかんないっ!!」
言いながら僕に目掛けて掛けてきた。
目を閉じるも、冷たい感覚はなくて
「…っ、な、なんでしゅんが?」
女性の呟くような言葉に目を開けると、僕を庇うように太齋さんが水を浴びて濡れていた。
「だ、太齋さん!大丈夫ですか…っ?!今、拭くものを…!」
「ひろくんは濡れてない?大丈夫?」
「そりゃ僕は、太齋さんが守ってくれたからなんとも…」
「ふっ、ならよかった」
「良くは無いですけどね…?」
キッチンのシングに掛けられたタオルを取って、太齋さんの濡れた服と髪、首を拭く。
そのとき、太齋さんが僕の頭をガシッと手で掴まえてきて
「だ、太齋さん…っ?」
聞くと「ちょっと耳塞いでて」と言われるだけ
「男だ女だどーでもいいの。好きに性別も何も無い」
「大体もうだいぶ前でしょ、あのときはお互いフリーで好きになんないのがルールだったし、俺は最中も好きと一言も言ったことない。だからいい加減、付き纏うのやめろ」
すぐ近くでそんな会話が聞こえて、動くに動けずにいると
「なっ…!それはそうだったけど、私は…っ!!」
「それに、彼氏いんのに元セフレとより戻すってのが理解できないんだけど。」
「で、でも好きなのはしゅんだけなの!!彼氏ならすぐ別れるから…!」
「あのさ、もう出禁対象だし、これ以上ひろに危害加える気なら気持ち悪いから消えてくんない?今すげぇ目障り」
太齋さんの声が一層低くなり
彼女の「も、もうっいいわよ!!」という声と足音がフェードアウトしていった。
太齋さんの手から解放されて
辺りを見渡すがそこに女性の姿はなかった。
「っは〜……ごめん、ひろくん」
立ち上がった太齋さんにそう言われる。
もちろん、いつもの朗らかな声だ。
「え?」
「嫌な思いさせて」
「あ、いや!全然……こちらこそすみません、僕がいたせいで……」
頭を下げると、太齋さんは少し笑って僕の頭をクシャクシャと撫でてくる。
「ひろくんに何もなくてよかった」
その一言に胸が高鳴る。
「そ、それより太齋さん、あんな声出るんだなって…」
僕が素直にそう言うと
太齋さんは「あー…ごめん怖かった?」と
少し困った顔をした。
「いや、そういうことじゃなく!…たまに出るああいう太齋さんもいいなぁ、って……」
「っはは、なにそれ。」
いつも通りクスッと笑ったかと思えば
「…じゃあひろはこういう風に攻められる方が好きなんだ…?」
僕の顔を覗き込みながら、太齋さんがそう聞いてきて
低く甘い声にドキッとしてしまい
目を合わせられない。
「っ、い、いや……その……」
「顔赤いよ?ひろ」
「だ、誰のせいだと……!」
太齋さんの顔を見ると目が合ってしまい、さらに顔に熱が集まる。
そんな僕を見て太齋さんはクスッと笑う。
「ははっ、本当にひろくん可愛いね。」
「っ……、か、からかわないでくださいよ……!」
「本当に、そーいう反応が可愛すぎて食べちゃいたくなるな」
太齋さんが僕の唇を撫でるように指で触れてそう言う。
「……っだ、太齋さん……?」
「ねぇ、キスしていい?」
「へっ……、?!」
唐突な太齋さんの言葉に動揺して変な声が出てしまう。
「今猛烈にひろくんのこと襲いたくなった」
「……っ!そ、そういうことさらっと言わないでください……!」
僕の唇を撫でてた指を離して腰に手を回してきたので僕は必死に抵抗するが、全く効果はないようだ。
「ねー、ひろ」
耳に太齋さんの吐息が降り掛かってきて
「…!わ、わかりましたからそれもうやめてくださいっ!」
「うん、じゃあこっち向いて」
太齋さんに肩を掴まれてしぶしぶ向き合う。
すると太齋さんの顔が近づいてきて
僕の視界いっぱいに彼の顔が広がる。
顔をそらそうにも顎を掬われてしまって動かせない。
唇はもうすぐそこにあって
いつもと雰囲気の違う太齋さんに心臓がバクバクとうるさく鳴り響く。
そんなときだった
テーブルに置かれていた太齋さんのスマホが振動し始めた。
太齋さんはテーブルに目を向けて「ごめんひろくん」と一言言って僕に回していた腕を解いた。
「仕事の連絡だから、ちょっと待ってね」
「あっ、は、はい…」
そして電話に出ながら太齋さんはお手伝いの方に向かっていった。
「ぜ、絶対あのまましてたらやばかった…かも」
なんて思うけど、ああいうときの太齋さんも色気とか凄くて
(なんだか、新しい扉を開きそうだった…)
そんなことを悶々と考えていると、電話を終えた太齋さんが戻ってきて
「ひろくん、聞いて!やばいよ俺、ファッション雑誌の表紙に載せてもらえることになっちゃった」
と、心底嬉しそうに言った。
「えっ?!雑誌に?!すごいじゃないですか!?」
「撮影とかあるってことですよね…?!」
「だね、撮影は2月にあって、発売は2月14日みたい」
「バレンタインに…ショコラティエって感じですね…!絶対買います!!」
「そんな期待しないでよー、でも買ってくれるなら嬉しいな」
そんな会話をして、二人で帰路に着いた。
太齋さんはしばらく撮影で忙しいみたい。
だから、今日は僕の家で晩ご飯を一緒に食べることにした。
一緒に自宅に着いて、ソファに腰を下ろすと太齋さんが聞いてきた。
「ひろくん、今日の夜なにー?」
「今日はクリームシチューです」
「え、やった!」
太齋さんは子供みたいな笑顔でそう言った。
「本当に太齋さんクリームシチュー好きですね」
「ってよりは猫舌なひろくん見てるとおもろいから?」
「なっ、そんなこと思ってたんですか…!」
「ははっ、うそうそ」
「あ、そうだひろくん」
「…なんですか?」
「俺、今日このまま泊まっていってもいいかな……?」
「……っえ?!」
突然すぎる太齋さんからの提案に僕は思わず大きな声を出してしまう。
「ひろくんがいいならなんだけど、どう?」
「だ、大丈夫ですけど……」
「よかった」
太齋さんはそう言って嬉しそうに笑った。
しばらくして太齋さんが戻ってきて
二人でご飯を食べて、順番にお風呂に入った。
(……なんか、さっきのことがあったからか無性に緊張する……)
自室のベッドに二人で横並びに座っていると
太齋さんが口を開き
「ひろくんさ、怒ったときの俺もいいって言ってたじゃん。あれどーいう意味?」と聞いてきた。
「え?あ、あれは……」
「なぁに?」
太齋さんに両手首を掴まれてそのままベッドに押し倒される。
「っわ、…だ、太齋さん……?」
「ねぇ、教えて」
「……っ」
言いたくなくて目を逸らすと
「よそ見すんな」とまた低く甘い声で囁かれ
顎をクイッとされて強制的に太齋さんの方に向かされる。
(や、やばい……なにこれ、すごくゾクゾクして…)
「ほら、言って」
そんな飢えたような目で見つめられたら…黙ってるなんて出来なくて。
「…いや、その、普段の優しい太齋さんも好きですけど……少しだけ乱暴な感じの太齋さんも好きというか……っ」
「……へぇ」
僕の言葉を聞いて太齋さんは
少し驚いた顔をしたかと思えば、
すぐニヤリと笑って僕の手首から手を離して
僕の上に跨がって、唇をそっと親指で撫でた。
「っ!」
思わず身体をビクリと反応させる僕に
太齋さんはくすくすと笑って
耳元に唇を寄せた
「ひろのそーいうとこ……本当に可愛すぎていじめたくなんだけど」