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俺たちはイーサンに連れられて学生寮へ向かった。 学生寮の前に着くと寮夫が掃除をしていた。
「やぁ、もしかして新入生かい?」
「あぁ、日本から来たヒロト、アキラ、コウタだ。」
「寮夫のダニエルだ。この寮の管理を任されている。この寮はStar Life Instituteの者や美しい奇病をもつ者が住んでいる。」
普通の人と美しい奇病をもつ者達は寮が分かれているのかと疑問に思っているとイーサンが説明してくれた。
「法律ができたとはいえ、差別をする人はまだまだ多い。この寮はそんな人たちを守るために学校側が作ってくれたんだ。」
「そうなんですね」
そこは仕方がないだろう。人間はそういう生き物だ。
イーサンは俺たちを部屋まで案内してくれた。部屋には二階建てベッドが二つ置いてあり、中央にダイニングテーブルが置いてある。
「四人部屋だけど、今のところ君たちだけの部屋になっているから好きに使っていいよ。」
「ありがとうございます。」
「今日は疲れただろうから、ゆっくり休むといい。」
そう言ってイーサンは出ていった。疲れているのは確かだ。一刻も早く寝たい。
「まだ昼だけど、もう休んじまうか?」
「そうだな、俺も眠いし。コウタはどうする?」
「俺はもう少し勉強してる。」
医学の基礎はある程度叩き込んできたとはいえまだまだ荒削りな部分がある。それに医学が進んでいる国の学校の授業だ。日本人が理解できないところもあるだろう。授業に遅れることのないようにもう少し叩き込んでおかなくてはならなかった。ヒロトとアキラが先に寝ている中、俺は美紀さんがくれた医学書とノートを比べ合わせていた。
夜中、一区切りついたのはいいが少しお腹がすいた。こんな夜中にどこかへ出かけることも出来ないし、せめて水分だけは摂っておこうと下へ降りる。キッチンではダニエルさんが料理の支度をしていた。
「おや、どうした」
彼がこちらに気づいたのか手を止めてくれた。
「すみません、水が欲しくて。」
「座っていなさい。持っていこう」
「ありがとうございます。」
椅子に座り、ラジカセから流れるジャズ風の音楽に耳を傾ける。日本ではあまり聞かないジャンルの音楽で新鮮だった。しばらく聞いているとダニエルさんが水と一緒に食事を持ってきてくれた。
「あまりものだがね。おにぎりを作ってみた。」
「あ、ありがとうございます。」
まさかロンドンに来て日本食が出てくるとは思わなかった。ひと口頬張ると中から出てきたのはツナマヨだった。正直お腹が減っていたから助かった。
「美味いか?」
俺は頬張りながら頷いた。ダニエルさんはキッチンでにこにこしながら料理の支度をしていた。美味しそうな匂いが漂ってくる。
「その昔、日本にいたことがあってね。そこで食べたおにぎりがとても美味しかったんだよ。あの時の具はなんだったか……確か梅干しといったかな。」
梅干し、日本では人気のおにぎりの具だ。
「初めて食べた時はとても酸っぱくてねぇ。でも美味しくて日本に行くたびに食べていたよ。」
彼は懐かしそうに語る。その姿はとても微笑ましかった。しかし、彼が急に咳き込み始める。
「大丈夫ですか」
「あぁ、大丈夫。歳のせいかなぁ」
咳き込んだと同時に口から出てきたものは花びらだった。
「これは……」
「花吐病だよ。歳をとると次第に花が体を蝕んでいく。死んだ体や遺灰を地中に埋めると永遠に枯れない大輪の花が咲くんだそうだ。」
美紀さんのカルテを見せて貰ったことがある。そこにも花吐病の症例があった。その人は遺灰となった後どこかに埋められ大輪の花を咲かせているそうだ。その場所は誰も知らない森の奥深くだと言っていた。
「薬のおかげでこうして生きられているがね。でももう時間の問題だよ」
確か日本ではまだ承認されていない薬だが、海外ではもう薬が使われている病だ。花が体を蝕むのを完全では無いが抑える効果がある。この薬もStar Life Instituteが作った薬だ。近いうちに日本でも承認して貰えるよう日本政府に申し出るだろうと美紀さんが言っていた。
「だから僕はこの寮の寮夫になったんだ。Star Life Instituteや奇病を持つ子達に希望があるということを示すためにね。そのためになら何でもするつもりだよ」
「ダニエルさん……」
「さぁ、もう夜も遅い。それを食べたらもう寝なさい」
俺はすぐにおにぎりを食べ終え部屋へ戻った。
次の日、学園の入学式を終えた俺たちは初めての授業を受けるべく教室へ向かっていた。俺たちにも白衣が配られ、それに袖を通すとここでは俺たちは医師の卵なのだと感じさせられる。
「お、ヒロト、アキラ、コウタ。少しこっちへ来てくれ」
「なんでしょうか?」
教師に呼び止められ廊下の邪魔にならない所へ行く。教師はプリントを俺たちに手渡した。そのプリントには俺たち三人をStar Life Instituteに推薦すること、一年から研究に属させることが書かれていた。そして、サインの欄にはキャサリンさんの名前が書かれている。
「お前たちすごいな。キャサリン先生からの推薦状だなんて。あの人滅多に推薦なんかしないからな」
先生はそう笑っていた。そして今日の放課後から研究室へ行くように言うと去っていった。
「まじか」
「俺たちだけ特別扱いされてるとかじゃないよな?」
「だと思うけど……」
この会話を聞いていた生徒たちが俺たちを見て口々と噂話を始める。
「早く行こう」
俺はあの時のように二人の腕を引っ張って教室へ向かった。人々の噂話などこの二人には聞かせるべゃない。俺たちはなにも学生たちとなれ合うためではなく勉強と研究をしにこの国へ来た。友達など必要じゃない。
そう思っていたのに。
「よーし!今日は新入生歓迎会だー!!」
なんだこの状況は。授業が終わったあと俺たちはキャサリンさんに連れられパブへやってきていた。もちろん俺たち三兄弟は未成年のためお酒は飲めないがノンアルコールのカクテルが入ったグラスを片手に気付けば立ち尽くしていた。研究室の先輩たちは皆楽しそうにしている。
「なんでこんなことに……」
「まぁまぁいいじゃないか!せっかくだし楽しもうぜ!」
「そうだぞコウタ!もっと飲め飲め!」
ジュリアンはすでに出来上がっている。ビールの泡を鼻下につけて笑い転げていた。反対を見るとイーサンが静かに飲んでいた。
「ごめんね、ジュリアンはいつもこうなんだ。うるさいだろ。」
「……えぇ。」
肯定するしかない。お酒の場なんて行ったことがないからこういう場は慣れないだけかもしれないが間違いなくジュリアンは俺とは合わないだろう。
「でもね、あぁ見えて外科医の卵の中で一番優秀なんだよ。」
「そうなんですか。」
「あぁ、手元なんて狂わせたことがないし観察力も高いからね。」
「照れくさいこと言うなよイーサン!お前だって心理の授業いつも高得点のくせによぉ!」
なるほど、キャサリンさんが滅多に推薦を書かない理由と、研究所に人が少ない理由がわかった気がする。
「やぁ、楽しんでいるかい三人共。」
「えぇ、それなりには。」
キャサリンさんは俺たちに近づくとにこにこ笑ってこちらを見つめてきた。
「君たちがどうして奇病専門医を目指しているのか、改めてみんなと共有したくてこの会を開いたんだ。聞かせてくれるかい?」
「……もちろんです」
俺たちは今までのことをすべて話した。この病のせいで誘拐され拷問を受けたこと。そこに助けに来てくれた一人のヒーローのこと。そのヒーローとどのように過ごし、どのように散っていったかを。
全員俺たちの話を真剣に聞いていた。オリビアとジュリアンは泣いていた。
「うー……そんな過去があったなんて……!」
「いいお姉さんがいたんだなぁ!!」
反対にイーサンは冷静だ。
「きっと、彼女は君たちを守るために必死だったんだね。君たちも最後を迎える彼女のために最善の選択をしたと思っているよ。」
「ありがとうございます。」
エリーが俺たちを抱きしめてくる。
「そういう過去があるならなおさらこの研究所に入ってきてくれてよかったよ!奇病に対する差別、偏見の解決、そして星散病の原因解明と治療薬の開発は私たちの研究テーマだからね!」
「人身売買が横行している国もまだたくさんある。そういう人から守る活動も今後していきたいね。」
俺たちが入ったことにより研究はさらに進み、そして世界中に広がるかもしれない。俺たちはそんな期待を胸にこの学校生活を送ることになったのだった。