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「絶対嫌ですよこの2人のどちらかと夫婦なんて!!」
私の叫びは、会議室の壁にまで跳ね返った。
伊吹が即座に身を乗り出す。
「ねー、やろーよー、面白そうじゃん?俺そーゆーの大好きなんだけど?」
対して志摩は、腕を組んだまま視線も寄越さない。
「…俺もですよ。そもそもこれは機捜の仕事じゃない。」
桔梗隊長は苦笑交じりに肩をすくめた。
「任務だ。異例なのは承知してる。けど必要だから言ってるの。」
私は机を叩いて食い下がったが、結局決定は覆らなかった。
ドレスなんて着慣れない。重い布がまとわりつき、動きづらい。私は志摩の隣で溜息をつく。
「あの、志摩さん…、伊吹さんがまた…」
視線をやると、伊吹は手を振って離れていく。
「志摩ちゃん。ちょっと俺うろついてくるね。」
「大丈夫。ほっとけ。そのうち帰ってくる。」
志摩はグラスを傾けながら、興味なさそうに答える。
時間が経ち、会場の空気が重くなる。伊吹が駆け戻ってきた。
「俺、犯人わかった。絶対あの人。」
志摩は即座に短く命じる。
「伊吹。行け。」
伊吹は人混みを突っ切り、目標を追った。が、勘づかれたのか逃げられてしまう。
「志摩ちゃん!!俺ここの土地勘わかんないよ!! 」
志摩が続き、私は会場のざわめきを抑えるために声を張り上げる。
「落ち着いてくださいっ、…!!警察です!!みなさん、安全ですから、…!!落ち着いてください!!」
だが、その声をかき消すように「パァン」と乾いた音が鳴った。胸に走る衝撃。視線を落とすと、ドレスが赤く染まっていた。
「っ”…、みなさん、っ…落ち着いて、…!大丈夫、です”…っ!」
必死に声を絞り出す。けれど喧騒は止まらない。
足から力が抜け、崩れ落ちそうになった瞬間。
崩れ落ちる時
強い腕に支えられた。荒い息。顔を上げると志摩がいた。隣には伊吹。
「警察だ!!!全員動くな!!持ってるもん順番にここに出せ!!」
伊吹の声が会場を切り裂き、混乱は一気に制されていく。
志摩は私を座らせ、真っ直ぐに目を見て言った。
「よく頑張った。あとは任せろ。」
「志摩、…さ、…っ、伊吹さん、…私、っ…」
涙が零れ、視界が滲む。胸の奥でふっと温かいものが広がり、そのまま意識は暗闇に飲まれた。
後で聞いた話だ。
伊吹はすぐに銃を持つ犯人を見つけ出し、取り押さえたという。志摩は最後まで冷静に場を制圧し、桔梗隊長が到着する頃には事態は収束していた。
そして私は、初めて「よく頑張った」と言われた夜を忘れない。