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「罰ゲームから始まった、本物の恋」~m×r~
Sideラウール
「……ずっと好きでした。俺と付き合ってください」
気づけば声は震えていた。
耳まで真っ赤になっている自覚がある。心臓なんか、爆発寸前の花火みたいに破裂しそうで。
目の前には、校内人気ナンバーワンのモテ男――目黒〇。
背が高くて、モデルみたいに顔が整っていて。スポーツ万能、成績優秀、性格まで優しくて、男女問わず憧れの的。
そんな相手に、俺はいま、まるで本気の告白みたいに言葉を投げかけている。
いや、本気じゃない。
……この台詞そのものは、完全に嘘だ。
そう。これは全部――ほんの数十分前の「ゲーム」に負けたせいだった。
―――――――――――――――――
「よっしゃー!今日も俺の勝ち!」
「はぁ!?またかよ!んでラウール、最下位、本当運悪すぎ」
放課後の教室に二人だけ残って、俺は友達と机を突き合わせてポーカーをしていた。
テスト勉強を口実に残ったけど、実際は勉強なんかそっちのけ。カードを手の中で切るたびに笑い合って、放課後の時間をダラダラ過ごすのが恒例になっていた。
「ポーカーって本当はさ、お金賭けてやるらしいよ?」
「えー、それはだめでしょ。高校生がそんな危ない橋渡ったらいけないじゃん」
「まあ、そうだけど……じゃあ、代わりに何か賭けようよ」
友達が目を輝かせて言う。こういうときのこいつはろくなことを言わない。
「え、何賭けるの?」
「やっぱり……貞操でしょ」
「ぶふっ!? いやいやいや!何言ってんの!」
あまりの言葉に吹き出してしまった。
机に突っ伏しそうになる俺を見て、友達は腹を抱えて笑っている。
「いや、冗談、冗談!でもな、さすがにちょっとスリルある方が面白いでしょ?」
「スリルって……お前、本当バカだな」
「んじゃあ、こういうのどう? 負けた方が校内人気ナンバーワンに告白するとか!」
「……は?」
思わず固まる俺。
友達は自分の言葉に酔いしれるようにニヤニヤしている。
「ほら、目黒とかさ。あいつに『好きです』って言うの。めちゃくちゃ度胸試しになるだろ」
「えぇぇぇ!? なにそれ! それすごく屈辱じゃん!」
「なんで?お前ビビってんの?」
「いやいや、ビビるとかそういう問題じゃないでしょ! だって目黒って……男だよ?しかもイケメンで超人気者じゃん。そんなやつに告白したら……」
俺は両手で顔を覆った。頭に浮かんだのは、目黒に笑い飛ばされる未来だった。
いや、もっと最悪だ。クラス中に広まって、からかわれて……「ラウール、目黒に告白したんだって~」とか言われて。
背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
「ほら、想像してみ?『えっ、ラウールってそっち系?男に告白するとか、キモっ』……って」
「うわああああ!!やめろやめろ!リアルに聞こえる!!」
俺は机に突っ伏して頭を抱えた。
友達は腹を抱えて笑い転げている。
「決まりだな! 次の勝負、負けた方は目黒に告白!罰ゲーム成立!」
「えー!? お前、本当勘弁してよ……」
それでも――俺は結局、その勝負を受けてしまった。
男ってのは、バカみたいに見栄っ張りだ。逃げたら一生言われるだろうし。
「よっしゃ……フルハウス!」
今度こそ勝った!そう確信したすぐ後…
「……は?おい、俺、フォーカードなんだけど」
しばし沈黙。
カードの役を確認する俺。……勝てない。
「……」
「はい、ラウールの負け~!! いっちょ行ってこい、目黒のとこ!」
「マジかよ……」
俺は頭を抱えて机に突っ伏した。
笑いながら背中を叩いてくる友達に、怒鳴りつける気力すら湧かない。
――――――――――――――――
そして今。
俺は実際に、校内の王子様に告白している。
「……ずっと好きでした。俺と付き合ってください」
頭の中は真っ白。
ただ、心臓の鼓動だけが耳の奥で響いてる。
本当なら、「冗談だよ」「罰ゲームなんだ」って言うつもりだった。
けど――目黒の美しい瞳が、俺をまっすぐに射抜いた瞬間。
言葉は喉で詰まって、出てこなかった。
「……ラウール」
低く、でも驚くほど優しい声。
次の言葉が、俺の想像を簡単に超えてしまう。
「俺も、ずっとラウールのこと好きだった」
――え?
時が止まった。
これが、俺の「罰ゲーム」の始まりだった。
――――――――――――――――――
「おーいラウール! どうだった? 告白」
放課後、机に突っ伏していた俺の背中をバンッと叩いてきたのは、昨日ポーカーで俺を罰ゲームに追い込んだ張本人。
声をかけられた瞬間、俺の心臓は跳ね上がる。
「ど、どうだったって……そりゃ……」
「まさか成功?いやいや、あの目黒がそんな簡単に落ちるわけないか」
友達は勝手に自分の中で結論を出しながら笑っている。
俺は慌てて顔を伏せ、口から出任せを言った。
「いや~、振られたよ」
その瞬間、胸に鋭い痛みが走った。
嘘をついてるからだろうか。罪悪感の重みがズシリとのしかかる。
「だよなー! いや~、ラウールの必死な顔見たかったわ。今度は録画しとこかな」
「やめてくれよ……」
俺は笑顔を作ろうとしたけど、引きつった顔になってるのは自分でも分かる。
友達は気づかずケラケラ笑っていた。
―――その日の夜。
自室でスマホをぼんやり眺めていたら、通知音が鳴った。
【目黒】「今日、急に走って行ったけど……大丈夫だった?」
心臓がまた跳ねた。
画面を見つめたまま、俺は息を呑む。
実はあの後めめの前から逃走したのだ。
我ながら告白してOKもらえた後に逃走する奴とか聞いた事ないけどな…
しかしめめは律儀にLINEまでしてくる始末。
どう返したらいいんだろう。
「罰ゲームでした、ごめんなさい」って言えたら楽になる。でも……その言葉を打ち込む指は震えて動かない。
【ラウール】「大丈夫だよ」
精一杯の短い返信。それ以上は何も書けなかった。
しばらくして、またメッセージが届いた。
【目黒】「よかった。じゃあ、明日からよろしくね。俺彼氏だから」
「…………え?」
俺はスマホを落としそうになった。
「彼氏だから」――その一言が、頭の中でぐるぐるとリフレインする。
―――翌朝。
登校して昇降口で靴を履き替えていたら、横にすっと影が差した。
「おはよう、ラウール」
顔を上げた瞬間、そこには目黒。
いつも通り爽やかな笑顔。いや、いつも以上に柔らかい笑顔だ。
「お、おはよ……」
俺は声を裏返しながら返した。
するとめめは自然に俺の手から上履きを取って、靴箱にしまってくれた。
「ほら、行こう」
「ちょ、ちょちょちょ、待って! 何普通にカップルみたいな雰囲気出してんの!」
「カップルでしょ?」
「えぇぇ!?」
周りの視線が気になって仕方がなかった。
誰かに聞かれたらどうするんだ、広まったら俺の人生終わるだろ……と頭の中はパニックだ。
けどめめはそんな俺の動揺なんて気づいてないみたいで。
「昼休み、一緒に食べよう」
「えっ……」
「放課後も少し残れる?」
「いや……」
「俺さ、ラウールと一緒にいるの、すごく嬉しいんだ」
その言葉を言われた瞬間。
胸がきゅっと締めつけられて、何も返せなかった。
―――――席に戻ると、友達がニヤニヤしながら近づいてきた。
「おー、ラウール。なんかさっき目黒と一緒にいたな?」
「えっ!? い、いやいや、気のせいでしょ!」
「本当に? なんかすごい親しそうに見えたけど?」
冷や汗が背中を流れる。
俺は慌てて笑って誤魔化した。
「そ、そんなわけないじゃん! ただ、偶然一緒になっただけだよ!」
でも、友達が去ったあと。
ちらっと視線を上げると、前の席に座ってる目黒とバチッと目が合った。
めめは小さく笑って、俺にだけ聞こえるような声で言った。
「俺の恋人なんだから、堂々としてればいいのに」
「~~~~~っ!!」
俺は机に突っ伏して、耳まで真っ赤になってしまった。
――― 授業が終わって、廊下を歩いていたら背後から声をかけられた。
「ラウール、ちょっといい?」
振り返るとめめ。
廊下の窓から差し込む夕日で、その横顔がやけに大人っぽく見えた。
「……な、なに?」
「今日、駅前の新しいカフェ行かない?」
「えぇ!? なんで!」
「だって……恋人同士でしょ?」
冗談みたいに笑うけど、その目は本気で。
俺は反論の言葉を探すけど、喉が乾いて声が出てこなかった。
――どうしよう。
本当に付き合ってしまっている。
罰ゲームのはずだったのに。
どうしよう……。
めめと付き合ってる――いや、正確には、付き合わされてる?そんな状況がスタートしてから、もう数日が経った。
教室でも、廊下でも、そして放課後でも。
気づけば俺の隣にはいつもめめがいて。
さりげなくノートを貸してくれたり、当たり前みたいに「おはよう」って笑ってくれたり。
(これ、絶対バレたらやばいやつだよね……!)
だって俺、友達には「振られた」って嘘ついてしまってるんだ。
なのに、現実は交際継続中。しかも、めめは本気モード。
胃のあたりがシクシク痛む。罪悪感のせいか、それとも……。
―――ある日の昼休み。俺が購買のパンをもそもそ食べていると、向かいの席にめめが腰を下ろした。
「ラウール、この週末、空いてる?」
「えっ、なんで?」
「映画行かない?」
「えぇぇ!?なんで俺!?」
声が裏返ってしまった。慌ててパンを喉に詰まらせそうになり、水をがぶ飲みする。
めめは首を傾げて、当然のように言った。
「だって、彼氏だから」
「~~~~っ!」
机に突っ伏したくなる。
周囲の視線が気になって仕方ない。
「お、俺、映画とか全然詳しくないよ」
「大丈夫。俺が観たいのがあるから」
「なんの映画?」
「ラブストーリー」
「えええええ!? よりによって!? なんで!」
声が大きすぎたのか、近くのクラスメイトがちらっとこちらを見た。慌てて小声になる。
「……俺ら、男子でしょ。男子同士でラブストーリーとか、絶対浮くじゃん……」
めめは肩を竦めて、さらっと言う。
「別にいいじゃん。俺はラウールと観たいんだから」
――ズルい。
そんな真っ直ぐに言われたら、俺は断れないじゃん。
その日の放課後。
俺が鞄を持って教室を出ようとすると、廊下で待ち構えていた影。
「おつかれ、ラウール。一緒に帰ろう」
「ひぃっ!? 待ち伏せ!?」
「待ち伏せって言い方ひどいな。ただ一緒に帰りたかっただけ」
「う……」
めめは自然すぎる笑顔で俺の隣を歩き出す。
その歩幅は大きいのに、不思議と俺の歩調に合わせてくれていた。
「なぁ……周りのやつらに見られたらどうするの。『お前ら付き合ってんの?』とか言われたら……」
「別にいいんじゃない?」
「よ、よくないでしょ!」
「俺は構わないよ」
「俺は構うよ!!」
俺が必死にツッコむ横で、めめは涼しい顔で笑っている。
―――駅前にあるファストフード店の看板を見て、めめがふと足を止めた。
「ちょっと寄っていかない? 新しいバーガー食べてみたい」
「えぇ!? デートの流れじゃん!?」
「だってデートだよ」
「違うって!」
俺は必死で否定するけど、気づけば店内に連行されていた。
二人並んでカウンター席。
俺はポテトをつまみながら、キョロキョロと周りを見回す。
「やばいって……ここ、同じ学校のやつも来るでしょ……」
「別にいいよ。見られて困ることある?」
「あるよ! 大ありだよ!」
めめはポテトを一本摘んで、俺の口元に差し出してきた。
「はい、あーん」
「な、なんで!!」
「いいから」
周囲の視線が痛い。けど、めめの真剣な目に押されて、つい口を開いてしまった。
「……ん」
「美味しい?」
「……普通」
「そっか」
めめは満足そうに微笑んだ。
――ズルい。本当ズルいよ。
気づけば、俺はめめと過ごす時間が当たり前になりつつあった。
一緒に帰る。一緒に昼飯を食べる。たまに放課後に寄り道する。
――交際は順調に進行中。
(どうしよう……これ、完全に嘘がバレたら詰むやつだよね……)
けど。
心のどこかでは、そんな「詰む未来」よりも。
(……なんでだろう。めめと一緒にいると、ちょっと楽しいかも)
その事実が、日に日に大きくなっていくのを止められなかった。
ファーストフード店に寄ってから帰るのが俺達のルーティンとなりつつあった今日この頃。
店内のざわめきの中で、俺は紙コップのストローをいじりながら、なんとなく隣に座るめめの横顔を盗み見た。
長い睫毛。高い鼻筋。整った唇の形。
こうして至近距離で見ると、改めて思う。
(……さすが、学校で人気ナンバーワンだよね。かっこいいっていうか……整ってるっていうか……)
女子たちがキャーキャー言うのも無理ない。いや、男子でも見惚れるくらいだ。
俺は心の中で苦笑した。だって、そんなやつの「彼氏」なんて立場に今、自分がいるなんて――。
「……っ」
思わず視線を逸らそうとした、その瞬間。
めめがすっと俺の方を向いて、ふわりと笑った。
ニコリと、柔らかく。
まるで「見てくれてありがと」って言ってるみたいな微笑み。
「っ……!」
慌てて顔をそむけた。耳まで熱くなるのが自分でも分かる。
心臓の鼓動はドクンドクンとうるさいくらいで、ポテトの塩気なんかもう感じられない。
(だめだ……なんだこの空気。俺、完全に意識してしまってるじゃん……!)
けど、めめは気にした様子もなく、紙コップを軽く揺らしながら口を開いた。
「……実はさ、告白してくれて嬉しかったんだ」
「え……?」
意外すぎる言葉に、思わず顔を上げる。
俺の視線を正面から受け止めながら、めめは真剣な声で続けた。
「俺、この高校に入ったとき、一緒に入学した中学の友達がいたんだ。でも……俺だけクラス離れ離れになっちゃって」
「……あぁ、そうなんだ」
「しかも、なんかいつの間にか”校内イケメン”とか言われるようになってさ。正直……浮いてる気がしてた」
その言葉に、俺は思わず心の中でツッコんだ。
(なんだそれ、嫌味かな。かっこいいやつの定番の悩みじゃん……)
でもめめの横顔は真剣そのもので、冗談を言ってる雰囲気ではなかった。
「でも、そんな孤独な時にさ――ラウールが俺に声をかけてきてくれたことがあったよね」
「……え?」
突然の名前に、俺は目を瞬かせた。
「俺が?声かけた?」
めめは小さく笑った。
「ふふっ。そうだよね。ラウールは覚えてないよね」
少し寂しそうで、でも優しい笑み。
その表情に胸がざわめいた。
「……いつのこと?」
「入学してすぐの頃。俺、一人で教室の隅でノート見てたんだ。誰ともまだ話せなくて、浮いてるなって感じてたときに……ラウールが『なぁ、どこの中学?』って話しかけてくれたんだよ」
「……俺、そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ」
めめは頷いた。
「そのとき、本当に救われたんだ。あぁ、この学校で一人じゃないんだって思えた。……そこから、ずっとラウールのこと見てたんだよ」
「……!」
胸がぎゅっと詰まった。
息を吸うのも忘れるくらいに。
俺はただ、何気なく声をかけただけだった。
同じクラスになったやつに話しかけるなんて、俺にとっては自然なこと。
そんな小さな一言が、めめにとっては「救い」だったなんて。
(……だめだ。これ……冗談とか罰ゲームとか、そんな話じゃなくなってきてるじゃん……)
心臓の音はどんどん早くなる。
めめの声が、やけに近くて、真っ直ぐ胸に響いてくる。
「だから、ラウールに告白されて……俺、めちゃくちゃ嬉しかった」
その言葉は、やさしいけど重たくて。
俺の胸の奥に、ずしんと落ちていった。
(どうしよう……。俺、本当は罰ゲームで告白しただけなのに……。めめ、こんな真剣に……)
笑顔を作ろうとしたけど、喉が詰まって声が出ない。
代わりに、氷が溶けた音が紙コップの中でカランと鳴った。
その小さな音がやけに大きく響いて、俺はただ俯いたまま、握った手のひらに汗をにじませていた。
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作者名「木結」(雪だるまアイコン)でご検索ください。