「鈴、お前はそれでいいのか? 別れる事を本気で望んでるのか? 別れて俺とやり直したいと思ってるなら……悪いけど、それだけは出来ない。俺はもう、鈴の傍には居てやれない。鈴の事は好きだけど、それはもう過去の事だ。今更やり直す事は出来ないし、今後もその可能性は一ミリもない」
律のその言葉に顔を上げた鈴さんは泣きそうな表情を浮かべ、「……もう、絶対に、無理……なの?」と律に問い掛ける。
「ああ、無理だ。今の俺には、琴里が居るからな」
そして、はっきり拒絶を示すと、私の名前を口にした。
「……律……」
「琴里と出逢ってなかったら、鈴とやり直したいと思ったかもしれない。だけど今は、俺の中で一番大切なのは琴里だから、鈴の一番にはなれねぇんだ。ごめんな」
「……そう、よね。ううん、いいの。きっと、わたしたちはもう、とっくに無理だったのよね。それなのに、悩ませて、困らせて、本当に……ごめんね、律……。ごめんなさい、わたし、帰るわ」
これ以上この場に居るのが辛くなったのか、鈴さんは立ち上がると足早に部屋を出て行ってしまう。
「鈴! ……律、今日のところは帰るよ。琴里ちゃんも、こんな重い話に付き合わせてごめんね」
そして、鈴さんを心配したお兄さんもまた、早々に部屋を出て行って、残された私たちは何を話したらいいのか分からなくて暫く無言のままだった。
「……律」
「ん?」
「……大丈夫?」
「……ああ、平気だ」
平気だと言うけど、実際はそんな事ないと思う。
三人の関係は複雑過ぎて、当事者でない私ですら……何だか悲しくなったのだから。
「律?」
すると突然律は私の身体を抱き締めたまま、動かないし何も言わなくなった。
「……律」
「……悪ぃ、暫く……こうさせて」
そう口にした律の声は掠れていて、身体も微かに震えているように思えた。
きっと、律は泣くのを我慢してる。
そう思ったら凄く切なくなって、私は律の背中に腕を回して抱き締め返してあげた。
その時律の身体がピクリと反応したけど、彼は何も言わなかった。
それからどのくらいそうしていただろう。
気づけば、もうすぐ時刻は午前二時。流石に私は眠くなっていた。
「……眠いか?」
「ううん、大丈夫……」
眠そうな私に気付いた律はようやく落ち着いたのか、いつも通りに声を掛けてくれた。
「無理すんなよ、眠いなら寝とけ」
「今は、やだ……。まだ、律とこうしてたい……」
だけど、私はまだ律から離れたくなくて、嫌だと首を横に振るも、やっぱり眠くて目を擦る。
そんな私を律は自身の身体で支えるように私の体勢を直し、
「んじゃ、これでいいだろ? このまま少し寝てろ」
自分の身体はベッドを背もたれにして寄り掛かり、私を支えた状態で頭を撫でてくれる。
「うーん、うん……律、傍に居てくれる?」
「ああ」
「どこにも、行かない?」
「行かねーよ」
「……もう、ずっと一緒に居てくれる?」
「ああ、琴里が嫌だって言っても、ずっと一緒だ」
「嫌だなんて、言わないよ……だって、私は……律が……」
『好き』と言葉を紡ごうとしたのだけど、眠気かピークに達した私はそのまま眠ってしまった。
コメント
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あ〜複雑だわね。 鈴さんの気持ちもわからないではないけれど、今更元には戻れないでしょう。 これからどうなるのかな。