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「涼太……」
「ん?なに?」
「顔色悪いよ…大丈夫?」
「あぁ、うん、大丈夫」
今日は本当に疲れた。
今日は朝から早番で、帰ったらゆっくりできると思ったのに、玄関に…
「う”っ……」
「涼太…?」
「ごめん、大丈夫」
数日しか関わったことがないとは言え、知人がタ ヒぬのはやはりショックが大きかった。
見慣れた顔、大きく破損した身体、えぐり取られたのであろう足。
あの光景を思い出すだけで吐き気がする。
「涼太、ご飯作ったけど食べない?」
「今食欲ない…ごめん」
「そっか」
明澄も相当怖かったろうに、気を遣わせてしまって申し訳ない。
「ごめん…明澄」
「何言ってるの。私、涼太の彼女だよ?迷惑かけて当然だよ。」
「明澄……」
明澄が小さな体で俺を抱きしめてキスをする。
そのまま柔らかい手が俺の頬を擽り、首筋を触れ、身体を支配する。
「ん…」
明澄の声が漏れる。
明澄の体温を感じる。
それだけで、良かった。
「んー…」
身体と身体で触れ合ったのは、ストーカー事件以来だった。
体が少しジンジンする。
時計を見ると、もう午後9時を指していた。
既に5時間は経過していた。
コトコトコトコト…
不思議と懐かしい匂い。
あぁ、あの匂いだ。
俺の大嫌いな、あの。
明澄が大好きなあの匂い。
冷や汁の匂い。
「起きてたんだ、涼太。ご飯できたよ。」
「ん、ありがとう」
「いただきます。」
久しぶりの明澄の手作りのご飯だった。
久々に食べた冷や汁は何故か妙に懐かしくて、美味しく感じた。
「なんか材料変えた?」
「ちょっとね笑」
そう言って笑う明澄は愛くるしかった。
明澄の笑顔を見れて安心する。
前から変わらない眉上で切りそろえてある前髪、可愛らしいえくぼ、そしてふっくらとした頬…
「……あれ?明澄痩せた?」
ふっくらしていた頬は気付かないうちにガリガリに痩せていた。
「そうかな?しばらくご飯ちゃんと食べてなかったもんね。」
そうだ、明澄はストーカー事件以来、ご飯もろくに食べずにどんどん痩せていった。よく見れば顔も青白い気がする。
「明澄」
「ん?」
「好き」
「もー、いきなり何?笑」
明澄の痩せ細った体と俺の体が重なる。
「私も大好き。」
あぁ、俺は幸せだ。
大丈夫、この日常はきっと俺が守るから。
だから、明澄は笑顔でいてくれ。
大好きだから。
気付いたら明澄はもう寝ていた。
疲れていたはずなのにご飯も作らせてしまって申し訳ない。
俺もまた明日から仕事を頑張ろうと思う。
明澄を支えるために。
「…あれ?」
そういえば今日、警察に本人確認をする時に免許証を見せたはずなんだけど……その後どこにやったっけ?
カバンを見ても、ポケットの中身を探しても免許証は見つからなかった。
そういえば返してもらってなかったような気がしてくる。
家の中で電話をしたら明澄を起こしてしまうので、外に出る。
そうだ、エナジードリンクもついでに買おう。
スマホを見るとメッセージが届いており、明日免許証を返すと連絡が入っていた。
電話をする暇が省けたのでコンビニに直行する。コンビニに入るとスイーツコーナーのチーズケーキが目に入った。いつもならコンビニスイーツなんて高くて買わないが今日は特別に買って帰ろうと手に取った。
蝉の鳴き声がする、なんだか今日は夏の匂いがした気がした。
ガチャ
「んー…」
あれ、涼太どっか出掛けたのかな?
皿洗いをしてそのままソファーで寝落ちしてしまっていたらしい。
私の体にはタオルケットが被さっていた。
そうだ、私は昔からこういう優しい涼太が好きだった。
昔から、”私達双子を見間違える”どんくさいところもなにもかも。
ふふ、変わらないね、涼太……ううん、”涼太くん”
あの日、私……葉澄は涼太くんを助けるべく、自分の命を投げ出して植物状態になった。
けれど、後悔なんてなかった。
大好きな君を守れたから。
ひとつ後悔があるとしたら起きた時に涼太くんはもういなかったことだ。
彼は優しい人だから、きっと責任を感じちゃったんだよね。
だから、涼太くんに「もう大丈夫だよ、あのね、私、涼太くんのこと好きだよ」って伝えようと思ったの。
なのに、お姉ちゃんが。
お姉ちゃんは、自分が助けたフリをして涼太くんと付き合っていた。
私が助けた涼太くんなのに、許さない…許せない。
だから、私は洋西 蔦と名乗って涼太くんに近付いた。しばらく植物状態だったせいで体もガリガリで、顔色も悪かったからか涼太くんにバレることはなかった。
彼と過ごす日々は本当に幸せだった。
だけど、たまにそれだけじゃ足りなくて貴方がうたた寝している時、誰もいない社内でキスしちゃったり…
えへへ、それくらい許してくれるでしょ?だって涼太くん優しいもんね。
だから私がお姉ちゃんをコロしちゃった事も許してくれるよね?
それにしても、可愛かったなぁ、涼太くん。
あの冷や汁を一生懸命ガツガツ食べる姿。
あー、そうだあれの隠し味言ってなかったね?
あれね、涼太くん。ふふ。
あれ、お姉ちゃんが隠し味なんだよ?
ピンポーン
あ、涼太くん帰ってきたのかな?
私は涼太くんといれることが嬉しくて思わず有頂天に駆け出した。
鍵を開けた時、ある事に気付く。
“なんで、鍵を持ってるはずなのにわざわざチャイムをならすの?”
ベチャベチャべチャ
ドアがあいて、いきなり何かをかけられる。
なにこれ、ぬめぬめしてて、気持ち悪い。
液体が目に入って目が開けられない。
そして、ボッという音がして、辺りが真っ赤になった。
あつい、背中があつい。
誰か、涼太くん。助けて。
「お前が……お前が明澄さんをコロしたんだろ!!!この、人コロし!!!」
「あ、あ、あ”あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”!!!!」
皮膚がただれる感覚がする。
痛いなんて話じゃない。
苦しい。気持ち悪い。誰か、助けて、涼太くん。
「タ ヒねえぇぇ!!!!」
背中に謎の液体をかけられる。
私はあまりの痛みに耐えきれずに気を失った。
昔、バーベキューをした時、涼太が彼女だと連れてきた女がいた。
それが明澄さんだった。
一目惚れだった。
ぱっちりとした目も、ふっくらとした頬も、少し低めの身長も、全部大好きだった。
冴えなくて、何をしてもだめな…岡村 秀太に心から優しくしてくれる唯一無二の人だった。
それから俺は明澄さんと仲良くなりたくて、涼太と友達になって、よく明澄さんの家を訪れた。
2度か3度か遊びにいってそこそこ仲が良くなった時、涼太の忘れ物を届けにいった時だった。涼太はその時、丁度留守で俺と明澄さんが2人になった。
つまらないものしかないがと明澄さんは趣味の家庭菜園で作ったハーブティーを出してくれた。
ハーブティーをそそぐ明澄さんは可愛くて、可愛くてしょうがなかった。
長いまつ毛も、小さな口も、首筋にあるほくろも。
友達の彼女だってことは分かってたんだ。
でも、仕方なかったんだ。
俺は気付いたら明澄さんに手を出していた。
この事を誰かに言ったら涼太をコロすと言ったら、明澄さんはすんなり受け入れてくれた。
そういう無力さも可愛かった。
その後も俺は、涼太が留守の時を狙って明澄さんをホテルに誘ったりした。
大好きだった。愛おしかった。
だから、涼太が惚気話をしてきた時は玄関に『涼太をコロす』なんて、書いて嫌がらせした時もあったっけ。
まぁ、それくらいどうでもいいけど。
洋西 蔦が明澄さんの家の玄関前でタ ヒんだと聞いた時はラッキーだと思った。
しばらく会っていなかった明澄さんと会えると思って。
俺はすぐに涼太の元に訪れた。
でも、そこでタ ヒんでいたのは洋西 蔦なんかじゃなかった。
整った眉毛に、ふっくらした頬、小さな口に首筋にあるホクロ。
そこにいたのは紛れもなく明澄さんだった。
そして、タ ヒんだはずの”明澄”と名乗る明澄さんそっくりな女が涼太の隣にいた。
あいつが明澄さんをコロしたんだ。
絶対に許さない。
俺がこの手でコロしてやる。
俺は警察が去った後、涼太の家の近くでずっと涼太がいなくなるのを待っていた。
可愛い明澄さん、優しい明澄さん、華奢で愛しい明澄さん。
明澄さんの思い出を思い出すと、思わず涙が溢れた。
大丈夫、明澄さん、俺が絶対に仇をとるから。
ピンポーン
「はーい」
悪魔の声がした。
絶対、絶対にコロしてやる。
絶対。
俺は悪魔に油をかけ、火でそいつを炙った。
「あ、あ、あ”あ”ぁ”ぁ”あ”ぁ”ぁ”あ”あ”!!」
女は汚らしい声で叫んだ。
「お前が……お前が明澄さんをコロしたんだろ!!!この、人コロし!!!」
これだけじゃ足りないと、俺は傷口に塩水をかける。
女はまたみすぼらしく叫び、気絶した。
あぁ、明澄さん。俺やったよ。
仇うったよ。
「はぁ、俺もここでいいや」
俺は残った油を自分にかけ、火の中に飛び込む。
明澄さんのいない世界なんてもうどうでもよかった。
むかし、むかし畑を荒らすいたずら好きのタヌキがいました。
おじいさんはたくさん策をねってタヌキを捕まえることに成功します。
おじいさんはやっとこれで安心して作物を作れると喜んで、畑を耕しにいきます。
おばあさんは仕事をしようと、台所に向かいますがシクシク泣き声がしました。
声のする方に向かうとタヌキが泣いていました。
「もう、こんなことしないよー、許してよー。」
タヌキを可哀想に思ったおばあさんは”次はしない”と約束をし、タヌキを解いてやりました。
その途端、タヌキの態度は一変。
タヌキはおばあさんに怪我を負わせ、また山に戻りました。
おじいさんが帰ってくるとおばあさんは酷い怪我を負っていました。
それを見た兎は「ならばオラが代わりにタヌキをこらしめてやろう」と薪を背負ってタヌキの元へ向かいました。
タヌキがいつも通ってる道を歩くとタヌキが
「兎や、どこでそんなに薪が取れたんだ?いいなぁ。」
と、羨ましそうに見つめてきました。
それならば半分分けてやろうと、タヌキに薪を半分分けてやりました。
タヌキは大喜びで薪を半分背負いました。
まさか、これが兎の罠なんて知らずに。
兎はタヌキの薪に火を付けました。
薪はみるみる燃えていきます。
「あちぃっっ!」
タヌキは火傷をおってしまいました。
「大丈夫か、タヌキさんや、ほら、火傷に効く薬だよ。」
そう言って兎はタヌキの背中に塩水をかけました。
「いたたたたたた」
兎はタヌキが痛がる姿を見てケタケタ笑って逃げていきました。
これが皆さんが知っている『カチカチ山の狸』です。
ですが、これは時代が進むにつれて1部改変されたものであり、本来のお話は、タヌキの縄をおばあさんが解いてあげるまでは一緒で、
そこからタヌキはおばあさんを斧で頭を真っ二つにして、コロしてしまい、たぬきはおばあさんに化けておばあさんを煮込んで作った「ばばあ汁」を作り、それをおじいさんに食べさせる。
と言ったのが本当の話だそうです。
ふふ、面白いでしょう?
あら、お料理を食べ終わってしまいましたか。
これは残念。
え?この冷や汁もおばあさんが入ってないか?
まさか。笑
こんな私のお話を最後まで聞いてくれてありがうございました。
またの御来店をお待ちしております。