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忙しい一週間が終わり、企画開発部のメンバーと他いくつかの部署とで合同の忘年会が行われた。
乾杯の音頭の後、みんなで鍋を囲みながら思い思いの席へ移動して、わいわいと盛り上がっている。
同世代以下の男女が固まっている席では、流行りの曲や恋愛の話、スポーツについてなど話題が豊富で賑やかだった。
「えーっ!? 朝倉係長の娘さんってあの、みなみちゃんだたんですか!?」
「そうよ、超美人さんなんだから、ね? 朝倉係長」
「あ、あぁ……この子なんだ」
経理の若い女子達に囲まれ愛娘を褒められ、普段辛気臭い顔をしている係長も満更でもなく嬉しそうな表情を浮かべている。詳しい事はわからないが、何かのジャンルでの有名人らしいことは会話の流れで何となく想像が付いた。
理人の隣のテーブルでは、今日の幹事である萩原が、彼の結婚を知った社員たちに弄られている所だった。
「萩原君、結婚するなんて知らなかった!」
「おめでとうございます」
「ねぇ、彼女の写真見せてよ。もしかして、大学時代から付き合ってたって言う彼女?」
「はは、一回別れてたんだけど、2年くらい前に偶然会っちゃってそのままって感じかな。写真は……ちょっと恥ずかしいよ」
「えー、いいな。式はいつ頃なんですか? 新婚旅行は?」
周りの人達から祝福されてデレデレしている萩原は本当に幸せそうな顔をしている。
こうやって、普段あまり見慣れない部下たちの新しい一面を眺めるのが理人は好きだった。
自分から積極的に輪の中に入っていくタイプではないものの、こういう場は嫌いでは無い。
皆がわちゃわちゃしているのを眺めながらチビチビと酒を飲み、鍋をつついていると視界の端に瀬名の姿を見つけた。
何気なくそちらに視線を向けると、彼は少し離れた所で女性陣に取り囲まれていた。今日はいつものもっさりとした頭ではなく、無造作に髪を上げ、惜しみなく色気を振りまいている。女子達に囲まれている彼はやはり、職場で見る男とは別人のように見える。
「瀬名くん、これ美味しいから食べてみて」
「あ、ずるい! 私が先だよっ」
「ははは、ありがとう。あ、そうだ。ついでにこれも食べる?」
瀬名は、自分の器に盛られていた肉と野菜を箸で掴むと、彼女たちの口の前に持っていく。
「瀬名くん優しい~」
なんて甘ったるい猫撫で声を出しながら、上目遣いに瀬名を見つめる視線は明らかに誘いを滲ませている。
よほど自信があるのか、胸を腕に押し付けたり、ボディタッチをしてくる女子達に、瀬名は全く動じる事無く笑顔で対応していた。
「――――」
それを見ていた理人の胸に、何とも言えないざわつきが広がった。
やけに耳障りな笑い声。
距離の近い仕草。
――そして、それを拒む素振りすら見せない瀬名の顔。
「チッ、嬉しそうにデレデレしやがって……」
喉の奥がひどく渇いて、理人はビールのグラスを乱暴に掴んだ。
(……別に、俺には関係ないだろ)
そう心の中で吐き捨てながら、一気に飲み干す。
冷えた液体が喉を通り過ぎても、妙な熱っぽさはまるで消えてくれなかった。
何が女除けだと毒づくと、何となく面白くなくて、理人はビールの入ったグラスを一気に煽った。
どのくらい飲んだのだろう。
瀬名のデレデレした笑顔を見ているのが、なんとなく面白くなくて、いつもよりハイペースでグラスを空けていた自覚はあった。
女避けのために髪型を変えているというなら、今日だって降ろしておけばいい。なのに、何故今日に限って無造作に上げて、あんなふうに色気を撒き散らしているのか。
――好みの女でも来るとでも思ったのか?
普段は瀬名を相手にもしなかった女子社員たちが、目の色を変えて群がっている。
元読モだったと噂の女が太腿に手を置き、派手めな女が競うように腕を絡める。それを瀬名は笑顔で受け流しているが、楽しそうなのは隠しきれていない。
「チッ……ここはキャバクラかよ」
悪態を吐き、運ばれてきた焼酎を一気に煽る。喉を焼く熱さが、そのまま胸の奥に広がっていく。
「ちょ、部長……飲み過ぎじゃないですか?」
「あぁ? 俺がこんくらいで酔う訳ねぇだろ……まだ平気だ」
「でも、目が据わってますよ。怖い顔がさらに……」
視線を上げると、営業部の若い男が心配そうにこちらを見ていた。
中の上、と言っていい整った顔立ち。理人の好みに十分入るタイプだ。
「……お前、綺麗な顔してんな」
「へ? あの……部長……?」
返事を待たず、理人はぐいと距離を詰め、ネクタイを掴んで引き寄せる。
「おら、こっち来い」
「ちょっ……!」
「悪いようにはしねぇよ……」
肩を抱き寄せた瞬間――。
「……何やってるんですか、アンタは」
低く堅い声と共に、乱暴に腕を引かれた。間に割り込んできた瀬名が、理人の肩を抱く。
「おい、邪魔すんな。俺は今からコイツと――」
「ダメです。ほら、行きますよ」
強引に腕を引かれ、ふらつきながら立ち上がる。その視界の端に、さっきまで瀬名を取り囲んでいた女たちが映った。
――あいつらより、自分を選んだ。そう思うと、なぜか気分が良くなる。
「……すみません、萩原さん。二次会のお誘いはまた今度で。部長、酔ってますんで」
瀬名の声をぼんやり聞きながら、半ば引きずられるように店を出る。冷たい夜風が、火照った頬を撫でて心地いい。
「しっかり歩いてくださいよ。まったく……」
「うるせぇ……お前が、安っぽい女どもにヘラヘラしてんのが悪いんだろ」
「……それって」
「チッ、なんでもねぇ」
「ヤキモチ、ですか?」
「なっ!? ち、違ぇよっ」
瀬名はニヤリと笑い、理人の腰に手を回す。
「……可愛いですね」
「死ね」
迫力のない睨みを受け流し、瀬名は理人の首筋を指先でなぞる。
「どこに行きたいです?」
「……言わせてぇのか」
「好きな場所で、抱いてあげますよ」
熱を帯びた声が耳朶を震わせる。理人は瀬名の服を掴み、顔を胸に押し付けた。
「……ホテル、連れてけ」
「仰せのままに」
香水の匂いに包まれ、心臓が甘く疼く。
早く、この男に溺れたくて仕方なかった。
「……あれ? もしかして――鬼塚さん?」
「あぁ?」
振り返ると、若いスーツ姿の男性が立っていて、人好きのする笑顔でこちらに歩み寄ってくる。
夜の街灯に照らされたその顔は、やけに親しげで、妙に距離が近い。
それが東雲だとわかるまで、数秒かかった。
「やっぱりそうだ。いやぁ、相変わらず怖い顔してますねぇ」
「……」
「って、睨まないでくださいよ!」
「……東雲さん、でしたよね」
すぐ傍で、低くうなるような声がした。
腕を組んだままの瀬名の指先が、じわじわと食い込むように理人の腕を握りしめる。
布越しに伝わる熱と圧力が、言葉以上に感情を物語っていた。
「おい、痛ぇよ」
苦笑混じりに声を漏らしても、瀬名は手を緩めない。
まるで「渡すつもりはない」と、無言で主張しているようだった。
「ハハッ、嬉しいなぁ。噂の瀬名君に認識してもらえるなんて、光栄です」
「……噂? 何のことです?」
瀬名の眉間に深いしわが寄る。
「瀬名さんの名前、聞かない日はありませんよ? 社内じゃ“とんでもなく優秀な新人”が入ったって持ちきりですし、よく鬼塚さんの口からも――」
「えっ?」
瀬名の視線が、不意に理人へ向く。
その黒目がちの瞳が、わずかに愉快そうに細められた気がした。
「……チッ、余計なこと言うな」
低く唸るような声に、東雲はにやりと口元を吊り上げた。
その笑みは人懐こさを装っているのに、底の方に何を考えているのか読めない色が潜んでいる。
掴みどころのない男――だが、こういうタイプが一番厄介だ。仕事は確かにできるから、余計に手を焼く。
「だって事実じゃないですか。……ところで、鬼塚さんこそ、なんでこんな所に?」
「それは――」
東雲の視線がちらりと辺りを一周する。 その意味に気づかないほど理人も愚かではない。
昼間は若者で賑わう街も、この時間になれば様子が変わる。 派手な看板が立ち並び、行き交うカップルやホテルの建ち並ぶエリア――。
まさかこんな所で彼と鉢合わせするなんて思っていなかったから、うまい言い訳もすぐに浮かんでこなかった。 下手に否定すれば余計に怪しまれるかもしれないし、誤魔化そうにも、既に遅い気がする。
「……あぁ、もしかして――例の件ですか? 俺が尾行してるんで、鬼塚さん直々に動かなくても大丈夫ですよ?」
「例の件?」
「っ……」
あぁ、なんてタイミングの悪さだろう。
仕事はできるくせに、こういう時だけ口が軽い。
瀬名はまだ何も知らないというのに――案の定、胡乱げな視線が真っすぐ理人へ突き刺さる。
昼間は人通りの多い若者の街も、この時間帯は様相が変わる。
派手なネオン、立ち並ぶホテル、行き交うカップル。
そんな場所で言い訳を探すほどの余裕もなく、理人はただ舌打ちした。
「チッ……興が覚める。こいつのことはどうでもいい、行くぞ」
瀬名の腕をぐいと引き、半ば強引に踵を返す。
「えっ、嘘でしょ……? まさか理人さん、このままお預け……?」
あからさまに残念そうな声色に、背後で東雲がぴたりと足を止めたのが分かった。
「……へぇ」
面白そうに唇を吊り上げる気配。
その視線は、もはや仕事の勘違いなど微塵もなく、別の確信を含んでいる。
「なるほど……そういうことでしたか。ふぅん……?」
「……っ行くぞ!」
居た堪れない空気を断ち切るように、理人はやや不満そうな瀬名の腕を引っ張り、足を早めた。 東雲の含み笑いは聞こえないふりをして――。
「あーぁ、せっかく理人さんと久しぶりに出来ると思ったのに……」
タクシーを止めて乗り込んだ後も、瀬名はまだ不満を垂れている。
「黙れ」と睨むと、ようやく大人しくなって隣に座った。
「恥ずかしいことばかり言うな! お前の頭ん中、そればっかか!」
「そりゃそうですよ。好きな人からあんなに可愛く誘われて、ソノ気にならないわけがないでしょ」
「……っ!」
そうだった――こいつは自分のことを好きだとぬかす、脳内お花畑野郎だ。
今さら思い出し、頭を抱えたくなる。
恋愛なんて自分には縁のない話。
その日限りの関係が楽でいいのに、体の相性がいいからと軽率に誘ったのが間違いだったかもしれない。
「す、好きとか言うなっ」
「何照れてるんですか」
「照れてねぇ。ただ……言われ慣れてねぇだけだ」
たいていの人間は、理人の本性や口の悪さを知れば距離を置く。
もちろん例外もいて、東雲のように面白がってうろつく輩もいるが、瀬名のようにあからさまな好意をぶつけてくる奴は一人もいなかった。
本当に、調子が狂う。
どう反応していいのか分からず窓の外を眺めていると、ふいに伸びてきた手が、するりと理人の腰を引き寄せた。
耳元にかかる吐息がくすぐったくて、思わず身を捩る。
「おいっ!」
「ちょっとだけ、このままで……。こうしてると落ち着くんです」
掠れた甘い囁きに、ぞくりと肌が粟立つ。
そのまま身を委ねていると、運転手から見えない角度で指先が太腿に触れた。
「てめっ、何処触ってんだ!」
「しーっ。静かに、バレちゃいますよ?」
「くっ……っ」
嗜めるように柔らかく耳を食まれ、背筋を甘い痺れが這い上がる。
こいつは一体どこでこんな技を覚えてきたのか――。
唇を噛み、油断すると洩れそうになる声を唇をかんで堪える。
「そういえば、どこに向かってるんです?」
「……っ、れの、家だ……」
「え? いま、なんて?」
聞き返され、顔が熱くなる。そっぽを向き、早口で言った。
「だからっ! 俺の家だ……」
「えっ、理人さんの家……?」
驚いたように身を起こす瀬名を見上げ、思わず牽制する。
「嫌なわけないでしょ。めちゃくちゃ行きたいに決まってるじゃないですか!」
「……っ」
嬉しそうな笑みを浮かべる瀬名を横目に、理人は再び視線を窓の外へ移す。
人目を避けられるとはいえ、自分の家に誰かを招くなんて、どうかしている。
普通なら絶対に許さないことなのに――なぜかこいつだけは、特別扱いしてしまえる。
そんな感覚が悔しくて、ほんの少しだけ怖かった。
その葛藤を悟られないよう、小さく舌打ちし、シートの上で身体を丸める。
「理人さん? その体勢、きつくないですか?」
ぐいと肩を引き寄せられ、胸元へと収められる。
ふわりと鼻腔をくすぐる甘い香りに、頭の芯がじわりと溶かされていくようで――理人は無意識に目を閉じた。
知らなかった。誰かにこうして抱きしめられることが、こんなにも心地いいものだったなんて。
少々飲みすぎたアルコールのせいもあるのか、程よい睡魔が瞼を重くする。
「着いたら起こしますから。寝ててもいいですよ?」
瀬名の穏やかな声が鼓膜を優しく揺らし、そのまま意識は静かに闇の中へ沈んでいった。
タクシーを降り、ホテルのフロントを思わせる広々としたエントランスを抜ける。
間接照明の柔らかな光と、大理石調の床の艶やかさが足元を照らし、エレベーターまでの道のりすら特別な空気を纏わせていた。
上層階に向かうエレベーターの中で、瀬名はきょろきょろと周囲を観察している。まるで遠足に来た子どものように落ち着きがない。
部屋のドアを開けると、瀬名は感嘆の息を漏らしながら一望した。
壁から床、家具まで視線が忙しなく滑っていく。
「へぇ……結構綺麗にしてるんですね。モデルハウスみたいだ。セキュリティもしっかりしてるし……凄い。高かったんじゃないですか?」
「そこまでは無い。中古の1LDKだしな」
素っ気なく返す理人をよそに、瀬名はさらに奥へ進み――ふと半開きになっていた扉に目を留めた。
「……この部屋、何ですか?」
理人は一瞬だけ眉をひそめる。机の上には工具や基板、組みかけの装置が散らばり、棚にはいくつもの試作品が並んでいた。
見せるつもりはなかったが、今更隠すのも不自然だ。見られてしまったのなら仕方がないと小さくため息を一つ吐く。
「……大したもんじゃない。落ち着きたいときに籠るだけの部屋だ」
素っ気なく答えると、瀬名は目を丸くして中を見渡した。
「へぇ……。普段の仕事でも忙しいのに、さらに試作品まで……ストイックなんですね」
理人は肩を竦めて短く返す。
「……まぁ、酒を飲むくらいしか趣味のない男だからな」
言ったそばから、自分でもつまらない言い訳だと思った。
案の定、瀬名はくすりと笑って「エッチなことも好きなくせに」と小声で茶化してくる。
「……ッ、馬鹿」
理人が睨みつけると、瀬名は楽しげに笑った。
真面目に見られるよりはまだマシだが――その瞳の奥に、尊敬めいた光が一瞬混じったのを理人は見逃さなかった。
やがて瀬名は窓際へ移動し、両手をガラスに添えて夜景に見入る。
レインボーブリッジを望むその景色に、うっとりとした吐息が零れた。
「そんなに気に入ったか?」
「ええ。この景色だけで何時間でも過ごせそうです」
返事は上の空。ガラスに映る瀬名の目は、宝石箱を覗き込む子どものようだった。
(……ったく)
理人は微かに唇を歪め、無警戒な背後に忍び寄った。
広い背中に額を寄せ、窓ガラス越しに瀬名の頬に自分のそれを押しつけた。
「……っ!?」
「夜景を楽しむのもいいが……」
ボタンをもうひとつ外し、露わになった鎖骨を晒しながら囁く。
「もっと楽しいこと、しようぜ?」
息を呑む音。肩が硬直するのが掌から伝わる。
「……なんだ、やっぱり理人さんも最初からその気だったんじゃないですか」
ガラスに映る瀬名の口元が、緩やかに吊り上がるのがわかった。
「黙れ」
吐き捨てるように言って、瀬名が振り向いたと同時にネクタイを引いてこちらからキスを仕掛けた。
戸惑う瀬名の口内に舌を滑り込ませ、絡めとるように吸い上げる。
驚きつつもすぐに応える瀬名のキスは熱く、獰猛で。互いの唾液が混じり合う音が、静かな部屋に淫靡に響いた。
「……はっ」
呼吸を求めようとしても許されず、何度も角度を変えられて責め立てられる。理性など焼き切れそうで――。
「理人さん……そんなに煽らないで」
「ずっと、こうしたくて仕方なかったんだろう?」
挑発的な笑みを浮かべて、そっと下半身に手を伸ばすとそこは既に膨張していて。ズボン越しでも分かるくらい主張しているのを指先で確かめる。
「たく、ガッチガチじゃねぇか。いつからこんな風にしてやがった?」
「理人さんの傍に居たら僕はずっと勃ちっぱですよ」
「ハハッ、変態かよ」
「そのくらい、貴方は魅力的なんです」
羞恥心を煽ってくる男を無視してベルトを外していく。チャックをおろしたところで既に下着まで染みができているのが見えて思わず喉仏が上下する。
(こいつのコレって……)
期待で胸が高鳴るのが分かった。
理人は躊躇うことなくボクサーパンツを引き下ろし解放してやると勢いよく飛び出してきた肉棒に釘付けになってしまう。
「やっぱデケェな……」
血管が浮き出た竿の部分を指で辿る。それだけなのに瀬名は小さく息を乱していた。亀頭の先端からは透明な粘液が溢れており糸を引いているのが分かる。
その光景を見ていられなくて直ぐに顔を背けてしまったけれど視線を感じて振り返ると欲情した瞳と目があって慌てて逸らす。
(っ……見られてる)
ドッドッドッと鼓動の音が大きくなっていくのがわかる。きっと今自分は顔から首まで真っ赤になっていてとても人に見せられる様な状態ではないだろう。
それでも止められないのだ。
「理人さん……お願いがあります」
「っ……なに?」
ゴクリッと生唾を飲み込んで問いかけると瀬名は妖艶な笑みを浮かべながら続けた。
「フェラしてくれません?」
「フェ……ラ?」
「そう。今すごく我慢できなくて……舐めてくれると嬉しいな。ダメ?」
「っ……!」
小首を傾げる仕草は可愛らしいものだったが要求している内容は可愛くなんてなくて思わず呆気に取られてしまう。
普段の自分であれば、ふざけるなと一蹴しているところが、今はそんな余裕なんてない。
「チッ。今夜だけだからな!」
「はい! ありがとうございます」
ありがとうってなんだ。気恥ずかしさやら色々な感情が入交り複雑な心境になるがそれらをすべて無視して瀬名の股間に顔を埋めるようにしゃがみこんだ。
口を大きく開き躊躇いがちに口内へと誘い込む。歯を立てないように注意しながらゆっくりと舌を使い刺激を与えていくと、先端からとめどなく体液が溢れてくるのがわかる。
一度口を離してから、また舌でなぞる。理人の口の中で愛撫されていることに興奮しているのだろう。頭上から溜息のような艶のある吐息が落ちてくる。
「っ……ん」
咥えたまま上目使いでチラリと表情を伺えば蕩けたような顔で瀬名がこちらを見つめていた。その視線を受け止めてから更に強く吸い上げると瀬名の腰がビクっと揺れる。その反応を見て気を良くし再度奥までくわえこんだ。
「はぁ……いやらしい眺め……すごっ」
先程よりも大きな質量に苦しむものの何とか収めてみせると根元の方へ向かい舌先を押し当てるようにして舐める。届かない部分は手で扱き、そして時折尿道に吸い付きつつ頭を上下させた。じゅぷじゅぽといやらしい水音を響かせながらしゃぶり続けていると次第に先走りが増していき喉奥まで犯される感覚に陥る。
「っ、理人さん、フェラするの上手すぎ……っ」
「ふんっ……気持ちいいんだろ?」
得意気な表情をして咥えたまま見上げると、瀬名は額を押さえてため息を吐いた。
「あー……、理人さんそれわざとやってるでしょ? あぁ、でも……その顔すっごいクる……っ」
瀬名は興奮した様子で理人の頭を両手で押さえつけると、そのまま腰を打ち付け始めた。
「んぐっ……んっ……んぅ……っ」
突然の事に驚いた理人は咄嵯に瀬名を押し返そうとするが、腰を抱え込まれていて離れられない。苦しさに生理的な涙が滲む。
「っ……くっ……、あー……やばい……これ……」
「んっ……、ぅぐっ……ふっ……っ」
苦しさに顔を歪めても、瀬名のモノが口から抜かれることは無く、頭を掴んだまま容赦なく喉の奥を突かれる。込み上げてくる吐き気を必死に堪えて、理人は歯を立てないように唇を窄めた。
苦しいけれど、頭を掴む瀬名の指先や熱っぽい視線にゾクゾクする。いつもとは違う、支配されているような感覚に理人は密かに悦びを感じていた。
もっと乱暴に扱われたい。滅茶苦茶に犯して欲しい。込み上げる吐き気と共にそんな欲望が頭を擡げてくる。
「はっ……理人さん、も、出そ……っ」
「っ……はぁっ……、いい……このまま、出せ……」
ラストスパートをかけるように、じゅぷっ、といやらしい水音を響かせ激しく抜き差しされる。理人が舌先で鈴口をぐりっ、と刺激してやると、瀬名は堪らず息を詰め、理人の頭を掴んで喉の奥に押し込むように熱い飛沫を放った。
「っ……、はぁ……はぁ……」
「んぐっ……んっ……はぁ……っ」
どくっ、どくっ、と断続的に吐き出された白濁を嚥下していくと、口の端から溢れ出たそれが胸元を伝って流れ落ちていく。
その生暖かい感触にすら感じてしまい、理人はぶるりと身体を震わせて身悶えた。
「っ……、全部飲んだんですか?」
「はっ……たりめぇだろ……」
瀬名の言葉に、理人は眉間にシワを寄せて口元の精液を手で拭いながら答えた。その顔を見て、瀬名がごくりと唾を飲み込み、ほぅ、と息を吐きながら呟く。
「あぁ……顔射したい……」
「……っ変態か! てめぇは」
「理人さんがエロいのが悪いんですよ」
瀬名は理人をソファに引き上げると、後ろ向きに膝立ちにさせ、上半身をシーツに沈ませる。そして、突き出させた尻を撫で回しながら、双丘を割り開いた。
「な……てめっ! あぁっ……!」
外気に曝された後孔がヒクついて収縮するのが自分でも分かる。恥ずかしくて思わず身を捩るが、瀬名にしっかりと腰を抑えられて逃れる事が出来なかった。
「ひくひくしてますよ……ここ。俺のしゃぶってるだけでこんなにしちゃったんですか? 本当にいやらしいな……慣らさなくても入りそうじゃないですか」
そう言うと、瀬名は未だ欲が収まらない楔を窄まりにぴたりと押し当てた。期待で理人の腰が揺れる。理人は無意識のうちに、物足りないとばかりに自ら後孔を押し付けていた。それを見ていた瀬名は小さく笑うと、そのまま挿入せず、先端で入り口を刺激するだけに留める。
ちゅぽっ、ぬちっ……。焦らすように何度も後孔から会陰までを行き来する熱塊にもどかしさを覚え、 強請るように腰を揺らしながら振り返る。
「んっ……! あ……、んんッ、なぁ、も、早く……」
瀬名を潤んだ瞳で見つめ、誘うような仕草で腰を押し付ける。瀬名はそんな理人を見下ろして薄く笑みを浮かべただけだった。
「……どうしようかなぁ? あ、そうだ、さっきの東雲さんって人……理人さんとどういう関係なんですか?」
「っ……は?」
突然何を言い出すのかと振り返ろうとすると、瀬名の指先がつぷっ、とナカに入り込んできた。
「ひゃっ……! んんっ……」
「ちゃんと答えられたら、もっといいモノで激しく突いてあげますよ」
「あっ……、はっ……なんで、そんな事……っ」
「ねぇ、あの人彼氏ですか? それとも、セフレ? 随分挑発的な目で僕を見てましたけど……?」
瀬名は2本に増やした指で理人の中を弄りながら、更に問い詰めてくる。
「っ……んなわけねーだろ」
「じゃあ、セックスしたことは?」
「あ……っんぅ……っ」
ぐちゅり、と瀬名の指が前立腺を捉えて押し上げる。甘い痺れが全身を駆け巡り、理性が徐々に溶かされていくようだった。理人は快感を逃がすように身悶える。
「ああぁっ……! やめっ……そこっ」
「質問にはきちんと答えてください。じゃないと、今日はもうこれで……」
「っ…… 東雲とは……一回だけだっ! 今はもうアイツとはただのビジネスパートナーだからな! 余計な詮索は……ぁあっ」
理人の言葉に納得したのかしていないのか、瀬名の手が止まる。
「ふぅん……寝たことあるんだ。……まぁ仕方がない、か。もう、過去の人なんですよね?」
そう言うと瀬名は再び手を動かし始める。今度は三本の指を使ってバラバラに動かしたり抽挿を繰り返したりしてナカを解していく。
「あ、当たり前だっ! 最近はもう、お前としかシてねぇっ」
理人の言葉に、瀬名は一瞬動きを止め、それから小さく笑った。
「本当ですか? 最近は、僕だけ?」
指をぐるりと回し、腸壁を撫でる。
「んあっ……! だから……っ、何度も言わせんな! ……お前だけだ……!」
そもそも、瀬名が四六時中べったりとくっついて来るのだ。他の男と遊ぶ暇なんてあるわけがない。
もっとも、この男以上に身体の相性がいい人間なんてそうそう居るとは思えないが。
「くそ……っもういいだろ? なぁ、早く……お前のソレを……挿れてくれよ……っ」
理人は自分から尻を突き出すようにして腰を揺らめかせた。早く欲しい。その熱くて太いモノで滅茶苦茶に貫いて欲しい。
瀬名が背後で笑った気配がする。
「理人さんにそんな事言われたら……我慢できるわけないじゃないですか」
言うが早いか、瀬名は指を引き抜くと代わりに怒張した自分のモノを宛てがってきた。
「っ……は……」
瀬名は理人の腰を抱え直すと、ゆっくりと押し進めてくる。
「く……あ…ん、あぁっ……!」
メリメリと腸壁を押し広げながら侵入してくる質量に内臓が圧迫される感覚に陥る。苦しいはずなのに、それ以上の快感に支配される。
「は……きっつい……」
艶のある低い声で耳元に囁かれ、ゾワリとしたものが背筋を這い上がって行く。たったそれだけの事なのに、危うく達してしまいそうになった。
「締め付け凄いな……痛くないですか?」
「んっんっ……平気……だから……もっと……」
理人は懸命に腕を伸ばし、クッションを掴んで快楽に耐える。身体が細かく震え、呼吸が乱れる。奥まで入り込む前に先端で前立腺をぐりぐりと刺激され、強い快感を与えられる。腰が砕けてしまいそうなほどの快感に思考能力を奪われていくようだった。
「はぁっ……はぁ……やばい……持ってかれそう……」
瀬名は息を乱しながら理人の身体を抱き締めると最奥まで穿ちながら肩口に唇を落とし甘噛みをする。その度に中が蠢き瀬名のモノを締め付ける。
「あ……く…っ……!」
理人の口から甘い声が漏れる。
「理人さん……声可愛い」
瀬名が耳元で囁き、腰を揺らめかせながら何度も中を擦り上げる。その度に結合部からくちゅくちゅと湿った音が響き渡り二人の鼓膜を震わせた。
「うあっ……ああ……! 奥……やめ……っ」
「く……理人さん……好きです……大好きだ……」
「んんっ……! あ……あ…瀬名……っ」
瀬名の動きが激しくなり最奥まで到達するたびにバチンと皮膚同士がぶつかる音が響く。内臓ごと押し上げられるような圧迫感があるはずなのに痛みを感じることはなく寧ろ気持ちが良くて仕方がない。
瀬名の荒々しい吐息が耳にかかりそれすらも刺激となって体を熱くさせた。
瀬名は理人の中を蹂躙し尽くしながらも時折思い出したように首筋や背中に口づけを落とす。その度に痙攣し肉棒を締め付ける。絶え間なく喘ぎ続ける理人に気をよくしたのか瀬名は何度も腰を打ち付ける動作を繰り返した。
「んあっ……あ…そこ……おかしくなる……っ」
「いい反応。理人さん、好きでしょう? ここ、突かれるの」
「あ……んっ! あぁ……! や……めっ…く、ぅっ、ぁっ、ああ!」
「いいですよ……いっぱい感じてください……」
瀬名の言葉に応えるように理人はいやらしく身体をくねらせる。その姿を見た瀬名は目を細めると理人の首筋に顔を埋めて強く吸い上げる。そしてそのまま舌を這わせ舐め上げる。
「んあっ……! あぁ……!」
その感覚にぞくぞくとしたものが走り抜けた次の瞬間には鋭い痛みを感じる。痛みすらも快感に変えてしまえるほどの快楽に溺れてしまいそうになる。
瀬名は理人の腰を掴むと激しく腰を打ちつけ始める。パンパンッと乾いた音が部屋中に響き渡りそれとともに理人の悲鳴のような嬌声が上がる。
「ああぁっ! やぁっ……! だめ……っ! ダメだ……! も、出る……っ」
あまりの激しさに恐怖すら覚え瀬名に懇願するように叫ぶが止まる気配はない。
「理人さん……一緒に……」
「 あぁっ!」
絶頂を迎える寸前で瀬名が動きを止めると中からずるりと引き抜く。そして直ぐに仰向けにされ脚を持ち上げられると再び中に入ってくる。
「ひっ……!? 待っ……! てめっ……ぅ、あっ、ぁあ!」
絶頂を迎えたばかりで敏感になっている体内は再び侵入してきた異物によって強い刺激を与えられ強制的に新たな快楽を呼び起こされる。絶頂後の脱力感から逃れることができず抵抗も出来ないままされるがままに身体を揺さぶられ続けた。
「あっ! あ……っ! や……っ! ダメ……またイく……!」
「何度でもイケばいいじゃないですか……ほら……!」
瀬名は理人の腰を抱え直し一際強く突き上げると最奥に己の欲望を注ぎ込む。それとほぼ同時に理人も大量の白濁液を吹き出した。
「はぁ……はぁ……」
「くっ……理人さん……最高……」
「っ……ふざけんな……っ」
まだ足りないとばかりに中に留まったままの瀬名のモノを締め付けてしまう。それに呼応するかのように再び硬さを取り戻した肉棒に理人は目を見開いた。
「嘘だろ……」
信じられないと言った顔で見つめる理人に構わず瀬名は律動を再開する。先程出した精液のおかげで滑りやすくなった腸内で暴れ回る肉棒は更に質量を増して内部を押し広げてくる。そのあまりの圧迫感に理人は悲鳴を上げた。
「ひっ……! ま……まだヤるのかよ……?」
「何言ってるんですか? まだまだこれからですよ? 僕を散々煽った責任は取ってもらわないと。ね?」
「ふ、ふっざけんな! てめっ、動くっ、なっ、ぁあ!」
瀬名の手が腰を掴み激しくピストン運動を開始する。同時に乳首を摘み上げられてしまえばもう為す術はなかった。 夜はまだまだ長い――。
気が付くと見慣れた天井と照明が目に入った。
頭はガンガンと割れるように痛いし、おまけに腰も尻も痛い。
今、何時頃だろうか? 寝返りを打とうとして、視界いっぱいに瀬名の寝顔が見えてドキンと心臓が大きく跳ねた。
「おい、寝てんのか?」
「……」
問いかけてみても、返事はなく代わりに規則正しい寝息が聞こえてくる。
「チッ、気持ちよさそうな顔しやがって……っムカつく」
言いながらモソモソと布団の中に潜り込むと、瀬名の懐に収まるようにして身体を寄せる。温もりが心地よくて離れ難い。
『――理人さん……愛してます――』
意識が落ちる瞬間に言われた言葉が脳内にリフレインしてきて、じわじわと頬が熱くなるのを感じた。
愛だの恋だのくだらない。そう思っていたはずなのに、それが妙に心地がいいと言うか、くすぐったい。
若くて顔が良くて都合よく遊べる「セフレ」 本当なら一夜限りの関係だったはずなのに、身体の相性が良すぎるせいでずるずると関係を続けてしまっている。
宴会の席での女子に対する反応を見る限り、きっと瀬名は他の女性ともそう言うことが出来るのだろう。何も理人だけが特別なわけじゃない。それを考えると何故か胸の奥がズキリと傷んだ。
「ん……理人さん……?」
「っ……」
不意に瀬名が目を覚まし、驚いた理人は慌てて距離を取ろうとしたが時既に遅し。瀬名は理人の身体を引き寄せて抱きしめると、首筋に唇を寄せて強く吸い付いた。
「っ……! ばか、見えるとこには……」
「大丈夫です、服着てれば見えないところに付けましたから」
「そういう問題じゃねぇよ」
理人は眉間にシワを寄せて瀬名を睨みつける。だが、瀬名はお構いなしと言った様子でニヤリと笑った。
「昨夜の理人さん、凄く可愛かったです」
「うるせぇ、黙れ」
なんだか恥ずかしくなって上掛けごと背中を向けると、瀬名は背後から抱きついてきた。瀬名の体温を全身で感じて鼓動が速くなっていく。
「理人さん……好きです」
「……」
「ずっと一緒に居たい……」
瀬名は切なげな声でそう言って、理人を包み込むように抱きしめてくる。
「……会社でずっと一緒じゃねぇか」
「それでも足りないんです」
「お前なぁ……」
ため息をつくが、その腕を振り払う事はしなかった。
「お前みたいな絶倫と一日中一緒に居たら俺の身体がもたねぇよ」
「でも、好きなんでしょう? 僕とのセックス」
「……調子乗んなよ、クソガキが」
悪態を吐くが、どうにも甘くなってしまう。理人は瀬名に向き直って軽く口づけると、その耳元に囁いた。
「……まあ、嫌いじゃない」
「ふふっ、素直じゃないですね」
瀬名は嬉しそうに笑って理人の身体を抱き寄せ、啄むようなキスをする。
冷えた朝の空気が甘い熱を帯びて部屋いっぱいに広がっていく。
「……そう言えば、お前なんで昨夜は髪の毛上げてたんだ? 女除けのつもりならいつもみたいに前髪被せとけばよかったじゃねぇか」
「え? あぁ、アレ……ですか? あんな風にして女性に囲まれてたら、理人さんヤキモチ妬いたりしてくれないかなぁって思って」
「……は?」
予想していなかった答えが返って来て、思わず理人の口から間の抜けたような声が洩れた。
「まぁ、あくまでも希望的観測だったんですが。まさかあんな風なヤキモチの妬き方するなんて……」
「じゃぁ、なにか? 俺は最初からお前の手の平の上で転がされてたって事か」
「まぁ、簡単に言っちゃえばそうですね。ヤキモチ妬く理人さん可愛かったですよ」
「っ……!」
瀬名はクスッと笑いながら、理人の身体をベッドに押し倒す。
「おいっ! お前は何しようとしてるんだっ!」
「何って……ナニですけど?」
「ふざけんなっ! 昨日散々ヤっただろうがっ!」
「僕はまだ足りません」
「この性欲魔人が……っ!」
「誉め言葉として受け取っておきます」
「褒めてねぇから!! って、おいっ! 話を聞け!!!」
朝の澄んだ空気に理人の叫びが響く。瀬名は楽しげに笑いながら、抵抗する理人に覆いかぶさった。