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「――あ……、理人さん。あれ、岩隈(いわくま)専務じゃないですか?」
「んぁ? んだよ……んなわけ……っ」
居酒屋を出てすぐのホテル街。瀬名が指差す先を目で追った理人は、言葉を失った。 そこには、若い女性を連れた会社の上司――岩隈専務の姿があった。 奥さんというにはあまりに幼いその女の顔に、理人は見覚えがあった。
「……あれ、どう見ても女子高生ですよね?」
「……朝倉の娘だ」
「えっ!? はぁっ!?」
瀬名が驚愕の声を上げる。 「何回も飲み会で写真を見せびらかして自慢してたからな。間違いねぇよ」
「マジですか……」
パパ活。若い女の子がお金と引き換えに、大人の男性と肉体関係を持つ――。 明らかに鼻の下を伸ばした専務が、少女の腰を抱いてホテルの中へと吸い込まれていく。そのあまりに醜悪で、かつ身近な裏切りを呆然と見つめていると、不意に背後から声をかけられた。
「……あれ? もしかして……鬼塚さん?」
「あぁ?」
振り返ると、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべたスーツ姿の男が立っていた。
「やっぱりそうだ。いやぁ、相変わらず怖い顔してますねぇ」
「……」
「って、睨まないでくださいよ!」
「誰ですか?」
耳元で瀬名が警戒心を含んだ声で尋ねる。理人が答えるより早く、男は上着のポケットから名刺を取り出し、瀬名に差し出した。
「あ、すみません。俺、東雲 薫(しののめ かおる)って言います」
「職業、探偵……ですか。すみません、今名刺を持ってなくて。鬼塚部長の部下の瀬名です」
「へぇ、部下の、瀬名さん……」
東雲の目が眇められ、意味深に瀬名を舐めるように見つめる。
「なんですか」
「いえ、なんでもありません。ところで、お二人はこんなところでナニを……って、聞くまでもないですよね」
「……っせーな」
理人は苦々しく舌打ちをした。
「あはは、すいません。ちょっと声をかけただけなんで、気にしないでください。じゃあ、また機会があれば」
東雲は颯爽と立ち去っていった。その背中を見送りながら、瀬名が不審そうに口を開く。
「今の人、知り合いなんですか?」
「……別に、どうでもいいだろ」
理人はそう答えると、目の前のホテルを見上げた。専務たちの残像が、泥のように胸に溜まっている。
「チッ……興が削がれた。行くぞ」
「えっ、嘘でしょ!? まさかこのままお預け……?」
「…………ごちゃごちゃ騒ぐな馬鹿。目立つだろ!」
踵を返してタクシーを拾う。早く乗れと瀬名を促すと、理人は車内に逃げ込むように座り込んだ。
「ちょっと、理人さ……」
「だからっ、うるせぇって。……その……俺ん家でいいだろ」
「えっ、理人さんの家……?」
「嫌なら無理にとは言わねぇけど……」
理人が照れて目を逸らした瞬間、瀬名が勢いよく隣に乗り込んできた。
「……行きます。行かせてください」
行き先を告げ、タクシーが夜の街を走り出す。
「理人さん、俺が嫉妬深いの知ってますよね? あの男とどんな関係か、後できっちり聞かせてもらいますから」
「チッ、てめぇは黙ってヤる事だけ考えとけ」
理人は瀬名の太腿の付け根に手を置くと、わざとらしく撫で上げた。挑発的な笑みを浮かべる。
「ちょ、どこ触ってんですか」
「あ? 文句あんのか」
ニヤリと口角を上げ、手探りで瀬名の中心をスラックスの上から鷲掴みにした。
「なっ……! 理人さんっ」
「なんだ?」
「くっ……、この、酔っ払い……っ」
「今夜は……これで、楽しませてくれるんだろ?」
「ほんっと、タチ悪い……」
瀬名は苦笑すると、理人の手を掴み、指先にちゅっ、と淫らな音を立ててキスをした。
「期待に応えられるよう、頑張りますよ」
「上等じゃねぇか……」
暗闇の中で二人の唇が重なる。 タクシーの密室は、一瞬にして濃厚な熱に支配された。