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#ブラフラ
なみゃ
20
skbn
11
て ぃ あ ら 。
2,081
8
「はぁ……。」医局へ戻った瞬間、机の上に積まれた資料が視界いっぱいに広がった。
今日の午後は海外大学との合同公開手術。
資料の一枚目を開いた途端、小さく肩を落とす。
「……全部、英語か。」
思わず天井を見上げた。
必要なのは理解だ。そう分かっていても、朝から英文ばかり追い続ければ目の奥まで疲れてくる。
私は資料を脇へ寄せ、先にカルテへ手を伸ばした。
入院患者の昨夜の睡眠時間。
食事量。
表情の変化。
看護師から申し送りを受け、一つずつ確認しながら書き加えていく。
「佐伯さん、今日は笑っていましたよ。」
「そうですか。」
ペン先が静かに紙を滑る。
カルテを書き終えると、私は机の引き出しから一冊のノートを取り出した。
少し擦り切れた紺色の表紙。
背表紙には、白いラベルで小さく名前が貼られている。
──佐伯恒一
ページを開いてページ一つひとつに目を通し、変化を見る。
《六月二日》
点滴の最中、「今日はよく眠れました」と初めて自分から話してくれた。
窓を開けると、「風の匂いがする」と笑った。
私はその一文の横に、小さく丸をつけた。
このノートは診療記録ではない。
患者が今日、どんな一日を生きたのか。
どんな言葉を零し、どんな表情で笑い、どんな沈黙を抱えていたのか。
誰にも提出することのない、その人だけの物語だった。
気づけば机の隅には、同じノートが何十冊も積み重なっている。
人は病名だけでは語れない。
一冊読み終えるたびに、そう思う。
人間は、いつだって未完成の小説なのだから。
「やはりすごいですね、白藤先生。」
「まぁ、好きでやっているので。」
ノートを眺めながらふとインクの香りが鼻をくすぐる。
―そういえば…。
高校時代の文芸部でもノートに文章をずっと書き込んでいたような気がする。
「…うわっ。」
思わず顔をしかめ、マグカップに入っていたコーヒーの苦さで過去の記憶を抹消する。
―やめよう。
あの日々の思い出は思い出すようなものじゃない。
湯気の立つマグカップを机へ置いた、そのときだった。
コン、コン。
「白藤先生、そろそろ……。」
ドアの向こうから看護師が控えめに声をかける。
「……もうそんな時間でしたか。」
壁の時計を見る。
午前十時半。
月に一度だけ予定表へ必ず書き込まれる時間だった。
自分が診る側ではなく、診られる側になる、数少ない時間。
白衣の裾を整え、冷めかけたコーヒーをもう一口だけ飲み干す。
苦味だけが喉の奥に静かに残った。
コメント
1件
うわあ…第12話、めっちゃ沁みた…😭💕 白藤先生が患者さんのために紡ぐ「未完成の小説」、その視点がもうエモすぎるよ…!病名じゃなくてその人の生きた軌跡を残すって、なんかすごく尊い… 最後の「診られる側になる時間」の苦さも、先生の過去がチラついて気になる〜! 次回も絶対読むね、続き楽しみにしてる⋆♡