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#ブラフラ
なみゃ
20
skbn
11
て ぃ あ ら 。
2,081
8
「失礼します。」
寺坂源哉(げんや)と書かれた診察室の扉を三度ノックした。
「どうぞ。」
中からは年相応の男性の声が帰ってくる。優しさと、包むような安心感を与える声。
その声に吸い寄せられるように私は中に足を踏み入れる。
「今日は仕事に没頭しすぎたかな?少し遅れるとは珍しいね。」
寺坂先生は笑いながら椅子に座るように促す。
「今日は午後から研修があるので。」
そう言いながら椅子に腰を下ろすと、寺坂はカルテを持ったまま笑っていた。
「実に君らしくて結構だよ。さて…。」
真っ直ぐに私を見つめるその視線は患者を診る医師そのものだ。
「最近はどうかね?まず今日の睡眠時間はどうだい?」
「三時間ほどです。」
「途中で目が覚めてしまうのかい?」
「はい…。」
カルテには踊るかのようにペンが紙の上で軽やかに滑っていく。
部屋はカルテに言葉が連なる音だけが満ちていく。
「次に食事ね。」
「摂っています。」
「よし、頭痛はどうかな。」
「少し。頻度も週に二回あるかないかなので仕事に支障はありません。」
寺坂先生は微笑んだままカルテからは目を離さずに本題を尋ねる。
「空白の時間は。」
思考の森に落ちている時間帯のことなのだろう。
私は少し悩んで黙った。
「…ありません。」
ペンを滑らせる音が止まって沈黙が流れる。
「本当に?」
「はい。」
嘘だった。
真実に気づく前も後も、日々朔とは交代している。
「白藤くん。」
「はい。」
「君は医者だ。」
「……。」
寺坂先生はカルテをデスクにおいて、椅子に座り直す。
「医者だからこそ君は自分自身を診ない。」
その心が胸の奥に不覚に沈む。
私は一切反論できなかった。
患者には『無理をしないでください』と言える。
『休んでください』とも言える。
それなのに、自分へ向ける言葉だけは、どうしても見つけられない。
寺坂先生は机の引き出しから処方箋を一枚取り出した。
「はい、いつもの薬ね。」
「ありがとうございます。」
「それと。」
先生は眼鏡を外し、穏やかな目で私を見つめる。
「最近は朔と話しているのかい?」
部屋を出ようとしていた足が止まる。
その名を知るのはこの病院でも朔の彼女の神崎と、担当医の寺坂先生だけしかいない。
「…少しだけですが。」
「そうか。」
それ以上先生が踏み込んでくることはなかった。
聞かずともわかっているからだ。
私も、朔も、二人だって。
四人だけが知る、誰にも話せない秘密だった。
「今日は海外との合同手術だったな。」
「はい。」
「無理はするな。」
「医者が無理をしなければ、誰が患者を救うんですか。」
思わず口をついて出た言葉だった。
先生は困ったように笑いながら頭をかく。
「その考えが一番危険だよ。」
私は返事をしなかった。
返せなかった。
「白藤。」
「患者を救う前に、自分を壊すな。」
扉が静かに閉まる。
その言葉だけが、いつまでも胸の奥で響き続けていた。
コメント
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第13話、拝読しました。 寺坂先生の「患者を救う前に、自分を壊すな」という言葉が、じんわり胸に残りましたね。医者でありながら自分を診られない白藤さんの葛藤と、朔さんの存在の秘密——二人分の重みを背負う姿が切なかったです。診察室の静かな空気感と、先生の優しくも鋭い問いかけが、とてもリアルで引き込まれました。続きが気になります🕊️